第39話 修復
ハデスの大爆発は、神武でも観測される。
「ハデスが蒸発!熱波、宇宙放射線、その他もろもろ来ます!」
次の瞬間には、秩序軍の2隻の表面が焼ける。
「ものすごいエネルギー量だ……!」
「今すぐ現在の宙域を離脱!」
「見ろ!火星が衝撃で壊れていく……!」
「いや、ヘリクゼンがまだ帰還していない」
「ヘリクゼン、所在不明!」
士官たちが一斉に確認に入る。
「ヘリクゼンは……?戦術長はどうした!?」
艦長が問いかける。
「現在確認中。爆発の影響でレーダー類が使えません」
「光学装置を用いて観測だ!」
神武に搭載されている光学装置、そして人の目を使って、ヘリクゼンの安否を確認する。
約1時間後、それは見つかった。
「いました!ヘリクゼンです!」
モニターに映像が映し出される。
そこにいたのは、四肢が引きちぎれたヘリクゼンと、残骸だけになったハデス、巻き込まれて破壊された火星があった。
「……連絡は!?通信をつなげ!」
「現在試行中!全周波数で接続を試みています!」
「彼がいなければ、地球の安全は保障されないんだ!なんとしてでも探し出せ!」
その時だった。
『そんなに叫ばなくても、俺はここにいる』
スピーカーから聞こえる一基の声。
その声に、士官たちがどよめく。
「一基様、ご無事でしたか。ケガなどはありませんか?」
『あぁ、問題ない。少しばかり操縦がしにくくなっただけだ』
実際一基のほうは、体のケガなどはない。
「しかし、その状況ではヘリクゼンは動けないだろう。今から救助に向かう。しばらく辛抱してくれ」
『いや、その必要はない』
「だが……」
艦長の声を遮るように、突如としてスピーカーから金切り音が聞こえる。
まるで、黒板を爪で引っ搔いているような不快さだ。
「な、何だこの音は!?」
しばらくすると、その音は金属同士がぶつかり合い、変形するような音に変わる。
すると、ある士官が気づく。
「へ、ヘリクゼンが直っていきます!」
「何っ」
映像を見ると、周辺にあるハデスや火星の残骸を吸収し、再生に使っているようだった。
そしてそれを吸収するごとに、ヘリクゼンは少しずつではあるものの、巨大化していく。
「まだ、大きくなるのか……」
士官の一人が、全員の心境を代弁するように言葉を吐き出す。
『2時間……、いや1時間くれ。完全な姿に戻る』
それだけを言って、一基との通信が切れる。
「ヘリクゼン、一体何物なんだ……?」
艦長の疑問に、誰も答えることは出来なかった。
ヘリクゼンは、時間が経過するごとにその姿を変えていった。
今まではヘリクゼン特有の角ばった形を残していたのだが、今ではその面影も霞む。
どちらかと言えば、より生物的になったというべきか。
そして約束の1時間が経過する。
その時になれば、ヘリクゼンの様子はさらに変わっていた。
機体の大きさは隣に浮かぶ火星の1~2割程度だろうか。もはや遠近感がなくなる程巨大だ。
機体はよりシャープになり、人間に近くなった。
ヘリクゼンver.4、超極限環境対応型惑星間航行宇宙船兼用対惑星規模戦闘可能機体随意変形可能仕様。
もはや、ロボットという枠組みを超越している。
『よし、問題ない。帰投する』
「いや、待て!そんな巨大な機体を収容する場所なんて我々はおろか、地球にはないぞ!」
『単身で帰る。補給には月を使えばいい』
そう言って一基はヘリクゼンを動かす。
その動きは、巨大物体特有の緩慢とした動きではなく、人間と同じようにキビキビとした動きだった。
「ヘリクゼン、ホーマン軌道を無視してまっすぐ地球に向かっています……」
観測員がそのように報告する。
「何がどうなっているんだ……?」
その疑問は晴れないまま、秩序軍は地球に帰ることになった。
ヘリクゼンは、わずか2日で地球へと帰投する。
世界中の天文家が新たな敵であると誤認するほど、ヘリクゼンは変貌していた。
一応、新国際秩序総会のほうは、神武からの連絡でヘリクゼンのことは把握している。
しかし、それでも実際に目にすると、とんでもない巨大さであることを認識させられるだろう。
「あれが、我々の切り札なのか……?」
「もはや黄昏の鉄人計画は破綻した。残念ながらヘリクザールを量産することは無駄だろう」
「彼は問題ないのか?」
「本人は問題ないと言っているが……」
一基が火星での戦いをしてから、空腹や眠気、その他の生理現象がなくなったようである。
月面へと着陸するヘリクゼン。
しかし、ヘリクゼンver.4にもなると、その大きさは無視出来ない程になる。
全長は1000km以上。月の直径の1/3にもなる。
当然、月面でも立たせるわけにも行かず、横にさせるほかない。
だが、ヘリクゼンが月面や地球に近づくことに反対する者が現れる。
当然だ。どんな物体にも万有引力が働いている。二つの物体が無視出来ないほど巨大になり、かつ接近するとロシュ限界を引き起こす。
簡単に言えば、ヘリクゼンが月や地球に接近するだけで、破壊されるというものだ。
しかし、一基はこの忠告を聞き入れず、月面へと降り立った。
ヘリクゼンが月面に降り立っても、なんの現象も起こらない。
結局、この行為は見逃されることになった。
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