第16話 換装

 抗うつ薬を飲み始めて1週間。

 一基の体調は回復に向かっていた。

 この日も元気よく兵士級を撃破する。

 しかし、いいことばかりではない。アメリカ戦線で確認されていた兵長級が、日本戦線でも確認されたからだ。

 兵士級を凶悪にした兵長級は、兵士級5体分の攻撃性を有している。

 そうなれば、もはや自衛隊ではどうにもできない。

 しかし、それを打破できる存在が一つ。

 それが一基とヘリクゼンである。


「うぉぉぉ!」


 この日も、ヘリクゼルで出来た弾丸をばらまき、圧倒的な弾幕で敵を蹴散らしていく。

 だが、そのヘリクゼンは少々外形が変わっていた。

 実は一基が勝手にレールガンを増設し、装備させているのだ。2門追加したことで、計4門のレールガンを装備していることになる。

 一基はこれを、「ヘリクゼン対空特化型」と命名した。

 しかし、レールガンが増えれば、それだけ操縦に負荷がかかるものである。これを解決するために、一基は2門一組として連動させるように細工を施した。

 これによって最小限の負荷で、問題なく稼働できるようにしている。


『第3波接近。兵長級が半分以上占めているぞ』

「まったく問題ないね!」


 そういって次々と敵を蹴散らしていった。


「お疲れ様です、一基様」


 この日の戦闘が終わり、ヘリクゼンから降りてくる一基を、世話人が出迎えた。


「気分のほうはいかがですか?」

「問題ないね。気分がいいよ」

「それは幸いです。それから重要な連絡がフラメタックスジャパンから届いています」

「重要な連絡?」

「ヘリクゼンに取り付けられるアタッチメントが、今日の夜に到着する予定です」

「へぇ……」

「基本となる腕パーツを、レールガンが装着されている肩に取り付けるタイプです。腕の先端には、近接格闘用の拳型、近接戦闘用のチェーンソー型があります。さらに、機動性を高めるために、背後ブースターを出力の高いものに換装する予定です」

「それ、一晩で終わる?」

「技術的には可能です」

「それ、ダメなやつじゃん」


 そういって車に乗り込む。


「ま、戦闘がしやすくなるならなんでもいいよ」

「かしこまりました」


 そういってこの日は撤収した。

 日が暮れてから2時間ほど。対馬空港に、ヘリクゼンの追加アタッチメントを載せた輸送機が降り立った。

 陸自の施設科が、早速作業に入る。

 基本である拳型を最初に装着することになった。今まで使っていた腕代わりのレールガンが外され、そこに腕が取り付けられる。

 それと同時に、背後のジェットパックの換装も行われる。今までのものより強力なものだ。

 こうして夜通し行われた換装作業は無事に終了した。

 翌朝、一基は新しくなったヘリクゼンを見る。


「ふーん。様になってるじゃん」

「これで戦闘の幅も広がることでしょう」

「いや、レールガン半分も減ったら攻撃力下がるでしょ」


 そう言いながらも、一基はヘリクゼンに乗り込む。

 起動時のチェックを済ませると、ヘリクゼンの手の感触を確かめる。


「なるほど。こんな感じか」


 一基の持つ能力で、操作系を最適化する。

 最初は少しぎこちなかったが、ものの数分でスムーズに動くようになった。


『ヘリクゼンに通達。本日の第1波を確認した。予想会敵時刻は今から35分』

「了解。今日は近接戦で行く」


 そういってジェットパックを吹かす。

 軽く助走をつけると、簡単に宙に浮かび上がった。


「このまま敵に突っ込む!」

『待て。迂闊に突っ込むのは危険だ』


 自衛官の制止を振り切って、一基は海上へと進出した。

 目の前には、数多の兵士級と兵長級。そして数体ほど見たことない個体もいる。


「あれは新型か?」

『ヘリクゼン、こちらでも確認した。攻撃性が不明だ。十分注意されたし』

「了解。戦闘に入る!」


 そういって、一基は敵中へと突っ込んでいく。

 まずは、手ごろな敵に拳を叩き込む。

 右ストレートは見事に兵士級に入り、そしてそのまま海へと落ちていく。


「おらぁぁぁ!」


 スラスターを全力で吹かし、次々と兵士級を撃墜していく。

 それと同時に、敵のど真ん中でレールガンを速射する。

 これにより、内部からどんどん撃破していく。

 敵の習性の一つとして、地球側の動いている物体を攻撃するという特性がある。

 それにより、敵は一斉にヘリクゼンの方へと飛んでいく。


「かかってこい!全部まとめて海の藻屑にしてやる!」


 そういって力技で押し切ろうとする。

 こうして第1波は素手と予備のレールガンで何とかしてしまった。


『第1波の消滅を確認。ものすごい力だ……』


 そう自衛官が感嘆する。

 結局その日は、海上で敵をすべて撃破してしまった。


「今日もお疲れ様でした、一基様」

「いやぁ、今日はいい感じだった。調子もいいし、これはこれでありだな」


 そういって駐屯地に戻る車に乗り込んだ。

 この日の撃破数は1万6829体。過去最高を記録した。

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