第28話 消失

 ヘリクゼンは反動によって、そのまま上空40kmまで上昇した。

 この高度では、いくら密閉状態であるヘリクゼンのコックピットでも、息が苦しくなってしまうだろうが、当の本人はそんなこと気にしていなかった。

 それどころか、気合を入れすぎたのか、肩で呼吸をする。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 少し息を整えて、一基は地上の様子を確認する。

 日本海、新潟県の沖合に存在する佐渡島。ちょうどそこに巨大な火球が発生していた。

 佐渡島、事実上の消失である。

 しかしそんなことは関係ない。

 一基にとって大事なのは、敵を確実に葬り去ることができたか、である。

 だが、佐渡島が消失するほどの大爆発を発生させたのだ。簡単には生き残れないだろう。


「……はぁー」


 大きく息を吐き、一基はそのまま北富士演習場へと降下していった。

 北富士演習場に到着した時、時刻は既に夜だ。

 いつもの場所に降り立つと、そこには一基の世話人がいた。

 一基はヘリクゼンから降り、彼の元に行く。


「一基様、このような無茶は今後控えてください」

「そういわれてもな。俺が何とかしなかったら、この周辺は大変なことになってただろ?」

「それはそうですが……」

「心配しなくても、俺はちゃんと戻ってくるって」


 そういって一基は、北富士演習場にある自分の部屋へと戻っていった。

 一基と入れ替わるように、ヘリクゼンの修理や保全を担当する作業員がやってくる。

 そんな彼らは、巨大化したヘリクゼンを見て、唖然としていた。


「これが、ヘリクゼンだと……?」

「見た目どころか、大きさまで違う……」

「……と、とにかく、見れる場所は全部見ていくぞ」


 そういって主任が作業員を連れて、ヘリクゼンの点検にあたる。

 数十分後、作業員たちは頭を抱えていた。


「大きさもそうですが、これまでの仕様書とまったく異なります。点検なんか無茶ですよ」

「コックピットの様子もだいぶ違ってました。もはや別物です」

「昨日まではいつものようになっていたのに、今日一日で何があったんでしょう?」

「一体どうなっているんだ……」


 手元のチェックシートは使い物にならない。

 職人のカンでやろうにも、ヘリクゼンそのものが未知の構造になっていて、これまでの常識が通用しない。

 変わっているとは思えないコックピットまで変化が激しく、手の付けようがない状態だ。


「こいつはブラックボックスと化しちまったな。もう俺らでは手の施しようがない」


 その言葉を象徴するように、戦闘の傷跡が一切見当たらないヘリクゼン。

 主任は、なにか嫌な予感を感じるのであった。

 自室に戻った一基は、ベッドに横になり、目をつぶる。

 今日起こった事を振り返った。

 ゼシリュフク級の襲来。それに対抗するために進化したヘリクゼン。数多のゼシリュフク級を葬り去ったヘリクゼン・トマホーク。そして敵の母艦との押し合い。

 敵を撃破していくうちに感じていた、謎の高揚感が一基のことを酔わせていた。


「もっと……もっと多くの敵を壊したい……!」


 闘争心というべきか。とにかく戦いたい、という感情が一基の中で芽生えていた。

 翌日。一基の元に世話人がやってくる。


「一基様、先ほどハワイ・アメリカ軍機構から連絡が届きました。現在空母エンタープライズが沖合に退避中とのことですが、艦載機の消耗も激しく、じきに戦闘不能になるだろうと予測されています。よって救援を求むとのことですが……」

「うん、まぁ、適当に対処しておくよ」


 そういって部屋を出る一基。

 そのままヘリクゼンのもとに行く。

 ヘリクゼンに乗り込んで、ヘリクゼン・トマホークを生成した。


「よっこい、せ!」


 弾頭が空っぽのまま、ヘリクゼン・トマホークを放り投げる。

 そして巡航モードの状態で通信をする。これによって、ヘリクゼン・トマホークの状況を光学、レーダーによって確認できるのだ。

 そのままハワイの真珠湾まで飛ばす。

 そしてそこにいるゼシリュフク級に狙いを定めた。

 その瞬間である。

 ヘリクゼン・トマホークが破裂し、真珠湾中に降り注ぐ。

 それによって、その場にいたゼシリュフク級に破片が命中する。

 その中には、動力炉に命中する破片もあるだろう。

 それによって、そこら中で大爆発が発生した。

 この攻撃であらかたのゼシリュフク級が破壊された。


「これで大丈夫でしょ」


 一方、被害の少なかったイギリス・ロンドンでは、新国際秩序総会による会議が行われていた。


「ヘリクゼンの戦いぶりには目を見張るものがある」

「彼らにはもう一仕事働いてもらうことにしよう」

「日本にはアレがあったはずだ。動かしてもいいのでは?」

「いつまでも虎の子にしておくわけにもいかんだろう」

「新国際秩序として、日本政府に正式に要請しよう」


 なにやらきな臭い香りがするが、これも人類のためだろう。

 新国際秩序には、ある思想が浸透していた。それは、「異星人はすべからく撃滅すべきである」というものだ。

 これから起こることも、その思想によるものだろう。

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