第27話 成長

 一基の活躍により、地上に降り立ったゼシリュフク級は、ほぼすべて撃破された。

 もちろん、その活躍は賞賛されたものではないが。

 一基はそのまま、北富士演習場へと戻る。

 北富士演習場では、世話人が待っていた。


『一基様!ご無事でしたか?』

「このくらい問題ない」

『しかし、現在の所オーストラリア政府とアメリカ西海岸地域、ハワイ・アメリカ軍機構との連絡が途絶えた状態ですが……』

「まぁ、問題ないんじゃないの?」


 そういって、一基は建物のほうに向かう。

 その時だった。

 今の時間は夕方。空の変化が比較的分かりやすい時間だ。

 視界の上方で、何か光るようなものを感じた一基は、視線をあげる。

 そこには、巨大な赤い何かが、隕石のように落下してきていた。


「目標、最大望遠で確認!」

「軌道修正-3.34」

「前方の主砲をすべて奴にぶつけろ!」


 最後の抵抗といわんばかりに、敵の母艦が突っ込んできた。


「我々と該当者、どちらが上か思い知らせてやる!」


 地上でその様子を見ていた一基は、すぐさまヘリクゼンに乗り込む。

 それを止めるように、世話人が聞く


『一基様!何をなさるおつもりですか!?』

「決まってるだろ!あいつを止める!」

『無茶です!あんな高度にいながら視認できるほどの巨大物体、一基様でもどうにもなりません!』

「無茶かどうかはやってみないと分からないだろ!」


 そういって一基は力を込める。


「ヘリクゼン……、あいつを止めるぞ!」


 すると、ヘリクゼンに大きな変化が現れる。

 背中に装着されているジェットパックが大きく変形する。

 まるで背中から植物が生えてくるように、筒状の何かがメキメキと構築されていく。

 最終的には全長20m程度の、固形燃料ロケットのような推進部が成形される。

 ヘリクゼンver.2、大気圏推進機構過多搭載型純粋エネルギー反動推進式推力増強仕様だ。


「行くぞ!ヘリクゼン!」


 一基の掛け声とともに、ロケット推進部が燃焼を開始する。

 いや実際には、ヘリクゼルの放つ純粋なエネルギーが運動エネルギーと熱エネルギーに変換され、まるで推力を生み出しているような状態だ。

 だがそんな理屈は、一基には関係ない。

 今は敵の母艦を退けるほうが先なのだ。

 ヘリクゼンは一度大きくジャンプすると、ジェットパックに火をつけた。その様子はミサイルを発射する方法の一つ、コールドローンチに似ているだろう。

 その様子はまるで、いやロケットの発射そのものだろう。

 周囲をなぎ倒しながら、ヘリクゼンは上空へと飛んでいく。

 あっという間に音速を超え、上空10kmへと到達する。

 一方、敵の母艦は、宇宙空間の定義である上空100kmを切ったところだ。


「目標、こちらに接近してきます!」

「主砲射撃!とにかく撃ち落とせ!」


 ビーム砲が、ヘリクゼンに向かって撃ち込まれる。

 しかし一基は、ヘリクゼンの機動性を駆使して、砲撃を軽々よける。


「ダメです!目標の動きがすばしっこすぎます!」

「奴の目標はこの母艦だ!とにかく最大戦速で突っ込め!」

「了解!推力上昇!」


 それによって、母艦はさらに速度を上げる。

 一方、ヘリクゼンの速度もマッハ10に到達しそうになっていた。

 そして両者は激突する。

 ヘリクゼンはその速度によって、敵の母艦の奥までめり込む。

 母艦にはダメージがあったものの、ヘリクゼンのほうは傷の一つもついていなかった。


「目標の様子は!?」

「艦内に侵入した模様!損害不明!」


 一方で、一基は力を込めていた。


「うぉぉぉ!」


 一基はそのまま補助用操縦桿を全力で押し込む。

 それによって、ジェットパックは最大出力を超えて噴射される。

 その勢いはすさまじく、母艦にめり込んでいるにもかかわらず噴射された熱エネルギーの光が、艦の外にまであふれている。

 そしてそれにより、わずかではあるものの、母艦の軌道が変わっていく。


「艦長!予定の軌道からずれていきます!」

「えぇい!もういい!奴を道連れにできればそれでよい!」


 敵の母艦ができることは、このまま一基とヘリクゼンと共に地上へと降下し、衝突のエネルギーをもって一基を処分することである。

 一方一基は、必死に押し返そうと母艦を押し続ける。それでも少しずつではあるが、母艦の内部へと潜り込んでしまう。


「グゥオオオ!」


 とにかく押す、押す、押しまくった。

 それに比例するように、ヘリクゼンの推力をどんどん強くしていく。

 最初はわずかだった偏差が、次第に大きくなっていく。

 やがて、上空5kmを切り、地上が迫ってきた。

 その時、敵は動く。


「今だ!機関常時排出弁を閉じろ!機関出力解放!」

「排出弁閉鎖!機関出力解放!」


 この作業により、機関は意図的に暴走状態へと入る。

 それと同時に、一基はさらにヘリクゼンの出力を上げた。


「ウワァァァ!」


 その瞬間である。

 ヘリクゼンの押していた壁がすべて破損し、そのまま母艦を貫いた。

 そして、母艦を押していた推力そのままに、上空へと飛んでいく。

 一方母艦は、地面に衝突すると同時に機関が臨界点を突破。

 大爆発を引き起こした。

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