第25話 飛行

 北富士演習場での戦いは終わった。

 そう、この場所では。


『一基様、聞こえますか?』

「よく聞こえる」

『正直、信じられないような光景を目の当たりにしていますが、それよりも重要なことがあります』

「簡単に説明して」

『結論から言えば、人類生存圏に存在するゼシリュフク級を排除してほしいとのことです』

「なるほど。総会の意見って訳ね」

『しかし、今から移動するとなると時間がかかりますし、なにより今のヘリクゼンを輸送する方法が限られてしまいます』

「それなら問題はない」

『はい?』

「自力で飛ぶ」


 そう言って一基は、補助用操縦桿を強く引く。

 それに合わせて、ヘリクゼンのジェットパックが動いた。

 ジェットパックからアフターバーナーが噴射し、そのまま飛翔する。


『な!?一基様!』


 世話人の制止を振り切って、一基は天高く飛んで行ってしまった。


「とにかく、今はどこに何がいるのか、それだけを教えてくれればいい」

『しかし、ヘリクゼンには地図も何も搭載されていませんよ?』

「大丈夫。地図は表示されている。このまま突っ込む!」


 そういって、音速を超える速度で海上を疾走する。

 しかし、音速を超えてもなお、到着には時間がかかるだろう。

 だが、そんな状況でも油断は出来ない。

 なぜなら、飛行中にも関わらず、多数のゼシリュフク級がランデブーしているからだ。


『こいつ飛行能力持っていたのか!』

『これ以上の侵攻は防げ!』

『敵は一機だ!徹底的に叩きのめせ!』


 敵の通信が入ってくる。


「敵のほうから寄ってくるとは、いい機会だ。ここで潰す!」


 そういって一基は、補助用操縦桿のスイッチをいじる。

 すると、ヘリクゼンの全身から何かハッチのようなものが開く。

 そしてそこから、無数のミサイルが発射される。

 一瞬にして、ヘリクゼンが煙によって見えなくなった。

 一方ミサイルは、ゼシリュフク級の集団に向かって飛翔する。


『なんだこれは!?』

『回避ー!』

『駄目だ、回避出来ない!』


 無数のミサイルによって、ゼシリュフク級は多数撃墜されることになる。

 それでもなお、ヘリクゼンの周辺には多くのゼシリュフク級がいた。


「まだまだぁ!」


 次から次へと、ミサイルが発射される。

 その量は、ヘリクゼンに搭載出来るであろう量を明らかに超えていた。

 その理由はただ一つ。ミサイルがヘリクゼルによって出来ていたからだ。

 一基はヘリクゼルを自由自在に扱うことが出来る能力を持っている。

 さらに、ヘリクゼルは質量保存の法則を無視した質量変化を起こすことが出来るのだ。

 それによって、ミサイルをヘリクゼン内で成形・発射することで、無数のミサイルが襲い掛かる仕組みである。

 さらに、この攻撃を見た一基は、あることに気が付く。


「爆発が予想より大きい……」


 ある事を考えた一基は、前方にいたゼシリュフク級を捕獲する。

 そのまま、動力源であろう塊を機体から無理やりはがす。

 それをモニター越しで確認したヘリクゼンから、ある情報がもたらされる。


「これは……」


 それを見た一基は、ある物を造る。

 一基の目的地であるオーストラリアでは、大量のゼシリュフク級が空中を埋め尽くしていた。


『ここに地球の総本山があるらしいが……』

『残念ながら、ここから17000km先の都市が本当らしいです』

『なら仕方ない。向こうにいる味方に任せるとして、ここはここで破壊するとしよう』


 そんなことを言っている時であった。

 一基があるものを造り終える。

 ヘリクゼンの全高ほどある円柱状のものだ。


「ヘリクゼン・トマホーク!」


 そういって、ヘリクゼンから円柱状の何かが投げられる。

 ヘリクゼン・トマホーク。それは斧状のものではなく、ミサイルのトマホークである。

 しかし、本家トマホークと違う所は、その大きさだ。本物は全長6m程度であるが、ヘリクゼン・トマホークは全長30mほどある。そのため、圧倒的な長射程、それに見合った加害力が見込めるだろう。

 しかし秘密はそれだけではない。

 この炸薬には、ゼシリュフク級の動力炉が使われている。

 ヘリクゼンは、この動力炉から放射されるエネルギーが、ヘリクゼルと衝突することによって、より強大なエネルギーを放出することが分かったのだ。

 そのため、弾頭に動力炉を使用し、意図的に暴走状態にすることで、ヘリクゼルと反応。大爆発を引き起こすという算段だ。

 ヘリクゼン・トマホークは、音速の何倍もの速度で空を滑空する。

 その様子に、オーストラリアのゼシリュフク級の群れは気が付いていない。

 ヘリクゼン・トマホークの到着まで、残り30秒程になった。

 その時になって、やっと敵は自分たちに降りかかろうとしている災難に気が付く。


『何かが超高速で接近中!』

『該当者か?』

『そこまではなんとも……』

『とにかく迎撃準備だ!総員対空戦闘用意!』


 ゼシリュフク級たちは、素早く陣地転換し、防御態勢になる。


『……来たぞ!』

『迎撃開始!』


 一斉に弾幕が張られる。

 しかし、予想よりも速度が速く、ヘリクゼン・トマホークは弾幕をかいくぐってきた。

 その瞬間である。

 大地を揺るがすほどの大爆発が発生した。

 ゼシリュフク級の動力炉と、ヘリクゼルの相互作用によって、史上最大の爆弾とも言われるツァーリ・ボンバを上回る程の衝撃波が発生する。

 これにより、上空に待機していたゼシリュフク級は勿論のこと、地上にいた敵や、人類もろとも衝撃波によって吹き飛ばされた。


「間に合ったか……」


 何も間に合っていない。

 が、ゼシリュフク級を殲滅せんとする一基の前にはどうでもいいことである。

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