第42話 神
敵艦へと突撃したヘリクゼンは、拳を振るう。
その速度は、限りなく光速に近い。
当然、加害力はそれなりにある。
銀河連邦軍艦艇は、決して破られる事のない、宇宙最強の装甲を有している。
それは、宇宙で最も固いと言われている素材、核パスタに匹敵する程だ。
中性子星の中心で作られるというそれは、一説によれば鉄鋼を粉砕する力の100億倍も必要だとか。
そんな装甲を持っているものだから、当然ヘリクゼンの攻撃など意に介さない。
ヘリクゼンの拳は装甲によって、傷一つもついてない状態である。
しかし、不可能を可能にしてきたヘリクゼンの事だ。当然対処の方法はある。
「食らえ!ヘリクゼン!」
拳をぶつけた場所から、ヘリクゼルが侵食する。
その様子は、触れたものを氷漬けにする魔法を使う王女のごとく、拳の周辺をヘリクゼルへと変化させていく。
拳を引っこ抜けば、侵食した部分が引っ付いて装甲から剥がれ落ちる。
そして剥がれたヘリクゼルをヘリクゼンが取り込み、自分の体の一部としてしまう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
とにかく拳を連続で叩きつける一基。
その都度、装甲はヘリクゼルへと変化、装甲から剥がれ落ち、ヘリクゼンの一部となっていく。
そしてヘリクゼルを吸収していったヘリクゼンは、当然のごとくその体躯を巨大化させていった。
やっと状況を飲み込んだのか、銀河連邦艦隊はヘリクゼンに向けて攻撃を開始する。
光線が、攻撃を受けている連邦軍艦艇を突き抜けて飛んできた。
一基はそれが見えていないのか、それともわざと無視しているのか、とにかく拳を振るうことしかしない。
やがて銀河連邦軍からの攻撃が到達する。
その瞬間であった。
なんと、光線がヘリクゼンに直撃する直前でクニャリと曲がったのだ。
本来ならありえないような挙動。ヘリクゼンを狙った攻撃は、すべて歪曲した軌道をとっていた。
しかし、その中のうちの一つが、ヘリクゼンに直撃するコースをとる。
それだけは歪曲せず、まっすぐにヘリクゼンに向かっていた。
銀河連邦軍の攻撃は一撃必殺。当たれば必ず殺せることをモットーに作られている。
この宇宙に存在するものすべてを破壊するために作られた兵器。それが銀河連邦軍の兵器なのだ。
そんな攻撃がヘリクゼンに届こうとしていた。
その瞬間だ。
ヘリクゼンの頭部にあたる部分に大きな変化が起きる。
まるで覚醒したかのように目のようなものが現れ、口のような器官が開く。
そして、ヘリクゼンに命中するはずだった攻撃を、口で受け止めたのである。
しかし、抗うにしては遅い。銀河連邦軍は勝利を確信した。
だが、またしても異変が起きる。
攻撃を食らっているのに、ヘリクゼンの反応が消えないのだ。
何か様子がおかしいと感じた銀河連邦軍。
見てみると、ヘリクゼンは銀河連邦軍の攻撃を「食っていた」。
口のような器官で受けとめた光線は、ヘリクゼンに取り込まれ、そして自身の一部へと変換する。
この攻撃を食ったことで、ヘリクゼンは一段と巨大化することに成功した。
「食ってやる……!全部まとめて食ってやる……!」
ヘリクゼンはそのまま、口で艦艇を貪り食う。
一口食らえば、それだけヘリクゼンは巨大化する。
そして、ものの数分もしない内に、ヘリクゼンは銀河連邦軍の艦艇1隻を完全に食らいつくしてしまった。
恒星一つ分にも相当する大きさになったヘリクゼン。
それは完全に、銀河連邦軍も想定外のことだった。
この存在を生かしておくわけには行かない。
その考えで一致した銀河連邦軍は、とにかくヘリクゼンに対して最大の攻撃を与える。
光線、ミサイル、果てには余剰次元に流出した重力までも使って、ヘリクゼンに攻撃を与え続けた。
だが、ヘリクゼンはその攻撃を食らっても、平然としていた。
それどころか、ヘリクゼンはそれらの攻撃さえも捕食、吸収していく。
銀河連邦軍に焦りが見られる。
もう、誰にも止めることが出来ないのではないか?
そんな考えがよぎったからだ。
銀河系最大規模の攻撃を加え続けるものの、それでも巨大化を続けるヘリクゼン。
やがて、近くにいる艦艇を殴るだけで、そのすべてを侵食してしまうほどにまで成長していた。
ヘリクゼンver.5、超極限環境完全対応型体躯完全進化形態唯一神等価存在天上天下唯我独尊仕様。
コイツはもう、誰にも止められない。
4兆隻もいた銀河連邦軍の艦艇は、すでに半分以下にまで削られていた。
「俺は……、お前らを……、食らう……!」
一基の目が怪しく光る。
それはもう、人や機械の存在を超えた獣であった。
その獣は、己の欲望のために狩りを行う。
一基を動かす欲望。それは。
「もっと戦いたい!」
闘争本能。理性のタガが外れた一基には、それしかなかった。
みなぎる力。拳を叩きつけるだけで蒸発する敵。
それだけで、一基の脳内には麻薬のような高揚感が与えられていた。
そしてヘリクゼンはさらなる成長を遂げる。
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