第19話 ボス戦
しばらくにらみ合いが続くが、それを打ち壊したのはまたしても一基であった。
どちらかと言えば、しびれを切らしたというべきか。
素早く照準を合わせ、熱光線砲を発射する。
しかしリーヴはそれを見越していたのか、簡単に回避した。
「ぬるい!」
リーヴは回避と同時に、一気にヘリクゼンへと接近する。
そして何かを取り出す。
何か長い棒のようなものである。
一基は瞬時に、命中したら大変なことになることを理解した。
そのため、スラスターを全力で噴射し、レールガンで引き撃ちしながら逃げる。
だが、それ以上にリーヴは接近し、棒を振り回す。
その時である。
棒の表面を光が覆う。
「ぐぅっ!」
一基は予備のレールガンを盾にして、棒を受け止める。
一瞬、はじかれるような感覚がした。しかし、まるで粘土を扱うように、レールガンが斬られる。
一基はそのまま、リーヴとの距離を取った。
『どうだね、私の光線刀剣は?ありとあらゆる物質を切断できる万能さ。まさしく私にふさわしい一品だ』
そういってリーヴは高笑いする。
一方で一基は、正直いって余裕がなくなっていた。
この光線刀剣、リーヴの言葉を信じるならば、ありとあらゆる物質を斬ることができると推測できるだろう。
そして、リーヴの乗っている機体は、ヘリクゼンと比べてもかなり速い。白兵戦では分が悪い。
ならばできることは一つに限られる。
全力で妨害することだ。
「ふっ!」
一基は、リーヴに攻撃を仕掛けようと前に出る。
それを、リーヴは光線刀剣で受け止めようとした。が、直前に一基が方向転換をする。
そして、そのまま赤紫色の球体へと向かっていった。
「うぉぉぉ!」
そのまま、熱光線砲で球体を含む周辺を一薙ぎする。
熱光線砲が持つ圧倒的なエネルギーによって、この空間を構成する部材が破壊された。
そしてそれは、球体にも異変を引き起こす。
球体は、熱光線砲の攻撃を受けて、内部まで破損する。
『……まさか!』
ようやく、リーヴが一基の狙いに気が付いた。
古今東西、動力源に破損があれば大惨事になることは目に見えているだろう。それは蒸気機関車しかり、自動車しかり、航空機のエンジンしかり。
つまり、母船の動力源と推測されるこの球体を破損させれば、最悪の結果が待っていることだろう。
『貴様ァ……!』
リーヴ、キレる。
一基の攻撃を止めるため、瞬時に加速した。
そして光線刀剣でヘリクゼンをぶった切ろうとする。
しかし一基は、それに熱光線砲で応戦した。
波の性質により、光線と光線が交差しても変化はない。だがリーヴの刀剣は、棒に沿って光線を発生させている。
つまり物質である棒は、熱光線砲の影響を受けることになるのだ。
熱光線砲のエネルギーによって、刀剣部が熱を帯びる。そしてそのままクニャッと曲がった。
光線刀剣は、刀剣部の間を光線が往復することによって、エネルギーを増幅させている。そのため、刀剣部は高精度な調整が要求されるのだ。
逆に、精度が落ちることで、光線の往復が出来なくなる。つまり、光線刀剣として機能しなくなるのだ。
『くそったれがぁ!』
ただの棒になってしまった刀剣を振り回し、リーヴは接近してきた。
それを冷静になって、一基は回避する。
しかし、キレたリーヴの攻撃性は、相当なものであった。
圧倒的なスピードによって、少しずつではあるが、ヘリクゼンにダメージが入るようになる。
そのダメージが蓄積した結果なのか、もう片方のレールガンも破壊された。
「ちっ!」
一基は、一度熱光線砲を放って逃げようとした。
しかし、その隙すらも与えない速度でリーヴの攻撃が飛んでくる。
こうなれば逃げではなく、攻めでいくしかないだろう。
まずは至近距離からの熱光線砲。そして、使い物にならなくなったレールガンを長物代わりに使って、リーヴの攻撃を受け止める。
『貴様だけは絶対に許さん!』
「勝手にほざいてろ!」
そのまま、激しい棒のぶつけ合いである。
一基は精神が擦り切れる程に集中していた。
だが、それは唐突に終わる。
一基のレールガンが弾かれたのだ。
それにより、一基に一瞬の隙が生まれる。
それをリーヴは見逃さなかった。
『ふんっ!』
そのままヘリクゼンの右肩に一撃。
それにより、ヘリクゼンの右腕が機能しなくなる。おそらく配線系統がイカれたのだろう。
急に右腕が機能しなくなったため、ヘリクゼンの動作が急に鈍る。
「くそっ!」
左腕だけでどうにか戦おうとするものの、同じように左腕が吹き飛ばされる。
両腕を失ったヘリクゼンには、戦う力はさほど残っていない。
一基は、このまま戦えば負けるであろうという考えに達する。
どうにかして逃げる手段はないものか、一瞬周囲を見渡す。
それが命取りであった。
コックピットに向かって、リーヴの機体の手が勢いよく伸びる。
それにより、コックピットのハッチが破壊され、そしてそのままコックピットの中にリーヴの機体の手が侵入する。
その衝撃なのか、補助用操縦桿が折れ、これ以上の操縦を困難にした。
そしてそのまま、ヘリクゼンの外に掴み出される。
『どうした、これ以上はもう無理か?』
リーヴが問いかけた。
一基の人生史上、最大のピンチである。
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