第26話 狂乱
ゼシリュフク級を多数破壊したからと言っても、流石にオーストラリア全土の敵を破壊するには至らない。
それに、一基の事を追いかけてくる複数のゼシリュフク級もいる。
退路を絶たれている状態では、不利になるだろう。
しかし一基は違った。
「ヘリクゼン・トマホークが使い放題じゃねぇか……!」
そういって一基は、後方から接近してくるゼシリュフク級を迎え撃つ。
目的はただ一つ。ゼシリュフク級の動力炉である。
この動力炉さえあれば、いくらでもヘリクゼン・トマホークが造れる。
今やゼシリュフク級は、一基からしてみれば排除するべき敵ではなく、効率的に敵を葬るための道具にしか見えなくなっているのだ。
そのため、戦い方にも変化が見られる。
これまでは、何も考えずに有効である攻撃をしてきたのだが、今は邪魔な手足を排除して動力炉を奪う、もしくは動力炉を直接狙うような戦い方になってきていた。
「うはははは!寄越せ!全部俺に寄越せぇ!」
もはや一基の人格すら変わってきている。
そんな状態だから、次々とゼシリュフク級は撃破されていく。
『こいつはヤバい!迂闊に手を出すな!』
『新兵は下がっとれ!ここは老兵の出番だ!』
『隊長機がやられた!』
通信に紛れ込んで、こんな音声データが飛んでくる。
しかし、そんなことに気を取られている一基ではない。今はヘリクゼン・トマホークの材料となる動力炉を回収するのに忙しいからだ。
撃破したゼシリュフク級の動力炉を回収したら、即席で造った籠に入れる。
おおよそ5個ほどで一杯になってしまう。
一基は一度ゼシリュフク級と距離を取り、複数のヘリクゼン・トマホークを造る。
そしてそれを、自動誘導で発射した。あとは自動でオーストラリアの各地域で爆発することだろう。
荷物を空にしたヘリクゼンは、その場から逃走するゼシリュフク級を追いかける。
もちろん、次の材料にするためだ。
「待てよゼシリュフク!逃げたら材料にならないだろぉ!」
宇宙最強格の種族であるはずのゼシリュフク級が逃げ出す程の狂いっぷりである。もう誰にも止められないだろう。
こうして一基は、太平洋を空中を飛行していたゼシリュフク級をあらかた倒してしまう。
そして、その動力炉を使用して、世界各地に向けてヘリクゼン・トマホークを発射する。
「もっと、もっとだ……。もっと寄越せ……!」
一基、完全に我を忘れる。
まるで何かに憑りつかれたように、ゼシリュフク級の姿を探す。
しかしその姿はどこにもない。
それもそうだ。
今回やってきた敵である異星人は、数の少ない精鋭揃いだった。しかし、覚醒した一基とヘリクゼンの前にすべからく破壊されてしまったのである。
それに想定外だったことに、ゼシリュフク級の動力源たる炉がヘリクゼルと激しい反応を起こす事を一基に気が付かれてしまったことだ。
これにより、地球で最も威力のある爆弾が出来上がってしまった。
それを使うことで、敵のゼシリュフク級たちは致命的なダメージを負ってしまったのである。
宇宙空間に存在する、ゼシリュフクの母艦では、緊急の対策会議が行われていた。
「この事態、一体どうすればよいというのだ!?」
「惑星攻略のために出撃した機体は、ほぼ全てが奴に撃破されてしまった。これ以上の戦闘は困難だ」
「宇宙最強とも謳われる我々が、たった一機の機体にやられたとなれば、同胞に汚名を着せてしまうことになる」
「今からでも遅くない。本国に連絡を入れて、さらに多くの戦闘員を配備させるのだ」
「しかし、ほかの連中がその通信を聞いたらどうする?」
「そのための秘匿回線ではないのか?」
「いや、秘匿回線はあくまでも見せかけの脆弱な回線だ。聞こうと思えばいつでも聞けるだろう」
「ならばどうする!?完全に八方ふさがりだぞ!?」
「いえ、艦長。一つだけ方法があります」
若い参謀が意見具申する。
「それは本当か?」
「えぇ、確実に効果を発揮でき、かつ奴を葬り去る方法です」
「して、その方法とは?」
「この艦を丸ごと突撃させるのです」
「……何だと?」
部屋の中が騒然とする。
それもそうだ。やっていることは特攻そのものだから。
「馬鹿を言うな!この艦を突撃させたら、我々はどうしろというのだ!」
「無論、この艦と共に死ぬことでしょう」
そう言われて、艦長は静かになる。
「……確かに、我々は戦いと共に文明を発展させてきた。時には自らの犠牲もいとわずに攻撃を最優先にすることもあっただろう。あの時の英雄も、同じような状況で、同じような思いだったのかもしれないな」
そう艦長が呟く。
そして決断した。
「分かった。この艦は乗組員と共に、あの忌まわしき機体に向けて突撃を敢行する。ついてきてくれるか?」
「勿論です、艦長。我々は誇り高き戦士ですよ?」
「……総員、死に方準備!進路を敵に向けろ!」
そう艦長が号令する。
それによって、各員は自分の出来る限りの事をする。
そして母艦は、地球に吸い込まれるように高度を下げていった。
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