第4話 初テレポート

イズは目が覚めると森の中に立っていた。

目の前の木は30mほどあり、すぐ後ろには川が緩やかに流れていた。

ところどころ倒木していたり、苔や雑草が生えているところから人が整備していないのだろう。とイズは周りを見ながら考えていた。

右も左もわからない異世界で、その上、元の世界だとしても遭難したら出るのは難しい森の中に来てしまったのだ。



「おっ、あんたかな。異世界出身の子って」



イズは突然後ろから声をかけられ、振り返った。

その声の高さから女性のようだが、その人物は『少年か』と言いたくなるような見た目だった。

しかし、イズの知ってる少年とは少し違う。例え目の前にいる少年がいくら不良であろうと、いくら厨二病であろうと、髪は赤く染めないし、両目に赤色のカラーコンタクトを入れようとは思わないだろう。

これが元の世界との違いなのか。と思い、仕方ないとイズはそう心に留めた。



「そうだけど、あなたは?」



イズはその少年のような女性に問いかけた。



「あたいはカルラ。この世界に歪みが出来たらから試しにその付近にやってきてみただけ」



と、カルラという痛い女性はため息混じりに答えた。

歪み、かとイズは思った。

つまりこの世界にイズが来ることはこの世界にとっては必然ではない。

ユピテルによって歪まされているということ。

魔神というのは世界を曲げてしまうものだろうか。

そんなことをイズは考えていると前にいる目も当てられない痛い女性は手を差し出してきた。



「そうなんだ。私はイズ・アケルナル。今、この世界にやってきたばかりで右も左もわからないんだ。良かったら…」



とイズがそこまで言うと、カルラから差し出された手を掴んだ。

それを確認したカルラはぎゅっとイズの手を握った。



「そう。だから、あたいが森から出る手段を教えてあげよう。そのかわりあんたの世界のこといろいろ教えてよ」



カルラはそう言った。

『教えて』と言われた。が、本当に教えることなどあるのだろうか。

という不安を抱えながらもイズはこの好機を逃すわけにもいかず。



「いいよ。じゃあ、その代わり私をこの森の中から出して欲しいな」



イズがそう言うと、カルラはコクリと頷いた。

そして、カルラは目を閉じ、そっと右手を眉間に当てた。

UFOとでも通信しているのだろうか。

痛い格好に痛いことしてる目の前の光景を見ていると、ふとあることを思い出した。

ユピテルに転移される前、『この世界ではテレパシーで連絡をとれる』と言うことを。



「あー、ソフィア?なんか転移位置がずれてたみたいだから『アケルナル』に連れて帰る」



と、カルラは独り言のように呟いていた。

元の世界とは違い、当の本人以外は絶対に聞こえないので、テレパシーというものを知らない人にとってはおかしな光景にイズは少し笑いをこらえていた。



「あ?あー、わかった。んじゃ、タイミングは任せる」



テレパシーは終わり、プツンと固定電話の電話を切った時の音がイズにも聞こえた。



「今からあたいの仕事仲間がテレポートでここから近い都市に送るから。なるべく酔わないように…」



カルラはそこまで言いかけると、目の前から一瞬にして消えた。

これがテレポートってやつ?

そんなことを考えているとイズもいきなり目の前が真っ暗になった。



(これがテレポート………………)



と、イズは感覚的にわかった。

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