第3話 知りたいことがいっぱいある
休み時間の終了間際、柊真の手元には2枚の紙があった。
これはさっき柊真がマツと石ちゃんにお願いをして得た貴重な情報であった。
・
・
・
「このクラスの生徒の名前、全員分教えてほしいんだ。」
柊真は机からノートを取り出すと、後ろのページから2枚破いて1枚ずつふたりに渡して、
「マツは教室の半分から向こう側をお願い、石ちゃんはこっち側の半分よろしくね。何処に誰が座っているのか書いてほしいんだ。」
・
・
・
休み時間終了のチャイムが鳴ると、大半の生徒は自分の席に戻って近くの者同士でおしゃでりをしていた。柊真はふたりに書いてもらった紙と、実際のクラスの生徒の顔を見比べ初め、
(早く全員席についてくれ・・・。それにしても石ちゃん、字が汚いというか個性的というか、まあ小学生だから仕方ないのか。でも列も歪んでるし、えーとどうなってるんだこれ・・・。)
少し照合に手間取って時間がかかったがマツにおねがして書いてもらった分を終えると、奥にいたマツと目が合い、マツは何か誇らしげに柊真に向かってピースサインをして見せていたので、柊真はとりあえず軽く頭を下げると、すぐに、もう1枚の紙に目を向け、
(まずは隣の女子は・・・。
直の方を気づかれない様に横目で視線を向けると、
(あれ、よく見ると結構可愛いな、あの頃は全く感じなかったけど、今時の顔立ちっていうか、そんな感じなんだな。まあ今時って今じゃないけど。)
そんなことを思っていたが、まだ半分残っていたのを思い出し、すぐに手元の紙に視線を戻した。
石ちゃんの几帳面で正確な情報で、こちらは短時間で照合作業終了となった。
6時間目の授業が終わって帰りの学活が始まるのを待っているころには、柊真は全員の顔と名前を一致させることができていた。
(そういえば字もよく見えるし、記憶力も何だかよくなっているみたいだ。あと体も痛くないなー。腰とかすごく痛かったもんなー。)
そんなことを思っていると、隣の直が目に入ってきて、
(そうださっき悪いことしちゃったから、ちょっと謝っとこうかな。)
柊真は本当は先ほど思っていたように、直のことが気になっていたようで、
「藤川、給食の時ごめんな。せっかく心配してくれたのに、なんか変なことになっちゃって。」
隣の直に話しかけたが、直はこちらを見て軽くうなずいただけで、何も言ってこなかった。
(あれー 怒らせちゃったのかな? 俺って女子にこんなに人気なかったけ?)
すると後ろから、
「ちょっと佐々木、直が困ってるでしょ。やめなさいよ。」
給食の時文句を言ってきた女子が柊真の背中をつつきながら言ってきた。
(なんだよこいつ、田中だったよな。こいつは
ようやく柊真はそのあたりの人間関係を思い出していた。
「なんだよ。うるさいな。田中には関係ないだろ。」
「あなたねえ、関係あるから言ってるんでしょ。」
恵子は小声で言っていたが間違いなくその声は怒っていた。
「佐々木、今日掃除当番うちらの班だから、ちょっとその時話しましょう。」
急に柊真はそう言われ、恵子から何の話があるのか見当もつかなかったが、今このまま話しても仕方ないと思い、恵子の言う通りに掃除の時間を待つことを決め、
「わかったよ。」
そう言い前を向いて学活が始まるのを待った。
柊真が清掃道具を取りに向かうと、恵子が近づいてきて、
「佐々木、掃除しながら話そう。」
何の話か不安に思いながら、
「うん。わかった。」
「じゃあ、後は掃除当番お願いね。」
篠原先生は教室を出て行き、それを確認すると恵子が柊真に近づいてきて小声で、
「佐々木、直の気持ち知ってるんでしょ。」
「えっ、何それ?」
柊真は驚き変な顔をしてしまうと、
「何それって何? 佐々木ちょっともてるからってひどいよ。」
(俺って、もててた? あれ小学校時代はそう言えば。)
柊真はにやついていた。
「何ニヤニヤしてるのよ。」
恵子は怒って声を大きくしてしまうと、当然同じ班の直も掃除当番の為教室にいて、
「ちゃんと掃除してよ。」
ふたりの間に割って入ると、柊真も恵子も
「ごめん。」
頭を下げて謝り、掃除に戻ろうとしていたが、離れ際に恵子は、
「佐々木のこと”ゆうこ”も好きみたいで、直はちょっと意地悪されてるんだから。変なことしないでね。」
直に聞こえないように小さな声で言って、黒板の方へ行ってしまった。
(よくわからいけど、田中って友達思いのいいやつだな。そうだあいついい奴だった。)
柊真は感心していたが、ゆうこって
(藤川が川田に意地悪されてるなんて知らなかったな。俺はどうすればいいんだ?)そんなことを考えているうちに掃除の時間は終わっていた。
「じゃあね。」
同じ班のもうひとりの男子が先に教室を出て行くと、
「私たちも帰るから。」
恵子も言い、その横には直が隠れるように立っていた。
「お疲れ・・、いや、じゃあ。」
(お疲れ様は会社の挨拶、あぶねえ。)
「ねえ田中、ちょっと聞きたいことあるんだ。家行っていいか?」
恵子は横にいた直に気を使いながらも、
「いいよ、いつ来る。」
(知りたいことがいっぱいある、話は早くした方がいいな。)
「そうだな、今日かな。」
「わかった、お母さんにも言っとくよ。」
恵子は即答すると、直の方を見てふたりは教室を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます