第15話 アメリカ

 アメリカ合衆国東海岸。

 ニューヨークやワシントンD.C.など、世界有数の都市を擁するこの地域は今、戦火に包まれていた。

 それは、アフリカ大陸、ヨーロッパ各国を襲撃した異星人の兵器、兵士級とは別の種類が確認されたからである。

 それは、兵士級をよりも攻撃性が上がり、体の色も警告色に彩られた、通称兵長級である。

 兵士級にも飛行型はあったものの、兵長級はさらに飛行距離が伸びているのだ。

 これによって、大西洋の中心あたりまでやってくる個体が現れる。

 しかし、これならまだ問題はない。

 問題は兵士級が群集化し、海に適合したことだ。これによって、船のようなものを構築することを可能にした。

 いまだ水に触れると体が崩壊するものの、少しばかり耐性がついているようだ。

 それに、崩壊した所から兵士級が穴を埋めて浸水を防いでいることが観測でわかった。

 つまり、新陳代謝のように自己修復をしながら、海を渡ってくることが可能になったのである。

 これにより、全長500mを超える「船のようなもの」が複数個誕生し、船団となって大西洋を渡ってくるのだ。

 当然、この船団には兵士級、兵長級が載っている。

 その運用は、さながら空母そのものだ。

 当然、アメリカ海軍第2艦隊および被害を被った第6艦隊が総力をあげて、これを撃滅せんとした。

 しかし、ほぼ無限湧き状態の異星人の兵器は、その圧倒的な物量でアメリカ海軍の攻撃を上回る攻撃を仕掛けてくる。

 これによって、第2艦隊および第6艦隊は補給物資をも食らいつくす程の弾薬を消費した。

 物量で押しこむのがアメリカのやり方みたいな所はあるが、その国の軍でさえも苦戦する相手である。

 やがて弾薬切れを起こす艦が続出し、艦隊は一時撤退を余儀なくされた。

 しかし、アメリカにいる軍事専門家の中には、異星人の兵器は大西洋を渡ることができないと考える人間が多数であった。

 当然だろう。水が弱点である兵器が、5000kmも離れたアメリカ本土にたどり着けるわけがない。誰でもそう思うだろう。

 例え大西洋を渡ってこれたとしても、ポルトガル領アゾレス諸島に到着するのが精一杯とする意見も多くあった。

 しかし、異星人の技術はそれどころではなかった。

 なんと、アゾレス諸島を通り越してアメリカ東海岸に到達する「船のようなもの」が現れたのだ。

 観測してみると、どうも表面に何かを張り付けているようである。さらに詳しく見てみると、それは車や看板など、金属で出来ているものを平らに押しつぶして板状にしたものであることが分かった。

 こうなれば、当然兵士級や兵長級は「船のようなもの」から飛び立ち、アメリカ本土を襲撃するだろう。

 真っ先に狙われたのは、ニューヨークやワシントンD.C.など、大都市である。

 そのころ第2艦隊や第6艦隊は、偵察部隊としてわずかな艦艇を残して補給のために撤退していた。それにより、初動対応が行えず、大都市圏を敵によって蹂躙されることになったのだ。

 アメリカ合衆国の歴史上、初となる本土侵略である。

 これによって、アメリカ東海岸は戦火に見舞われることになった。

 今回の異星人の襲撃によって、ニューヨーク、ワシントンD.C.、ボストンが攻撃される。

 たった3日にも満たない時間で、アメリカ合衆国の首都が落とされた事件として、後世に語り継がれる「アメリカ帝国没落事件」だ。

 主に北東部が攻撃されたことで、南東部が孤立する。

 それにより、異星人の攻撃を防ぐことを目的に、各州の州兵が招集された。

 しかし西海岸地域は、慎重な行動をとるように南東部の州に呼びかける。

 だが、明確な敵意を持った敵がすぐ目の前にまで来ているのだ。普通なら正常ではいられないだろう。

 そのほか、数多くの山脈に阻まれた西海岸は安全地帯であることを指摘され、南東部の州が西海岸へ向けて住民の避難を開始させる。

 しかし、西海岸地域にとってみれば、この行動は到底受け入れられるものではない。

 そのため、残酷にも避難してきた住民に対して州境を封鎖し、避難民の受け入れを拒否するという行動に移った。

 この行動を見た南東部の州は陸軍州兵を動員し、警告なしに攻撃を開始した。

 これを感知した空軍州兵によって攻撃されたことを確認した西海岸地域の州は、負けじと陸軍州兵を派遣する。

 これによって、南北戦争以来となるアメリカ内戦、「東西戦争」が勃発したのである。

 それに、首都を失ったアメリカ合衆国の、次なる首都をめぐって東西で反応が分かれた。結局、東西でそれぞれ臨時政府を樹立させ、東西戦争を過激にさせていく。さらに言ってしまえば、西海岸地域でも意見がそれぞれ分かれ、各州が覇権争いを開始することになってしまった。

 泥沼とはまさにこのことである。

 しかし、希望はまだある。アメリカインド太平洋軍だ。

 アメリカ海軍最強とも謳われる第7艦隊と第3艦隊がほぼ無傷の状態でいる上、撤退してきた在日米軍、在韓米軍、海兵隊を擁している。

 それらがハワイ周辺に集結していた。

 もし、アメリカ合衆国が崩壊することがあれば、ハワイを中心にアメリカ臨時政府を樹立することだろう。

 その時が来ればの話だが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る