第7話 戻った? 変わった?

「おはよう。」

「おはよう。」

 今日も元気な児童の声がこだましている。

 柊真が教室に着くと、斜め後ろの恵子の席は空いていた。

(あれ、田中まだ来てないのか?)

「おはよう。」

 挨拶する声が聞こえ教室に入ってきた直の姿が目に入ってくると、

(可愛い。確かに可愛い。なんで気付かなかったんだろう。本当に見る目がなかったんだな。)

 柊真はあらためて後悔?していると、直が席に近づいてきて、

「佐々木、おはよう。」

 柊真に笑顔で言うと、

「あっ、おはよう。藤川。」

 柊真は硬い表情で挨拶していた。

(やっぱり可愛い・・・。あれ俺ってロオリコンなのか? いや違う。この子は誰が見ても可愛いはず・・・、でも俺の頭の中は中年だから・・・、やっぱりロリコン?

 俺っていい歳こいて、結構アイドル好きだったしな・・・。)

 そんなことを思いながら直の顔に見とれていると、

「ちょっと佐々木、あんまり見ないでよ。」

 恥ずかしそうに直がして顔を赤らめているのを見て、

(絶対に可愛い。でも何故だ? あの頃の藤川は、男子にそんなに人気はなかったはずだけど、どちらかと言うと人気の無い方だったような?・・・。そうか、当時と今じゃ可愛いの基準が違うんだ。そうだよな、昔のアイドルと今のアイドルじゃだいぶ違うもんな。)

 等と柊真は変なことを考え、勝手に納得していたのであった。

「ごめん、ごめん。別に藤川のことみてたわけじゃなくて、頭に糸くずみたいなものがついてたから。」

 柊真は都合よく直の頭についていた糸くずを取って、

「ほら、ね!」

 そう言って糸くずを直に見せていると、再び直は顔を赤くして、

「ありがとう。」

 そう言って直ぐに椅子に座って、バッグから勉強道具を出して引き出しにしまい始め、それが終わると、何故か柊真の顔を見てニコッと笑いかけていた。

   ・

   ・

   ・

 柊真は特に何事も無く今日の学校生活を終わらせて家に帰ってきていて部屋でボーっと過ごしていたのだが、

(今日、田中休みだったな。風邪でも引いたのかな?)

「柊真!塾の時間よ。 早くしなさい。」

 毎度おなじみの美紀子の声が聞こえてきて、

「今行くよ。」

 柊真は返事をして、塾の準備をするとすぐに1階に降り、

「行ってきます。」

 いつもと変わらずに家を飛び出していった。



 柊真は塾に着いてしばらくすると、講師らしき人が教室に入ってきて、

(あっ、あの先生懐かしいな・・・、えーと、そうだ田上たがみ先生だ。)

 柊真はこの前塾をさぼっていたため今日がこの時代に戻って初めて塾にやってきていて、そんなことを思ったのだろう。)

「参考書の192ページの問題から今日はやるぞ。」

 特に何の挨拶もなく、すぐ授業は始まった。

「まずは自分たちで解いてみなさい。」

 すると生徒たちは全員無言で問題に一斉に取り掛かり、

「カシャ、カシャ。」

 ペンを一心不乱に走らせていた。

 柊真は、

(どうせ小学生の問題なんて。)

 そう思いながら問題に目を向けてみると、

(えっ、なんだこれ? 難しくないか?)

 柊真が問題を見て戸惑って何もできないでいると、

「はい終了。解けた人手を上げて!」

 田上が言うと、ほぼ全員がパッと自信満々に手を上げていた。

(やばい、やばい。でも・・・)

 柊真も遅れて手を上げると、

「どうした佐々木遅いぞ、じゃあ佐々木に説明してもらおう。」

 遅れて手を上げたばかりに目立ってしまったようで、田上に充てられてしまったのだが、当然柊真は問題を解けていない。

(本当にやばい・・・。)

 柊真が動かないのを見て田上が、

「そうした佐々木。このぐらいの問題いつものお前なら1番に出来てもおかしくないのに。」

 そう言いながら柊真に近づいてくると、

「先生、私が説明します、いいですか?」

 どこからかそう声が上がり、

「そうか、じゃあ前に出てきて解いてくれ。」

 田上は声を上げた生徒の方に視線を移してそう言っていた。

(助かった。どうぞ、どうぞ。)

 柊真はほっとして胸をなでおろしながら、

(でも助けてくれた子って、どんな子なんだ。)

 黒板の方に視線を向けると、そこで問題を解説していたのは直だった。

(あれ?藤川ってこの塾だったけ?)

「よく出来たな藤川。いい解き方だ。」

 田上が言うと直は席に戻っていき、柊真に向かってウインクして見せた。

(なんだ今のは? どうなってるんだ?)

 柊真は頭の中が”?”でいっぱいになっていると、

「今日は残りの時間はテストにするぞ。」

 そう田上が言っても柊真以外は誰も驚かず、田上が問題用紙を配るのを姿勢を正して待っていたのだが、柊真は何かそれどころではなく、いろいろ考えてしまい当然直のことも考えていた。

(ダメだ。全くわからない、思い出せない。直接本人に聞くしかないな。田中との約束もあるしな。)

 そう結論を出すと、その後は早く時間がたたないかそればかりを考えていた。



「よし、終わり。テスト裏返してそのまま帰るように。」

 田上がそう言って授業は終わった。

(よし、藤川はどこだ? あっ、いた。)

 柊真は直のもと走った。

「藤川、おい藤川。」

 柊真が呼びかけると直は振り向いて、ニコッと笑って柊真を見て、そのまま教室を出て行ってしまった。

(あの笑顔はいったい何なんだ?)


 柊真は疲れ切って家に帰ってきていた。

(どう考えてもおかしい? 学校で会ったときの藤川と、さっき会った藤川は別人みたいだった。いったい何が起きてるんだ? それに昨日と今日で何か違和感がある。そうだ石ちゃんとマツは? あの日以来話していない。そう言えば田中は?・・・)などと考えていたが、疲労もあって柊真はそのまま眠ってしまっていた。

   



「ピンポーン。」 

「はーい。」

(何か聞こえる? 誰か来たのか?)

 柊真はその物音で目が覚めると、おもむろに起き上がりベッドから降りようとして驚いてしまっていた。

(ここって? あれ? また元に戻ってるのか?)

「あなた、起きてる?」

 妻の声が開き超えてきた。

「なんだ、夢だったんだ。」

 柊真はそうつぶやくと、

(それにしてもリアルな、長い物語のような夢だったな。)

 ベッドに腰かけたまま考えていたが、

「あなた!」

 妻の呼びかけが大きくなり、

「起きてるよ、今行く。」

 そう言ってリビングに向かって行った。


 リビングには先ほど届いた荷物とその上に柊真あての郵便物が何通か置いてあった。

(あれ? これって誰からだ?)

 差出人の名前だけが見えていたが見覚えがない。

「ねえ、これ誰からの荷物?」

 妻に聞くと奥のキッチンから、

「何言ってるの、私の母からよ。」

 そう言って妻が出てきた。柊真は驚いた。

(誰だ? この女性は・・・。)

 柊真は動けないでいると、その女性は再びキッチンに戻っていったのを見て、柊真は恐る恐る荷物の上にあった郵便物を震える手で掴み、荷物に貼られている伝票をを見ると、

「佐々木直 様」

 受取人の名前が書かれていた。

(未来が、いや今が変わってしまっていた。俺が変な話して過去を変えたから?)

 直はキッチンであの時十なし顔をしてニヤッと笑っていた。

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