第5話 またまた嘘つき

 柊真は自分の家の前をすり抜け恵子の家の前に到着すると警戒するように周りを見回すようにして、

「ピンポン」

 ドキドキしながらチャイムを鳴らすと、

「はーい。」

 中からそう返事が聞こえてきてしばらくして玄関のドアが開き、恵子の母親が顔を覗かせてきた。

「あら、柊ちゃんいらっしゃい、恵子から話は聞いてるわよ、どうぞ。」

 そう言うと、すでに恵子も玄関まで来ていて母親のすぐ後ろにいて、

「お邪魔します。」

 柊真は恵子の家に上がると、恵子の後をついて行き、恵子の部屋に入って、しばらくすると母親が、

「こんな時間に柊ちゃんが来るなんて珍しいわね。今日塾は?」

(やばいこの人俺のこと色々知ってるな。何とかうまく言わないと・・・。)

「今日塾は休みなんです。」

 結局何もいい案は浮かんでこなかったため直球的な思い切った嘘をついた。

「あらそうだったの、じゃあゆっくりしていってね。」

 ジュースを置いて恵子の母親は出て行った。するとすぐに恵子が、

「話って何?」

 何か警戒したような声で聞いてきたので、

「そんな大したことじゃないから、普通にしてよ。」

 柊真はそう言っていたが、恵子は態度を変えなかったので、仕方なくそのまま話し始めることにして、

「マツと石ちゃんには話したんだけど、田中にも知っててほしいんだ。絶対内緒にしてほしいんだけど。」

 柊真は真剣な表情をしてそう言うと、

「わかったわ。で何なの?」

 恵子はうなずきながらもせかすように聞いてきて。

「うん。実は俺、昨日頭・・・。」

     ・

     ・

     ・

 柊真はマツと石ちゃんに話した作り話を恵子にもしていた。

「何それ、佐々木大丈夫なの?」

 恵子はその話を最後まで聞いて当然驚いた表情になるのを確認して、

(よし、のってきてくれた。)

「体は全然大丈夫なんだけど。でもさっきも言ったけど記憶がね・・・、だからちょっと色々教えてほしいんだよ。男子の事はあのふたりに聞けるんだけど、女子の事は聞いてもわからないだろうから、田中にお願いしないと。なあ頼むよ。」

 なんかうまい感じで柊真は言うと、恵子は少し疑いながらも、

「佐々木が言うんなら信じるけど・・・、でも女子の何を聞きたいの?」

(よし!)

 柊真はここぞとばかりに、

「まずは藤川のことから聞きたいんだど。」

 直球で聞くと、露骨に恵子は嫌な顔をして、

「それ聞く?」

 すこしため息をついた感じで、もしくは少し怒ってるような感じで言ってきた。

「えっ、ダメ?」

 柊真はがすかさず言うと、顔の前で手を合わせて祈るようにお願いすると、

「まあ、ダメってわけじゃないけど、直の何を聞きたいのかによるわね。」

(うーんガード固いな、困ったな・・・、なんて聞けば話してもらえるんだ。どう聞けば・・・、よしここは!)

「実は俺藤川のことが好きなんだ。それで今日藤川が俺のこと何とかとか言ってたじゃん。それが気になっちゃってさ。」

 柊真は思いっきりここでも噓?を言うと、

「えっ、あなた達って両想いなの? 私てっきり直の気持ちを知ってて佐々木がからかってるのかと思った。両想いなら私もすごくうれしいんだけど・・・、でも川田さんがね・・・。」

 恵子は一瞬表情を明るくしたのだが、すぐその後口ごもってしまっていた。

「川田が何? さっきもいやがらせしてるとか言ってたけど。それってどういうことなんだ?」

 少し声を大きくして柊真は聞くと、

「川田さんも佐々木のことが好きなのよ。あんた結構女子の間で人気があるって言ったでしょ。」

 今度はいかにも困った感じで恵子が言った。

「でも、俺が藤川のことが好きだっていえば、それでいいんじゃないか。両想いならいやがらせとかしてこなくなるんじゃないか?」

「そうね。あんたがそう言ってくれれば直にいやがらせとかしなくなるかもね。それでも少し心配はあるけど・・・。でも佐々木、本当に直のこと好きなの?」

 念を押すように恵子は聞くと、

(藤川直か、あの頃は気付かなかったけど・・・。)

 柊真はなおのことを思い浮かべて鼻の下を伸ばしたような顔をしていると、

「ちょっと、佐々木何なのその顔は、大丈夫なのよね。」

 さらに念を押すように恵子が聞いてきた。

「大丈夫だよ。俺を信用してくれ。」

 柊真が胸をひとつ叩いて言うと、

「わかったわ、じゃあこの話はもうお終い。他にも何かある?」

 そう聞いてくれたので、柊真は単純にわからないことをいくつか質問していたが、さすがに女子同士の秘密的なことは恵子も話してくれなかった。でもそれは当たり前のことであって、実際話してくれたことの中には当時の柊真が知らなかったっこともあったのだ。

「ありがとな田中。また相談に乗ってくれよ。頼りにしてるぜ。」

 そう言って柊真は立ち上がると、

「まあ佐々木とは幼馴染だから、困ったことがあったら何でも言ってちょうだい。でも直のこと本当にお願いね。」

 恵子は最後にまた念を押すように言ってきた。

「わかったよ。俺を信じてくれ。じゃあ。」

 そう言って柊真は部屋を出ると、

「田中のお母さんお邪魔しました。」

 元気よく恵子の家を飛び出していった。

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