第37話 侵食

 ハデスでは、ヘリクゼンを近づかせまいと、必死の抵抗が行われようとしていた。


「急げ!護衛艦隊を盾にするんだ!」

「艦内工場は護衛艦隊の増産を急がせろ!」

「敵、前方1000kmを通過!防衛機構動作可能範囲です!」

「防衛開始!」


 指揮官の命令によって、ハデスから大量の光線とミサイルが飛び交う。

 しかし、それでもヘリクゼンの前進は止まらない。

 さらに、次々と量産されるヘリクザールによって、攻撃はヘリクゼンまで届いていなかった。


「こんなことがあっていいのか……?」


 ハデスに乗り込む士官が、そんなことを呟く。

 ヘリクゼンが前進する様子を見て、指揮官はあることを決断した。


「えぇい、こうなればアレを出すしかない!」

「……まさか!」

「あぁ、『恒星の源』を使う……!」


 「恒星の源」。それは、言い換えれば熱核兵器である。

 地球の言葉で訳すなら、純粋水素爆弾ともいうべきか。

 核融合反応によって発生する熱エネルギーと衝撃波によって、周辺の領域を一掃するという使い方から、領域内掃討兵器とも呼ばれる。

 「恒星の源」は、先述の通り、恒星内部で行われている反応を人工的に発生させる兵器だ。

 そのため、様々な制約が課される。

 例えば、発射母体――この場合はハデス――が攻撃を受けることがないように、一定の距離を空けて爆発させる、発射する際には各種防壁を展開し、生物に対して有害とされる宇宙放射線が防御できるようにする、などである。

 これらをクリアした艦のみに装備され、使用が許可されるのだ。

 そんな究極とも言える爆弾を、ハデスの指揮官は使おうとしている。


「……もう、あとには引けないんですね?」

「そうだ。我々は何としてでも、該当者と地球を破壊せねばならん」


 指揮官は腹をくくった。

 そしてそれは、実行に移される。


「艦橋より通達!『恒星の源』の使用を命ずる!直ちに発射準備に入れ!」


 ハデスの艦内はあわただしくなる。

 第三艦橋直下に格納されている弾薬庫から、「恒星の源」を搭載した巨大ミサイルが、艦の外にせりだす。

 その大きさは、ハデスの1%にも達している。

 第三艦橋は、「恒星の源」を運営するための専用艦橋。その中では各乗組員が、あわただしく動き回っていた。


「弾頭制御よし!」

「加速装置は定期点検で問題ないことを確認済み」

「絶対安全距離までの弾道航路を指定!航路入力!」

「メインエンジン点火準備!」

「『恒星の源』の発射カウントダウン開始、残り64秒」


 加速部のメインエンジンが点火し、発射が迫りくる。


「発射5秒前、4、3、2、1、固定部解除」


 ハデスに接続・固定されていた箇所が外れ、「恒星の源」はヘリクゼンに向かって発射される。

 当然、秩序軍とヘリクゼンも観測している。


『ヘリクゼン、正体不明の超巨大物体が接近してきている!直ちに回避を!』

「そんなのいらねぇ!俺が、全部、受け止めてやる!」

『無茶だ!推定70kmの物体を受けとめられる程ヘリクゼンは強靭じゃない!』

「無茶を通すのが俺の流儀だ!」


 そういって一基は、ヘリクゼンを前進させる。

 それに伴うように、ヘリクザールも付いていく。

 迫りくる「恒星の源」。それを迎え撃つヘリクゼンと一基。

 そして両者は中間地点でぶつかり合う。


「『恒星の源』爆破!」


 ハデスの指揮官が好機と言わんばかりに命令を出す。

 だがしかし、何も起きなかった。


「爆破しない……?何が起きた!?」

「大変です!謎のシステムエラーが発生!『恒星の源』の信管が作動しません!」

「なんだとぉ……!」


 つまり、「恒星の源」はただのデカブツとなり果てたのだ。

 そんなことはつゆ知らずの一基は、「恒星の源」に接近する。


「こいつは!俺が!食らう!」


 そう言って交差する瞬間に、外壁に拳を叩きつける。

 するとどうだろうか。触れた瞬間、その周辺がヘリクゼルへと変質したではないか。

 そのまま、ヘリクゼンの一部となり、取り込んでいく。


「『恒星の源』の識別が……書き換えられていきます……」

「そんなバカな!」


 ハデスの指揮官は強く拳を叩きつける。

 ヘリクゼンは再び、表面が波打つように変化していく。

 そして、ヘリクゼルとして取り込まれる速度が早まるにつれて、ヘリクゼンはどんどん巨大化していった。

 最終的に、「恒星の源」すべてを取り込み、完全にヘリクゼンのものにしてしまった。

 その様子は、取り込むというより侵食というべきか。

 全長70kmにも及ぶヘリクゼンver.3は、ものすごい勢いでハデスへと突っ込んでいく。


「指揮官!敵が突っ込んできます!」

「見ればわかる!対抗だ!あるだけの火力を叩き込め!」


 ここでハデスに接近されてしまっては、戦闘民族の名が廃る。

 アトマイトやケルベロス級、ハデスの艦内工場でヘリクゼンに有効な兵器が即座に生産されるだろう。

 しかしヘリクゼンは、ヘリクザールとともにいまだに加速を続けていく。


「簡単にテメェらに負ける俺じゃねぇ!」


 そのままの勢いで、ヘリクゼンはハデスに突貫する。

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