第38話 食らう
ハデスへと突撃したヘリクゼンは、そのまま拳を船体に叩きつける。
ハデスと比べればまだまだ小さいヘリクゼンであるが、それでもハデスの全長の1%もあるヘリクゼンがぶつかればハデスとも無事ではない。
「グオッ!」
「艦首に敵が突撃!」
「第5区画全域が破損!」
「破損した区画を閉鎖だ!急げ!」
「クソ……こんなはずじゃ……」
ハデスの指揮官は机を強く叩く。
しかし、それで何が変わるかと言われれば何も変わらないだろう。
一方のヘリクゼン、一基のほうは、とにかくハデスを破壊することしか考えていない。
「うぉぉぉ!」
地球上なら音速を軽く超える速度で拳を振るう。宇宙空間であるため、衝撃波の類いは出ないが、それでも衝突した衝撃はとんでもないものになる。
「俺が!全部!食らってやる!」
すると、頭部に相当する部分に大きな変化が現れる。
口の部分が大きく変化し、そのままガバァと大きく開いたのだ。
そのままハデスの船体を食べるように、バキバキと食らい始めた。
その様子は、ハデスの艦橋でも確認される。
「指揮官!船体が次々と食われていきます!」
「アレはどうした!?アトマイト第二形態は!?」
「すでに出撃させています!しかし……!」
アトマイト第二形態。それはアトマイトを巨大化させた、正統進化型の巨大ロボットである。
アトマイト第二形態は、35分前に起動し、ヘリクゼン排除のために行動を開始していた。
「今はどうしている?」
「それが……」
指揮官のホログラムモニターに様子が写される。
つい10分ほど前の映像だ。アトマイト第二形態の様子を克明に撮影していた。
ヘリクゼンに向かって突撃する様子が分かる。
その瞬間、ヘリクゼンの手が目の前に現れた。
そしてそのまま掴まれて、ベキベキッと嫌な音を立てる。
そのまま映像は切れた。
「……まさか」
指揮官は察する。
アトマイト第二形態は、ヘリクゼンによってすでに破壊されていたのだ。
「指揮官、これ以上はどうしようもありません!今すぐ退却の準備を!」
「ならん!ここで逃げれば戦闘民族としての名が廃る!」
「ですが指揮官。退却すれば、再び奴と相まみえることができるでしょう。今は辛抱して、退却をしてください」
ハデスの参謀がそう意見する。
「グッ……」
指揮官はしばらく考えたあと、こう告げる。
「総員、撤退!現時点を持って地球破壊作戦を放棄し、撤退する!」
そう宣言した時だった。
『そんなこと!俺がさせねぇ!』
その声の主。それは他の誰でもなく、一基のものであった。
「てめぇらは!俺が許さねぇ!」
それと同時に、ヘリクゼンがハデスを食らう速度が上がる。
艦の外からは、アトマイトの群れが攻撃を加えているものの、まったく攻撃が通じていない。
それどころか、攻撃そのものを吸収しているようにも見える。
さらに、接近してヘリクゼン本体に攻撃するアトマイトを片っ端から取り込んでいた。
その様子を見ていたハデス艦橋の乗組員は、一同に唖然とする
「ば、化け物め……!」
指揮官はそう絞りだすことしか出来なかった。
一方で、ヘリクゼンの攻撃はいまだに続く。
頭部では口のような器官からハデスを食らい、体や手からは船体を侵食するように取り込む。
艦の外からの攻撃は、まるで静水のごとく反応せず、むしろ取り込んでいた。
その影響が顕著に出始めたのか、ハデスの船体は大きくバランスを崩し始める。
「指揮官!このままでは機関にも影響が出ます!早く退却を!」
「分かっている!整備隊、退却用の艦船はどうした!?」
指揮官が連絡をとる。
『こちら整備隊!撤退用の小型艇の準備をしているのですが、どれも破損状態がひどいです!』
「なんだと!?」
『おそらく、長い時間整備を行っていなかったことが原因かと!』
「こんな時に限って……!」
戦闘民族である彼らにとっては、撤退はもってのほか。連戦連勝が常であった。
そのため、「撤退する」という行動が頭の中から抜けていたのだ。
それは、整備を行うという点からも外れていた。
本来であれば由々しき事態である。
だが、この状況下では、誰も責めることは出来ないのであった。
そして同時に、指揮官はある決断を下さなければならなくなったのである。
「指揮官、敵に降伏しますか?それとも、艦とともに沈みますか?」
究極の二択。しかし指揮官の考えは決まっていた。
「こんなところで降伏などありえん。我々はこの艦とともに沈もう」
そう決断した。
戦闘民族が艦とともに沈むということが意味するのは、たった一つしかない。
自爆である。
艦橋では、自爆のために作業が開始された。
「機関出力500%まで上昇!非常用エネルギー放出弁閉鎖!」
「キングストン弁解放準備!区画隔壁解放!」
「総員、死に方用意!繰り返す、総員死に方用意!」
着々と自沈、もとい自爆に向けた準備が進められる。
そして準備は整った。
「指揮官、準備完了です」
「敵の本拠地を叩けなかったのは残念だが、最大の戦力だけはもらっていくぞ」
そういって指揮官は、目の前に用意されたボタンを押す。
その瞬間、機関の出力が1000%に達する。
機関の暴走によって空間が伸縮し、ヘリクゼンと一緒に大爆発を起こしたのであった。
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