第2話ー1.アイドルを探しましょう

「おはようございます」


 今日も、まずは現場に立ち寄ってから行くことになる。


「おはよう」


 松田さんが颯爽とやってきた。


「あの、昨日女の子は?」

「無事だ」

「良かったです」

「あと!」

「何でしょうか?」

「これから何か報告する時には織田君を付けといたから、奴に報告してやってくれ! ついでに昨日の女の子も織田君が面倒みてやってるから、お礼言っとけよ」


 と言って、松田さんは去った。つまり、もう明日からは現場に来なくていいそうだ。代わりに織田さんがこっちに回ってくるらしい。


 そして早速だが、今日は二宮さんと紅藤さんをアイドルに引きこむ良い方法はないかと考えたが、何も思い浮かばない。


 そこで僕は気分転換に資料室を飛び出した。すると、男女二人が僕の横を通り過ぎる。誰だ?


「吉田さん、おはようございます。今日からよろしくお願いしますよ」

「よろしくお願いします」

「おは……」


 彼が織田哲広おだ てつひろさんである。織田さんは背が高くて多くの女子が喜びそうなイケメンである。紅藤さんも同伴なようだ。ちなみに紅藤さんは背が低くて美人なので、二人が並ぶと芸能人のように見えて、自分が立ち入れない感じがする。


 なぜか満足してしまったので、僕はまた資料室に戻った。そしてさっきの続きを考えようとすると、また部屋の奥が輝き始めた。


「うわっ」


 僕は思わず手で前を覆って光が見えないようにしてしまった。そして、その閃光が収まった時、目の前には、昨日の女性がいた。……なんで、また、彼女が……。


 彼女、二宮さんはきょとんとした顔でこちらを見つめていた。やはり驚いているようだ。僕もだけど。


「こ、こんにちは、また来ましたね」

「は、はあ」

「どうしたんですか?」


 と、そんな僕に二宮さんが声をかける。どうした? う~ん。この自分の頭の中の状況を説明した方がいいのか?


「あ、あのー。う~ん、前からいろいろなことがありすぎて、頭の中が整理できなくて」

「それは私もですけど、突然目の前が明るくなって、気が付いたらここにいるんです。何なのでしょうか?」

「何なのでしょうか?」


 ここは転移のことを、どう説明すればいいのか。


「僕も原因までよくわからないので、また調べておきます」

「調べて分かるものなんですか?」

「う~ん、可能な限りは」

「よろしくお願いします」


 答えづらい質問だったがなんとか答えきった。二宮さんは、納得したように頭を下げる。


「でも、……原因は……転移?なのでしょうか?」

「え!? 二宮さん!? なんで分かったの?」

「やっぱりそうなんですね! 私は転移されてきた、と」


 二宮さんは少し笑顔になった。まさか、二宮さんが言い当てるとは思わなかった。


「それで、吉田さんは、お仕事は何をされてるんですか?」

「ここで自動車部品の製造をしてました。つい先日まで」

「つい先日までですか?」

「はい、今は、ここでアイドルのプロデュースをしています」

「アイドルの、プロデュースですか?」

「そうです。二宮さんは何をしてるんですか?」

「私ですか? 私はセンマイコーヒーの広報です」


 え!? 二宮さんはあの有名チェーン喫茶店、センマイコーヒーの社員だったの!? という僕の驚きをよそに彼女は話を続ける。


「さっきの話の続きなんですけど、アイドルのプロデュースって、何をされているのですか?」

「今はどういうアイドルを作ろうかとか、最近やり始めたばかりだから、そういうことばかり考えてます」

「どういう人を、どのようにしてアイドルを運営するかって事ですか?」

「まあそうですね」


僕は、間をおいて、内容を整理して次の話題へ移った。


「二宮さんは、アイドルについてどう思いますか?」

「私ですか? 人前に出るイメージ、ですか? あ! もしかして、私をアイドルにするつもりですか?」

「すみません、できれば協力してもらいたいんですけど、嫌ですよね?」

「え!? ごめんなさい!? 急に言われたので。迷惑なんかじゃありませんよ」

「僕の方こそ、アイドルをやれって言われてもその、周りでアイドルになりたいっていう人を誰も知らないので」


 そもそも僕にはこんな話が出来るほど仲の良い女性はほとんどいない。そんな女性と縁のない人がアイドルを作る。そしてそんな人がプロデューサーに抜擢されるのはなぜだろう。僕は未だに会社側のその人事の謎が解けずにいた。そして、本当にうちの会社はどうなっているのかと。こういう考えを張り巡らせた時、二宮さんは意外な提案をする。


「じゃあ、探しませんか? アイドルができそうな人」

「分かりました。一緒に探しましょう」

「うふふ、ありがとうございます。お願いしますね」


そして、二宮さんが万遍の笑みを浮かべた。というか、二宮さんをアイドルに引き入れるつもりが、他のアイドルを探すようになっていないか? その候補はすでに1人いる。その人はさっきまで織田さんと一緒にいたんだけど、どこへ行ったのだろうか?


と、思ったとき、光が二宮さんの体を包み始めた。どうやらもう時間のようだ。二宮さんは、去り際にこう言った。


「私も探してみます。吉田さんも、探しておいてくださいね」


********


 二宮さんを見送った後、僕は資料室を飛び出した。織田さんはどこだ?まだ近くにいるはず。


 と、探しているが一向に見当たらない。そして、いくら探したのか分からない時、二人を見つけた。


「吉田さん。こんなに慌ててどうしたんですか?」

「ちょっと用事がありまして」

「何ですか?」


 案の定、織田さんは紅藤さんと一緒にいた。これはチャンス。


「あの、紅藤さんはアイドルとか興味あるのかな? と思いまして」


 紅藤さんは下を向いてしまった。やっぱりだめか。


「紅藤さんをあのプロジェクトに入れるんですか」

「そのつもりです」

「それはちょっと難しいんじゃないですか? 彼女、人見知りが激しいですよ」

「そうですよね」

「人数が多いアイドルならいけるかも知れないですけど、何人組にするか決めてないですよね」

「それは全く考えていませんでした」

「それなら、少し待ってみた方がいいと思いますよ。ねえ、紅藤さん」

「……はい」


 紅藤さんの弱々しい返事が聞こえてきた。確かに、大丈夫だろうか?


 こうして大した収穫も得られないまま、午前中の業務が終了した。


 午後からは僕のアイドルイメージについて調べていくことにする。僕はスマホで動画を見ながら、色々なアイドルの歌い方やダンスを確認していたが、一向に方針が決まらない。そうしていると、データ容量の警告が出てきた。


「しまった!見過ぎた!」


 僕はスマホを慌ててしまった。すると、そこへ織田さんが入ってきた。ちなみに、紅藤さんはいなかった。


「吉田さん、作業は進みましたか?」

「今、歌とダンスはどうすればできるか探していたんですが、どうすればいいか分からないです。どうすればいいでしょうか?」

「さあ? 俺は経験がないから分かりませんね。いろいろ試してみればいいんじゃないですか?」

「……分かりました」


 織田さんに聞いても答えは自分で見つけなければいけないようでショボーンとなってしまう。そうこうしているうちに時間が来てしまった。動画もこれ以上見るのは怖い。今日はこれでお開きにしよう。

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