第14話 対策
自衛隊の辛勝の情報は、一基の元にも伝えられる。
「……被害の報告は以上です」
「従来の兵器がまったく歯に立たない。アフリカとユーラシアで経験したことだろうに」
「それでも善戦したほうだと思いますが……」
「とにかく、今日はゆっくり休養がとれた。明日からはまたヘリクゼンに乗る」
「しかし、完全ではないでしょう?たった一日ではなんともならないと思いますが……」
「いや、今の自衛隊には補給が必要だろ?その点、ヘリクゼンは補給がいらない。故に戦闘可能時間が圧倒的だ」
「確かにそうですが……」
「とにかく、明日からはまた俺が出る」
そういって一基は、部屋から世話人を追い出す。
そしてベッドに横になる。
「異星人を倒せるのは俺だけだ……。俺だけなんだ……」
そう自己暗示をかけるように繰り返す。
翌日、整備が終わったヘリクゼンに乗り込む一基。
「本当に大丈夫ですか?」
世話人は何度も確認する。
「大丈夫だって。そんなに心配するほどじゃないし」
そういってコックピットのハッチを閉める。
『ヘリクゼン、戦闘準備完了』
『レーダー上に敵影を確認。会敵まで推定30分』
陸自の観測員が状況を報告する。
一基はその通信を聞きながら、手を頭にやった。いまだ頭痛は治まらない。
「くそっ……。このまま
しかし、ここで異星人の攻勢を抑えなければ、日本は陥落待ったなしである。
「ちょっと無茶するのは、仕方ないよな……!」
そういって、一基は姿勢を低くして構える。
『敵影、目視で確認!』
「おらぁ!」
機関砲でもぶっ放しているかのような、圧倒的な連射速度。
これによって、兵士級の群れは次々と撃墜される。
『これが一人の人間ができることなのか?』
『とんでもない撃墜数だ』
陸自の観測員がそんな言葉を漏らす。
「おらおらおらおらおらおら!」
両腕の代わりに装備されたレールガン2門は、次々と砲身を交換しながら迎撃を続ける。
それに伴い、弾丸を尽きさせないように、とにかく弾丸を量産していく。
『本日の第一波、壊滅』
『第二波の群れを確認。会敵まで1時間と推定』
少しばかりの休憩である。
しかし、頭痛によりまったく休憩ができない。
「こいつ、俺に無茶でもさせるつもりかよ……!」
一基はそうつぶやく。
その日は結局、第五波まで攻撃がやってきた。
「はぁ……はぁ……」
『敵の撤退を確認。本日の状況を終了する』
そういって、一基はヘリクゼンから降りる。
「お疲れ様です、一基様」
「ん」
「頭痛ですか?」
「あぁ、今朝からひどくてたまらない」
「今日は早く帰ってお休みになられてください」
その時、世話人のスマホが鳴る。
「はい、もしもし。……はい、はい。……分かりました。そのようにします。はい、失礼します」
世話人がスマホをしまうと、一基のほうを向く。
「一基様、お休みの前に医務室に立ち寄ってください」
「なんで?」
「現在の症状を緩和させることができる可能性があります」
「……なるほど。分かった」
そう言って、一基は対馬駐屯地へ行く車に乗り込む。
駐屯地の医務室に向かうと、主治医が待っていた。
「早速本題に入りますが、現在の一基さんの症状を緩和させる方法があります」
「だったら結論から言ってください」
「では。結論からいいますと、抗うつ薬を飲んでください」
「抗うつ薬?それがどのように関係しているのです?」
「フラメタックス本社が提供した医療データの中に、各処方箋ごとの症状発生確率を調べたものがあります。それによると、抗うつ剤を日常的に服用していた被験者は、他の薬を飲んでいた被験者と比べて、症状が出ない、もしくは症状が出たとしてもストレスによる症状を緩和させることがあるようです」
「つまり、抗うつ剤が症状を緩和させてるってこと?」
「その通りです」
そういって、医師は薬の一覧表を見せる。
「基本的にどの薬を飲んでもらっても構いませんが、最初は私が選んだものを1ヶ月程度飲んでください。副作用などが出てしまう恐れがありますので」
「どれも同じじゃないですか?」
「これは薬が持つ本来の効果ですので、どれが同じとかではないです」
「そうですか」
そういって、医師は処方箋を出す。
「今回は特別に抗うつ薬を取り寄せました。今はどこも物資不足で、なかなか手に入らないんですよ」
そういって薬を出す。
「これを夕食後、一日一錠飲んでください。そのあと、症状の様子を見て、薬の増減を確認します」
「はい」
そういって、一基は医務室をあとにする。
「一基様。薬は貰えましたか?」
「ほら、この通り」
「では、早速本日から飲み始めてください。くれぐれも、副作用の症状が出たら、私か先生に言ってください」
「分かってるよ」
その後、一基は夕食をとる。
本日も、戦闘糧食と水、そして数個のビタミン剤であった。
それらを食べると、一基は残った水で、抗うつ薬を飲む。
「これで本当に効果が出るんだか」
漠然とした不安を残したまま、一基は薬を飲んだ。
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