第7話 姉弟
カルラと真っ赤な髪を持つ少年は教会のところどころを破壊しつつもようやく喧嘩を終わらせた。
先程まで教会に沢山の子供が来ていたが、この喧嘩のおかげで悲鳴をあげて外に出て行き、人はカルラと少年とイズしかいない状況になってしまった。
「えー、改めて紹介する。あたいの一つ下の弟の『リアム・クリムゾン』だ」
「リアム・クリムゾンだ」
カルラがとなりにいる真っ赤な髪の少年を指をさしながら言い、その少年はリピートするように言った。
何故か眉間に寄っている。
そんな少年こと、リアム・クリムゾンにイズは、
「えっと…、私は…イズ・アケルナル…です」
と、下を向きながらボソボソと呟いた。
イズは元の世界でも男性との関係を築くことは苦手であり、彼氏という存在はもちろんいなく、友人すらほとんどいなかった。
ただ一人、幼馴染はいたのだが。
それでも、今日初めて会う男の人と仲良くなるというのは、イズにとっては高校の全国模試で一桁になるほど難しいものなのだ。
「どうかしたか?このバカ弟が何か変なことしたか?」
カルラはイズの顔を下から覗きこみながら問いかけた。
しかし、イズは両手で顔を押さえ込みながら座り込んでいる。その両手の裏でどんな顔をしているかわからない。
「俺じゃなくてアホ姉貴が何かやらかしたんじゃねーのか?」
「あ?あたい達はさっきまでちゃんと喋ってたから!あんたが来てからこんな状況になってんだよ!」
「ちゃんと喋ってたって頭お花畑で戦いしか能がない姉貴の勘違いじゃねーのか?」
ここまでリアムは言うと、もう一度イズを見て、
「つーか、本人目の前で言うのって『私たち友達だよね!?』と聞いて無理やりイエスと言わせるようなもんなんだぞ。だから友達少ないんだろ」
と言った。
「友達少ないのはあんたも同じだよ」
と、カルラは反論する。
しかし、カルラとリアムは一通り言いたいことを言い合うと、大体結末は二つに限られている。
一つ目は喧嘩になって暴れまわる。この二人の喧嘩はそこら中の壁や床に穴があくどころではない。最悪の場合、一軒家が崩れてしまうくらいだ。
二つ目は自己嫌悪に陥る。特に友人関係の口喧嘩になると姉弟二人とも大きなため息をつき、その場に立ち尽くす。
そして、今回は二つ目のようだった。
「「はぁ」」
カルラとリアムは大きなため息をついた。
あくまでも少し歳が開いた姉弟であるが、まるで双子か同一人物のようにタイミングが揃っていた。
嵐のような口喧嘩が止んだためイズは少し顔を上げた。
二人の少年、少女が真逆の方向を向きながら下を向いている。
こんなおかしな状況を見て、イズは何故か親近感が湧いた。
別にバカにするような感情や憐れむような感情はない。
ただただどこか自分と近いような気がした。
だからイズは立ち上がり、その二人の間に行き、二人の肩に手を置いた。
「同じ………なんだね」
と、イズは小さな子供をあやすように言った。
今日初めて会った男であっても、いきなり戦いだすような女であっても構わない。
ただ二人の友達でいたいと思った。
だからその言葉で示したかった。
言葉の通り、二人だけではないんだよ、と。
ここにもいるんだよ、と。
その二人の肩に置いたイズの手がわずかに動いた。
何故か二人の肩に力が入った。
否、肩だけでは無かった。
まるで怒りに溢れかえるように二人の全身に力が入っていく。
否、まるででは無かった。
双子のような姉弟ははらわたが煮えくり返っていた。
「えっ?」
イズは慌てて二人の肩から手を離したが、怒り狂いそうな二人は逃げようとするイズの手を思い切り掴む。
こんな二人からすぐにでも逃げたいという人間の本能から体を後ろ斜めにしてまでも手を離させようとするが、既に時遅し。
「「一緒にすんな‼︎」」
と、双子のような息のあった姉弟の拳がイズの腹に直撃した。
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