第2話ー2.運動神経抜群アイドル

 次の日、ついに何もすることがなかった僕は資料室でゲームをしていた。入社して数か月ぐらいからなんとなく予感はしてたが、僕もついに窓際社員になってしまったようだ。と、思っていたら二宮さんが転移してきた。


「来ちゃいました……。一人目のアイドル、見つかりましたか?」

「……いえ」


 と、僕が答えたら二宮さんは後ろを向いた。彼女にアイドルを探しましょうって言っておいて誰も見つけられなかったんだ。怒らせたかな。すると、二宮さんは厳しめの声で返答した。


「そうですか」

「声は掛けたんですけど、どうもその子が極度の恥ずかしがりのようで、今すぐには入れないと」


 僕がそう話すと、二宮さんは再び僕の方へ体を向けた。


「うふふ、その子、シャイなんですね」


 シャイか、まあ、そうだとは思う。あまり喋らないから。


「うふふ、もうそろそろ時間ですね。今日、仕事が終わったらここに向かいますね。どうやら転移でここにいられる時間が限られているみたいなので。もっと話がしたいです」

「え!? 分かりました。一応、住所と簡単な地図を渡しておきます」


 僕は二宮さんの突然の発言に驚いた。もっと話したいと言ってくれるのも嬉しくて、舞い上がりそうになりながらも、僕は無事に道案内を書き終えた。


「ありがとうございます! また夕方に会いましょう!」

「えっ?」


 二宮さんはそう言っているが、本当に夕方に来てくれるのだろうか? 二宮さんがもっと話をしたいと言ってくれたことは嬉しい、僕ももっと話がしたい。僕はそれが言えないまま、彼女は壁の中へと消えていった。


 半信半疑のまま、僕はただ二宮さんを待つというだけの残業をしていたら、六時に、本当に彼女はやってきた。


「来ちゃいました」

「本当に来たんですね」


 そう言いながらも、僕は会社の駐車場で待機してた。念のためなんだけど。僕は二宮さんを会社の中へ案内した。


 とはいえ、うちの会社はカードで鍵を開けなければいけないのを忘れていた。事務を通してなんとか手配してもらった。


「待たせてすみません」

「こちらこそ急に押しかけてごめんなさい」

「いえ、謝ることではないですよ」


 もう夕方なのに余計に時間が遅くなってしまった。ちょっと急がなければ……。


「こちらへどうぞ」


 僕は二宮さんを資料室まで案内した。


「さあ、何から話しましょうか?」

「何から話しましょうか? ああ、今日、動画を見てたんですけど、こんな感じのものかな?」

「私もよく分かりません。こんな感じなのかな?」


 僕は動画サイトのリストの一番上の動画を二宮さんに見せた。二宮さんは体を動かし始めた。踊って見せるのかもしれない。


「うーん、こんな感じかな」


 二宮さんは動画と動きを合わせ始めた。


「こんな感じかな? うーん、いいか」


 少し体を動かした後、二宮さんは少し下がった。そして踊り始めたんだが……。


 二宮さんはキレッキレのダンスを披露してくれるではないか! しかも手や足もピンと伸ばし切っているし、早い動きのダンスも華麗に決めてくれた。二宮さんは一通り踊ったが、あまり疲れていないようだ。この季節、資料室も暑いが、汗はかいていないし、息も上がっていない。踊ったのは一番だけだったが、二番もいけそうだった。


「どうですか?」

「完璧じゃないですか。もう一番行けそうですね」

「もう一回踊りましょうか?」


 二宮さんはもう一回、同じダンスを踊って見せた。やはり何度やってもいい。キレが良く、最高である。二宮さんはアイドル入りを渋っているが、僕はぜひ入ってもらいたいと思っている。


「どうでした?」

「何度やってもいいよ」


 僕は興奮しすぎて敬語を使うのを忘れてしまった。それだけ彼女のダンスが凄かった。これを疲れた感じもなく踊ってくれるのでいい。さあ、どうやって入れようか?


「あの、二宮さん」

「はい」

「もしよければ、アイドルになってくれませんか」

「いいですよ。そんなに改めなくても」

「入ってくれるんですか!?」

「はい」


 予想していないほどすんなりいけた。僕が感極まって喜んでいると、あ、もうこんな時間、と二宮さんが言う。僕は二宮さんを会社の玄関まで送り届けた。


 と、言うことで、今日はアイドルの一人目が決まった。二宮さん、ありがとう。僕はこの日を忘れることはない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る