第35話 火星
ヘリクゼン量産計画が本格始動し始め、早数ヶ月。
すでに、量産を行うべく建造されている後方支援艦が完成に近づいていた。
その時である。
日本とイギリス、難を逃れていたすばる望遠鏡にて、あるものが捉えられた。
その報告は、すぐに新国際秩序総会へと上げられる。
「火星軌道上に巨大な物体を観測したそうじゃないか?」
「えぇ。すでにアマチュアからプロの天文家たちが、こぞって観測している」
「それで、その物体とは?」
総会意思決定機関のメンバーのモニターに、その巨大物体が映される。
「これは……」
それは、艦というには巨大すぎた。
横にある火星と、ほぼ同じ大きさをしている。
しかもその周りには、艦艇と思われる小さな光が無数に見られた。
「これは……」
「またとんでもないものが出てきたな」
「しかも、これまでの観測と異なるじゃないか」
すると、世界中にあるあらゆる通信機器がジャックされる。
『あー、あー、聞こえるかね?』
各国の言葉に翻訳されて、それは聞こえてくる。
『我々は、先日地球にやってきた戦闘民族と双璧を成す、真の戦闘民族である。我々はこの宇宙に害を生む該当者を抹殺するため、地球そのものを破壊することを決定した。これは銀河連合の総意である。抵抗できるものならしてみろ。我々は決して負けない』
そういって通信が切れる。
「さて、どうする?」
「どうするもこうするもないだろう。彼を出撃させる」
「しかし、黄昏の鉄人計画はどうする?」
「大丈夫だ。その点は滞りなく進んでいる。今まさに、後方支援艦の完成と、試作量産機の検証が終わった所だ」
「すぐに出撃できるんだな?」
「もちろんだ。そのために作ってきたのだからな」
総会は、すぐに一基に対して出撃命令を下す。
「今回は宇宙か」
「はい。敵超大型艦艇をハデスと命名し、以下周辺に群がっている艦隊をケルベロス級と呼称します。今回の作戦は、ハデスとケルベロス級の破壊となっています」
「宇宙に行くには、また神武に乗っていくのか?」
「えぇ。しかし、今回はノートン級後方支援艦という、ヘリクゼンの量産機の生産および修復を行う艦艇とともに出撃する予定です」
「出発は?」
「早ければ早いほど良いです」
「俺たちのほうなら準備は出来ている。あとはそっちのやる気の問題だ」
「了解です。直ちに出撃準備に入りましょう。我々は陸路に行きますので、一基様は空路で百里に向かってください」
「りょーかい」
そういって、一基たちは百里へと向かった。
その一方で、ノートン級後方支援艦は最終チェックとともに、艦内の工場はヘリクゼンの量産を行っていた。
総会から攻撃命令が下って、1週間もしないうちに宇宙軍のすべての準備が整った。
今回出撃するのは、深宇宙特別攻撃艦「神武」とノートン級後方支援艦「ノートン」、そしてヘリクゼンとその量産機である。
神武の大きさは500m程度であるが、ノートンはそれを遥かに上回る1.8kmだ。
「さすがにデカいな」
一基が神武の艦橋でそんなことを呟く。
「それも当然です。ヘリクゼンの量産機を最大1000機まで生産可能な工場とそれを収容できる格納庫。そして最小限の乗組員で運用されるスマートさ。未来に必要な要素をふんだんに取り込んでいる。いやぁ素晴らしい艦ですよ」
神武の艦長はそう褒めたたえる。
その言葉を、一基は意図的に無視した。
宇宙軍は、火星に向かうために地球の重力を振り切ろうとしていた。
「……しかしこのままだと火星に到着するのは1ヶ月も先だぞ」
「ホーマン軌道に乗れないのはちと不味いな……」
「だがこの艦はヘリクゼル機関だ。そんなの関係なしにいけるんじゃないか?」
艦橋の隅で、航海士たちがそんな会話をしていた。
彼らも宇宙空間での航海は数回しかしたことがない。しかも惑星から惑星に移動する惑星間航行である。当然前人未踏の領域だ。
そんな航海士たちの会話を聞いて、一基は黙っていることが出来なかった。
航海士たちの元に行くと、一言だけ言った。
「ヘリクゼルは不可能を可能にする。ゴチャゴチャ言ってないでまっすぐ火星に向かえ」
その言葉に、航海士たちはポカンとするが、なんとなく話はまとまったようだ。
結局、地球の重力を無視する形で、直接火星に向かう軌道をとった。
天文力学として見れば、ありえないような軌道で火星に向かう。
幸いだったのは、火星が太陽をはさんで反対側にいなかったことだろう。
そんな感じでまっすぐ火星へと向かった。
絶えず加速を行っていたおかげか、わずか数日で火星に近づいてくる。
「目標を光学で観測!モニターに表示させます!」
そういってモニターには、火星の真横に位置しているハデスの姿があった。
「典型的な葉巻型の艦艇。まさに宇宙人が乗っていそうな艦だ」
そう神武の艦長が言う。一基はこれも無視した。
その時、通信系がジャックされる。
『ようこそ地球の諸君。わざわざ該当者を連れてここまで来るとは、敗北を知らないようだな。その心意気やよし。諸君らに絶望を与えてやろう』
そういうと、ケルベロス級に変化が見られる。
どうやら最初から全力のようだ。
「敵が動きました!」
「分かった。いけるか?」
「当然。行きたくてウズウズしているよ」
「よし、出撃準備してくれ」
そういって、一基はヘリクゼンのもとへと向かった。
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