第36話 さらに
各種ロックボルトが解除され、ヘリクゼンは宇宙空間へと放たれる。
「じゃあ、まずは一発ぶち込んどくぜ!」
そういってヘリクゼル熱光線砲をぶっぱなす。
それを真正面から受けた大小様々なケルベロス級は、一瞬で木っ端みじんとなる。
しかし、いかんせん数が多い。撃破されたそばから次々と襲い掛かってくる。
「さすがは該当者だな。戦闘力は申し分なしだ」
ハデスに乗り込んでいる指揮官がそんなことをいう。
「戦闘民族としての血が騒ぐ……。一体アレとどれだけ対峙できるか、な」
そんなことをしているうちに、秩序軍のほうが動く。
『ヘリクゼン、量産機を放出する。戦力として加えてくれ』
「それは良いが、誰が操縦してんだ?」
『いません。ヘリクゼンの戦闘データと自立AIによって、コントロールされています』
ノートンの正面隔壁が開き、そこからヘリクゼンに似た何かが数百機以上出てきた。
『自己自立型緊急戦力補充用ヘリクゼン類似量産機、ヘリクザール出撃!』
見た目はヘリクゼンだが、ところどころ簡易的な設計が用いられている。しかし、極端な設計になってしまったヘリクゼンと異なって、ある程度、人の常識の範囲内に収まるように出来ている。
戦力としては平凡であるものの、数でカバーできるという利点もあるだろう。
しかし、それでもヘリクゼン1機との戦力差は圧倒的である。
ヘリクザールの群れは、ヘリクゼンを追い越してケルベロス級と対峙した。
標準装備であるヘリクゼル熱光線砲が放たれる。
数百の光線は、あっという間にケルベロス級を屠った。
それでも、ケルベロス級はヘリクザールを上回る物量で押し寄せてくる。
すると、ケルベロス級から何かワラワラと出てきた。
『小型の何かが出てきます!』
「ありゃあ、敵のロボット兵器だな……」
そう一基が呟く。
その通り、戦闘民族が操縦するロボット兵器である。全身がトゲトゲしく、攻撃的な性格がにじみ出ていた。
「いよいよ我らの技術の粋、アトマイトが出撃か」
「抜群の攻撃性と火力、しかし防御は弱く出来ているものの、圧倒的な加害性で該当者を蹴散らしてくれるでしょう」
そう彼らは目論んでいた。
しかし、そんなことは意に介さず、一基は冷静に彼らの出方をうかがっていた。
アトマイトとヘリクザールが激突する。
アトマイトは近接戦闘を想定していたのか、こん棒のようなものや長物を装備している。
一方で、ヘリクザールは近接戦闘を想定しておらず、自らの拳を使って攻撃していた。元の機体であるヘリクゼンは、遠距離戦を想定して設計、建造されたため、このようなことになっているのだ。
しかし、その代わりに、ヘリクザールには取り回しの良い銃のようなものを持っている。これにより、比較的遠距離から攻撃を行うことができるのだ。
当然この銃のようなものも、ヘリクゼルで出来ている。
一帯で光線と銃弾と物体が衝突しあう火花が飛び散る中、一基は、戦場を眺めていた。
宇宙空間には高度の概念がないため、自分がいる所と比べて遠近で有利かどうかが決まる。遠くにいれば攻撃を受ける心配もないし、有利な状況になりやすい。
それを知ってか知らずか、主戦場から距離をとっているヘリクゼン。
「……うし、行くか」
そう言って一基は、ヘリクゼンを前進させる。
すでに戦場は双方の残骸で溢れていた。
しかし、一基は、それをわざと避けずに直進する。
次々と残骸がヘリクゼンにぶつかる。
しかし、異変が起こる。
ヘリクゼンにぶつかった物体――ヘリクゼルも敵の残骸もまとめて、まるでヘリクゼンに取り込まれていく。
『な、なんだ?ヘリクゼンが巨大化していきます……!』
『ロストしたヘリクザールの識別が次々とヘリクゼンに書き替えられていきます!』
『なんだ……?いったい何が起きている……?』
秩序軍でも分からない現象が、そこで起きていた。
残骸を取り込んだヘリクゼンは、完全変態する昆虫のように、その姿を変形させていく。
表面は固体ながらも、流体のように波打ち、そして機体の各パーツを構成する。
そして、主戦場を抜けたころには、面影を残しながらも、巨大化した別の機体が存在していた。
ヘリクゼンver.3、極限環境対応深宇宙対艦戦闘特化型指揮系統装備式特殊装備換装仕様。
全長1kmを超える、巨大ロボット。もはや人間の常識の範疇を超えている。
「なんなんだ、あれは……」
戦闘民族の指揮官は、唖然とした表情で ヘリクゼンを見つめる。
一方で、変化は秩序軍のほうにも起こった。
『なっ!?ヘリクザールの指揮系統が何者かによって操作されています!』
『この信号……、まさかヘリクゼン?』
『こちらノートン!待機していたヘリクザールが一斉に出撃した!生産工場も制御が効かない!』
ヘリクザールの暴走、それは当然ヘリクゼンの、一基のたった一つの思いから来ていた。
「俺は、存分に、
ヘリクゼンが、ハデスに向かって、再び前進を開始した。
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