第2話 思い出せないことばかり
柊真は言われるがままに席に着くと、
「おはよう。」
隣に席の女子から声をかけられたが、
(あれ? 誰だっけ?)
「お、おはよう。」
必死に思い出そうとしていたが思い出せないでいると、篠原先生の声が聞こえてきて、
「それじゃ学活始めますよ。」
(そうか確かこの頃は朝の時間は“朝の学活“って言ってたっけ、今は“朝のホームルーム“だよな。)
などとどうでもいいことを考えていると、
「佐々木くん。佐々木くん。おーい佐々木くん!」
すぐ目の前の教壇にいる篠原先生の声が急に聞こえてきて、考え事をしていた柊真は驚いて席を立ってしまうと、
「どうしたの佐々木くん?」
篠原先生が心配そうに声を掛けてきていたが、
「いや、呼ばれたんで、返事しただけです。何ですか?」
柊真は少し顔を赤くして尋ねると、篠原先生は、
「佐々木くん今日、日直だから声かけただけだけど、どうしたの?」
「あっ、そうですか。ははは、僕日直でしたか。ははは。」
柊真は誤魔化すように言っていると、
「大丈夫?」
「はい大丈夫です。ははは。』
(全然大丈夫じゃないんですけど・・・。)
柊真は結局何もできないまま、2時間目の授業まで終わると、
「柊ちゃん!」
マツと石ちゃんが柊真のところにやってきていたのだが、
「どうしたの?」
不思議そうに尋ねると、逆に不思議そうな顔で返されて、
「どうしたって、野球しに行こうよ。」
(えっ、野球? なんで・・・?)
柊真は戸惑った感じでいると、
「早く、早く! 中休み終わっちゃうよ。」
(中休み・・・? あっ、そうだ。確か2時間目と3時間目の間にそんなのあったな・・・。)
「うん。わかった。行こう。」
柊真はすぐに席を立ちふたりと一緒に勢いよく校庭に向かって走り出していた。
午前中の授業が終わり給食の時間になると、4人1組の班ごとに机を向かい合わせにくっつけて給食が運ばれてくるのを待っていた。
「いただきます。」
給食当番のひと言の後、
「いただきます。」
全員の大合唱で給食は開始され、柊真は
(みんな
「佐々木食べないの?」
前に座っていた朝挨拶してきた女子に声を掛けられると、
「えっ。」
いきなり呼び捨てにされて驚いたが、
(そうそう呼び捨てが普通だったよな。”今の時代”みたいに下の名前で呼び合うなんて男女間では絶対になかったもんな。)
「食べるよ。」
机の上の給食用のクロスの上に置かれた先割れスプーンを手に取ると、
「佐々木、なんか変だよ。」
続けてその少女が言ってきた。
(この子は誰だったかな、隣の席なんだけど、全然思い出せない。)
「大丈夫! 心配してくれてありがとう。」
柊真がそう言うとその女子は柊真を見たまま顔を赤くして黙ってしまい、それを見ていた斜め向かいの女子が、
「ちょっと、佐々木、変なこと言わないでよ。」
乗り出すようにして顔を柊真の方に向けて言ってきた。
「何だよ。俺はただお礼言っただけだよ。」
(あー面倒くさい、でもあの頃の小学生って男子と女子仲が悪いのが当たり前だったから、お礼とか言っちゃダメだったのかな? あれどうだったけ? さすがに覚えてないぞ・・・。)
柊真はそう考えながらも、もう余計な話をしないで済むように、口いっぱいにパンを詰め込み口をふさいでいた。そして、
(まずは名前と顔を一致させないとまともに話もできないぞ。何とかしなくちゃ。)
給食が終わり昼休みになると当然のように再び仲良し3人組は集まっていた。
(よしこの昼休みの間に何とかしなくちゃ。)
「マツ、石ちゃん、ちょっと変なこと聞いてもらってもいいかな?」
柊真は左右にいたふたりに真剣な顔をしてそう聞くと、
「何、変なことって?」
石ちゃんが不思議そうな顔をして柊真のことを見てくると、
「実は昨日頭ぶつけちゃって、記憶が少しなくなってるみたいなんだよ。」
その柊真の言葉を聞いて一瞬ふたりとも固まってしまっていたが、すぐにものすごく驚いた表情になると、マツがすぐに
「えー! そうなの、だから柊ちゃん今日変な感じなんだ。」
少し興奮気味に言ってきた。
「先生には言ったの?」
冷静に石ちゃんが聞くと、柊真は深刻そうな表情をして首を横に振ってから、
少し笑顔を作って見せて
「あまり大ごとにしたくないんで。でもふたりのことはしっかりわかってるから。そうだろ?」
ふたりは顔を見合わせた後、同じく笑顔になってうなずいていた。
「そうだよな、俺達3人は親友だもんな。」
マツが言うと、石ちゃんも
「そうだよ。困ったことがあったら何でも俺たちに言いなよ。」
前のめりになって柊真にさらに近づいてきた。
(よし。のってきてくれた。)
「ありがとう。このことは3人の秘密にしてほしいんだ。それとふたりにしか頼めないお願いがあるんだけど。」と柊真が言うとふたりは大きくうなずいた。
柊真はふたりにもっと近づくよう手招きして
「じゃあさ・・・。」
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