第6話 懐かしい光景
柊真は恵子の家を出ると、駅前で塾が終わる時間に合わせるために、ただプラプラと時間をつぶしていたのだが、この時代コンビニなどはは無く、ファミレス系もほとんど無く、運よくあったとしても小学生ひとりで入るのには難易度が高く感じられていたようで、何をするでもなくただぶらぶらして結局先ほどと同じように空き地の土管の上で時間をつぶしていた。
「あれ? 今何時かな? あっ、俺時計持ってないや。」
時計を持っていないことに気づいた柊真は、時間がわからず困っていたが、
(本当にスマホないのって不便だ。スマホあれば大抵のことは何とかなるのに・・・。)
そんなことを思いながら少し考えると、
「そうだ。公園に行けば確か大きな時計があったはずだ。」
柊真は家からそう離れていない場所にある公園に大きな時計塔みたいなものががあったことを思い出して、土管から飛び降りると急いで公園に向かって走って行った。
柊真が公園に到着すると記憶にあった時計塔を目にして、その時間を確認すると、
「8時半か。確か塾って・・・、そうだ9時までだった。よしこれからゆっくり駅前に戻ってそれから家に帰ればちょうどいいか。」
そう言い、すぐにその時計塔に背を向けて公園を後にして駅にむかいゆっくりと歩き出した。
「ただいま。」
柊真は計画通りに時間を調整して家に帰ってくると、
「塾どうだった?」
すぐに美紀子の声が聞こえてきた。
柊真は塾には行ってないのだから当然答えようもなかったのだが、
「別に。」
ぶっきらぼうに一言だけ答えると、
「別にって、何よ、ちゃんと勉強してきたの?」
いつも通りに口やかましく言ってきた。
「いちいちうるさいな。」
柊真は小さな声でそう言って美紀子に向かっては答えずに、そのまま急いで2階の自分の部屋に入っていってしまった。
「まったくうるさいんだよ。いちいちそんなこと聞くなよ。聞いてどうするんだよ。」
そう言いながら机の横に持っていたカバンをかけて、椅子に座って一息ついていると、
「コン、コン。」
ドアをたたくノックの音が聞こえ、
「おい柊真、帰ってきたら顔ぐらいみせなさい。」
そう言って父親の
(あっ、親父。懐かしい・・・。生きてるんだ。当たり前か・・・)
柊真はそんなことを思いながらじっと明のことを見ていると、自然に目に涙が浮かんできていた。明は前の世界で5年前に他界していた。
「おい、怒ってるわけじゃないぞ。でもどうしたんだ。母さんも心配して聞いてるんだから、降りてきて顔見せて話ししなさい。」
そう言うとすぐに明は部屋を出て行ってしまった。
「親父元気そうだな。あんな感じだったよな親父は・・・。そういえばよく見てなかったけど母さんも若いよな。いったい今何歳なんだ?」
柊真は天井を見上げ、
(えー、俺が今5年生だから・・・、親父は40歳か。俺より全然若いじゃん。当時の大人ってやっぱり貫禄あって、本当の意味で大人だったんだな・・・。じゃあ母さんは・・・、マジか32歳じゃん。見えねえー! 某アイドルグループの最年長の人とかわらないじゃん。)
しばらくそんなことを考えていると、
「ご飯ですよ。柊真!」
美紀子の大きな声が聞こえてきた。食卓に降りて行くと明はすでに食卓についていて、ビールをおいしそうに飲んでいた。
(えーと、俺の席は・・・。)
柊真は昭の向かいの椅子に座ると、
「父さんは勉強のことはあまり言わないけど、母さんにだけは心配は掛けるなよ。」明はそう言いながら、再びおいしそうにコップのビールを飲みほしていると、そこに美紀子と拓馬も加わって、家族4人が揃いテーブルを囲んで一家団らんとはまさにこのことだと柊真はしみじみと思っていた。
(懐かしい。そうだこの風景だった。あの頃はこの風景が当たり前で気付かなかったけど、今の自分ならわかる。この時間の大切さ、この時間の尊さを、この時間は永遠ではないということを自分は知っているから。)
柊真はそう思うとまたまた目に熱いものがこみあげてきていて、その様子を見て明が、柊真の顔をのぞき込むようにして、
「どうした柊真、今日は何か変だぞ。ははーん、さては塾で先生にでも怒られたか?」
冗談ぽく明は言うと、美紀子はすぐにその言葉に反応して反応して、
「あなた、塾で先生に怒られるようなことしたの?」
またまた怒ったようなキツイ口調でいってきたのだが、今の柊真にはこの言葉も含めて今ここにあるすべてが懐かしく思え、
「そんなことないって、ちょっと目にゴミが入ったみたいなんだよ。」
そう言うと柊真は一気に茶碗のご飯を書き込むようにして食べると、
「おかわり。」
柊真は目をこすりながら、ごはんでいっぱいになった口でそう言うと、美紀子に向かって空の茶碗を突き出していた。
「はい、はい。でももっとよく噛んで食べなさいね。」
そう言いながら美紀子はしぶしぶそれを受け取って、電気釜からご飯をよそっていた。それを見ていた明はにこにこした目をふたりに向け、再びビールをおいしそうに口にしていた。
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