第2話ー3.幼馴染とロボット
あっという間に週末が来てしまった。特にやることがなかったので、僕は唯一仲のいい女性、
で、とある家電量販店のエントランスにあるベンチに腰を掛けていると、白いカッターシャツに赤チェックのスカートを履いた女性がいた。
「結香!」
「直くんお待たせ!」
今、僕の前にいるのは幼馴染の北原結香。茶髪のツインテールがトレードマークで、目は大きく、唇はぷくっとしていて、鼻筋も綺麗だ。そして実は僕も一目惚れしてしまったことがあるほどかわいらしい女性だ。彼女は中二の時、家族総出で引っ越ししたが、今はまた家族で帰ってきているようだ。今はこの家電量販店近くにある立志産業学園の大学院に通っている。
「せっかくの休みでのんびりしたかったのに~」
「そんなこと言わないでよ。凹むからさあ」
「ちょっとぐらい凹んでもいいじゃん」
「いや、かなり凹むぞそれ」
「まあいいわ」
「って、何でまあいいわで済ます?」
「近況報告したいんでしょ? 早く話してよ」
「分かったよ。聞いて驚くなよ!?」
「そんなに面白いことがあったの?」
「面白いかどうかは分からないけどあったよ。最近、会社は変わらないんだけど、なんかアイドルを作る仕事をさせられてさあ」
結香は黙り込んでしまった。なんとなく怖い沈黙が流れた。
「直くん? 頭おかしくなっちゃったかな?」
「ぐぬぬ……」
いや、そこまで厳しい台詞を言われるとは思っていなかった……。本当にあったことを話しただけなのに……。
「いや、本当だってば!」
「直くんって工場だったよね? どうやってアイドル作るの?」
「いや、会社でさ、アイドルを作れって」
「直くん。最近バカに磨きがかかってるよね? 元からバカだけど」
普通に失礼だろ。バカに磨きがかかったって。あと、僕は元からバカだったのか?そうとしたら余計に凹む。
「僕は元からバカだった覚えはないんだけど」
「うーん、でもね、工場でアイドルを作ってるのはやっぱりバカだ」
「いや、それは工場側が原因なような……」
「だったら断ればよかったのに。こんなバカな事は出来ませんって」
学生までなら結香の言うとおり断れば済むが、会社では一度出された命令はどんな馬鹿げたものでも引き受けなければならない。
「そう言うわけにもいかないんだよ」
「え? まさか会社側に直くんのバカがばれたとか」
「んな訳ねーよ!」
これ以上バカバカ言われたらこっちももう精神が持ちそうにない。
「でも、話自体は面白いかも」
「そうでっか」
「何よ? その適当な返事?」
もうついていけないや。でも面白いなら話す価値はあるかも。
「結香? この後時間空いてるかな?」
「今会ったばっかりだよ。どうしたの?」
「場所を変えよう。今の話をとことんしてやる」
「いいよ。でも信じてないからね」
「信じてないのかー……」
「うん」
僕達の場所の変えた先はこの店の隣にあるセンマイコーヒーだ。センマイコーヒーと言えば二宮さんが勤務している会社だ。
「センマイコーヒーに行こう、結香が信じるまでいくらでも話してやる」
「お願いね。信じないけど」
まあ、そんなことを言っていられるのも今のうちだ。絶対に信じさせてやる。
センマイコーヒーの中に入って注文を終えた後、席に着いたらさっそく結香が僕に顔をぐっと近づけて人差し指を立てる。結香の方を見ているが顔が近くて目のやり場に困る。
「で、そのアイドル作りってどういうものなの?」
「うん、実はもう一人決まっていて」
「そうなの?」
僕は辺りを見回した。ここに二宮さんがいればいいんだけど……。いるわけないか。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
まあ、ここに二宮さんって言う証拠があればよかったのだが……。
「それで、その人はどんな人?」
結香はさらに話を深く追求してきた。それと同時に結香の子供っぽい可愛い顔も近付いてくる。やばい、答え方によっては結香にどう返されるか分からないのと、彼女の顔が普通にかわいいことでドキドキしてきた。
「いやそれが、ダンスはキレッキレで背も高くてさ、いかにも体力がありそうな女性でさあ」
「あたしには無理だ」
いや、すぐに諦められては困る。今日、一応結香を誘ってみることにしていたんだから。この状態だと無理そうだけど。
「結香の体力がないことは分かってるよ」
「うん。って、そんなところだけ分かんないでよ!」
「だって、昔から鬼ごっこしてたらすぐ減速してたじゃないか?」
「だってあれ疲れるんだよ?」
「そうかな?」
「だってずっと走ってないとダメだから」
「まあ、そうなんだけど」
でも、鬼ごっこで走るのって大したことじゃないぞ。いや、こいつまさか全力で走ってたんじゃないだろうな?
「いや、そんなにいつまでも全力で走れるわけないじゃん!」
やっぱり。鬼から逃げきったらそんなに真剣にならなくていいんだが……。あれは。
「それはいいんだけどさ、そう言う女性が入ったんだよ」
「へえー。他にどんな人がいるの?」
紅藤さんがいるけど話をしたところでどうせ宇宙人がなんだと馬鹿にされるから避けていたが話さないといけないようだ。
「あと、宇宙人が一人」
「あのー。頭、大丈夫?」
やっぱり信じてもらえなかった……。
「それが本当なんだよな」
「でも、最近UFO騒ぎはなかったし」
確かにそうだ。どう説明すればいいんだ?
「なかったな」
「そうでしょ? ちょっとそれは信じられないなあ」
「そうだよね?」
「って、何話を終わらせようとしてるのよ」
「いや、結香が押し切ろうとしてるんだよ」
「だって、宇宙人なんているわけないじゃない。あたしたちとは無縁だわ」
「結香は理系だからな。ってそれなら信じるんじゃないのか?」
「いないものはいないのよ」
「うーん。どう言ったら信じてくれる?」
「証拠はあるんでしょ?」
「え?」
「あるんでしょ?」
「一応、本人はいるけど」
「会わせてよ」
「うーん、今度会わせてやるよ」
「楽しみー」
うん、結香と紅藤さんを会わせないといけなくなった。どうしようかと言うところだが、結香自信の気持ちはどうなんだろう? アイドルについてどう思っているのか?
「で、結香はもしそう言うアイドルをしてくれって僕が言ったらやる?」
「アイドルかあ、面白そうだけど、あたし自信ないんだよね、アイドル」
微妙な返事が返ってきた。今は話自体を信じてないからあれだけど、僕が押し切ったら結香はアイドルになってくれるのかもしれない。
僕は、この後、結香の近況も聞いて、そこそこの時間、センマイコーヒーで過ごした。
********
次の日、僕は久々に現場に復帰した。そして今は織田さんに呼ばれ、現場事務所へ向かっている。何やらお願いごとがあるらしい。
「吉田さん、見せたいものがあるので、仕事が終わったらいいですか?」
「見せたいものですか?」
「はい」
それ以上は何も言わなかった。一体、何を見せたいのだろうか?
そしてその日の帰り、織田さんと一緒にとある場所に向かうことになった。それは、工場でも西の方にある保管倉庫だ。
「保管倉庫がどうしたんですか?」
「いや、今日行くのはこの西の部屋です」
見てみると保管倉庫の隣にもう一つ部屋があった。ここには来たことがないので、工場内にこんなところがあったとは知らなかった。織田さんはその部屋の扉を開ける。
そこには、何もない狭い空間が広がっていた。なんでこんな何もないところに用事があるんだろう?
「あの、この奥なんですが、そこで見てもらいたいものがあります」
と、織田さんに言われるままに進んでいった。よく見ると、織田さんは笑顔だ。
織田さんについて行って扉の奥に入った。すると、そこには古そうな機械がいろいろと置いてあった。薄暗い、気味は悪くないが何が何だかよく分からない部屋だ。そこを織田さんは古ぼけた機械をかき分けるようにして前へ進んでいく。
奥まで行って、目の前にいたのは、女の子の形をしたロボットだった。そのロボットは、いや、彼女は髪の色が青く、瞳も青い。顔はシリコンか何かでできているのだろうか?
肌は白く、ちゃんと黒地に白いフリルのついた、メイド服っぽいものまで着せられていた。そして、まぎれもない美人だった。なんだか顔が熱くなってきた。相手はロボットなのに。
「すごい! これは? 織田さん……」
「これは現場で最近作られた音声合成ロボットです」
と、説明する。
「こんにちは、誰なの?」
と、目の前のロボットが話した。僕は驚いたが、反射的にあいさつした。
「こんにちは」
「こんにちは」
僕があいさつすると、織田さんは彼女について説明した。
「彼女は音声合成ロボットの
「私は、江坂海音と、いいます、よろしく、お願い、しま、す」
「ああ、僕は吉田直之という、この会社の社員です。よろしくお願いします」
彼女は自己紹介をした。かわいい声だが、しゃべり方はロボット独特のしゃべり方だ。その話し方を聞いて僕は思わず笑顔になってしまう。名前を紹介した後に、僕は江坂さんのことを聞いた。
「江坂さんはどういうロボットなんですか?」
「はい。音声、合成、ロボット、と、いう、もの、を、言う、または、説明に、使われる、ロボット、です」
「歌は歌えますか?」
「はい。ちょっと、歌ってみま、す」
江坂さんが歌を歌う。その歌は、僕の心を大きく刺激されるような美声で、僕のすべてが硬直してしまった。
「まさか、ここまで歌えるとは……」
と、織田さんも驚きを隠していない。
「で、どうなんですか? 吉田君」
「また行くよ、江坂さんに会いに」
「吉田さん、また、来てください」
江坂さんは「うれしい」と言いながら、きれいな笑顔を見せてくれる。僕は彼女に心を奪われたのかもしれない。ロボットだけど。
「その前に、江坂さんはアイドルには興味ある?」
「はい。織田さんから、さっき、聞いたの、ですが、ぜひ、やらせて、ください」
織田さんの事前説明があったとはいえ、こんなにもすんなり承諾してくれるとは! まあ、こんなにかわいく、使い道もあるのにここにいちゃかわいそうだ。そう思った僕は、江坂さんを絶対アイドル、そして歌姫にしてやろうと思った。
更衣室に戻る際に僕は織田さんに質問した。
「僕に江坂さんを紹介したのはなぜですか?」
「吉田さんが作曲について悩まれてるようだから、彼女だと役に立つだろうと思いまして、それに」
「それに」
「これも仕事ですから、上手くいかなければ、プロジェクト自体が無くなるでしょう」
「そうなんですか?」
あー、やはり。これは緊張するな。
「そうですよ。まあ、松田さんから直接聞いた話ではないですけど」
まあ、仕事でするって言うことはそうだろう。これからはより一層気合を入れてやらないと。にしても、海音は作曲する上で役に立つのだろうか? 僕はそんな気はしないけど。
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