第34話 それから
第二次異星人侵攻から1年程度が経過する。
あれから人類は、「表面上は」手を取り合い、復興に力を入れてきた。
食料は自動化された工場にて生産され、工業はヘリクゼルを中心に回る。
そして、かつて異星人の地上兵器によって蹂躙されたアフリカ大陸をはじめ、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸の半分の土地に対する科学的な影響の調査や、再入植が開始された。
しかし、それでも人類の数は大きく減らしていく。
当然だ。食料工場には限度がある。それを平等に分けてしまえば、全員が平等に死ぬ。それは人類の絶滅に近い。そのため、人類の中でも軽いカースト制度が誕生し、待遇が異なるようになった。
カースト最下部の人間は、生きるか死ぬかの瀬戸際に置かれている一方、カースト上位は異星人侵攻前の生活を維持できている。
そんな生活の中でも、一基はごく普通の生活を送っていた。
「一基様、今日はヘリクゼンの定期点検の日です」
「もう、ヘリクゼン使わなくてもいいんじゃない?あの時以来異星人は侵略しに来ないし」
「しかし万が一のこともあります。新国際秩序総会もそういう見解です」
「……まぁ、別に。俺は出世欲とかないし」
現在の一基の身分は、今まで通り特殊部隊戦術長のままであった。
しかし、本人が言っている通り、出世欲というものはない。この1年ロクな活動は行っていない。それも合わさって、昇格等はなかった。
地味な広報活動などをしてきた他、訓練くらいしか行っていない。
「分かった。勝手にしてよ」
「分かりました。そのように」
そういって世話人は部屋を出ていく。
「……俺はただ、戦いたいだけだ……」
一基の戦闘意欲、それだけはまったく減っていない。
そんなことをしている横で、人類は新たなステップに進もうとしていた。
それは、月面に入植する事。
今後も異星人の侵攻がないとは限らない。そのため、人類が宇宙空間に進出し、直接全天を観測することを目的としているのだ。
そのために、統合した宇宙軍が必要なのである。
そして、月面入植計画は実行に移された。
幸いにして、ヘリクゼルがあるため、建造は簡単になった。さらに、工作艦を使用した突貫工事によって、簡単な観測が行える状態まで作られる。
それに平行する形で、ある計画が準備されていた。
「さて、例の計画についてだが……」
新国際秩序総会。さらにその議長と数名の議員で構成される総会意思決定機関が提唱している計画。
それが、「黄昏の鉄人計画」である。
何を隠そう、内容は単純明快で、要はヘリクゼンの量産計画なのである。
「工場の検討はついたか?」
「地上に構えるのは難しい。そこで、宇宙軍の艦艇を工場にすることにした」
「ヘリクゼンと量産型は、前線で戦うことになる。のんきに後方で構えることもないだろう」
「移動すれば、攻撃を受ける心配が減る。合理的な考えだ」
「詳細な設計は、八菱重工と関連会社が行うことになった」
「完成までにどれだけかかる?」
「最短で2ヶ月だそうだ」
「敵の脅威に脅えている状態ではない。無茶をさせずに建造をさせよう」
そう言って、黄昏の鉄人計画は進行していった。
「……こういう経緯で、改めてわが社のほうでヘリクゼンの戦闘データを受け取りに来ました」
ヘリクゼンの元にやってきた八菱重工の設計技術者。
現在までヘリクゼンに蓄積されているデータを持ち帰りたいとのことだ。
「別に構わないけど」
「分かりました。では失礼します」
一基に頭を下げて、技術者はヘリクゼンのデータが集約されているSSDにパソコンを接続する。
そしてデータの抽出作業を開始する。
しばらく作業を続けていると、技術者があることに気が付く。
「ん?データが一部破損してる……」
何度かデータを取り出してみるものの、一部エラーを吐き出すようになっていた。
「おかしいな……」
そんな技術者の様子を見たヘリクゼン保守整備班の主任が口を出す。
「残念だが、今の俺たちには手の出しようがねぇ。データがとれるだけありがたいと思え」
「いや、しかし……。完全なデータでないと、量産機の戦闘で何が発生するか分かりませんよ?」
「そこは最先端のAI技術ってものでカバーすればいいだろ?」
八菱重工の技術者は黙ってしまう。
「とにかく、こいつは完全なブラックボックスだ。俺たちの手で負えるものじゃない」
そう言って主任は立ち去って行った。
結局、破損している部分のデータはそのままにして、自己学習型AIによって制御することにしたそうだ。
「まさか現場で仕様変更が入るとは思いませんでしたよ。はぁ、また連続徹夜か……」
技術者は重い足取りで本社へと帰っていった。
「ヘリクゼンの量産……ねぇ」
一基が珍しく考え事をしていた。
「どうしました?一基様」
「ヘリクゼンを量産して、何に使うんだろうなって話だよ」
「それはもちろん、地球防衛のためでしょう。それと、一基様の負担軽減と事実上の少年兵である一基様を戦場から遠ざける目的があるのでしょう」
「今時国際法を持ち出してきて、主張を一般化させるなんて、時代錯誤の何物でもないでしょ」
「人類にはそういう時が必要なのでしょう」
「どっちにしろ、俺は戦場から外れるつもりはないからな」
そういって一基はヘリクゼンに乗り込み、その日の訓練を行った。
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