第10話 核
ユーラシア大陸への侵入を許した人類は、兵士級の侵攻を止められずに蹂躙される一方だった。
スエズ運河を渡った兵士級は、そのまま北と東に分れて侵攻を続ける。
北に進んだ兵士級は、さらに東と西に分かれ、西に向かった兵士級はヨーロッパ各国をまるで我が物のように侵攻していく。道にされるベルギー、ドイツ陸軍の攻撃をものともせず、そしてアルプス山脈を越えてローマに侵攻する。花の都パリはエッフェル塔が破壊され、スペインは異星人による侵攻を余儀なくされた。
一方東へと進んだ兵士級は、ロシアの首都モスクワへ一直線に向かう。
当然、ロシア南部軍管区の軍がこれに対処する。
「今侵攻している奴らは我々の前に屈服することだろう」
ロシア大統領が所信表明を行う。
その文字通り、どこからともなくTu-160が飛来してくる。
そして、何かを投下した。
それは兵士級の上で発光する。そして特徴的な雲を形成した。
ロシア空軍による、兵士級への核攻撃が実施されたのだ。
熱や爆風による影響で、兵士級は相当数を撃破された。
しかし、それでも兵士級はわんさかとやってくる。
「数の暴力によって侵攻する。まるで昔を見ているようだ」
そういってロシア国内への兵士級の進入を許すことになった。
そのままロシアは陥落してしまう。
一方、スエズ運河から東へと進んだ兵士級を待ち構えていたのは、インド陸軍であった。
インドまでの国家はすべからく道にされ、ここまで来てしまったのである。
「我らの祖国を、奴らの思うままにさせてはいけない」
そう、インド首相が軍に命令を下す。
それと同時に、ある軍が動いていた。
中国人民解放軍である。本来なら、両者にらみ合っている状態ではあるものの、この有事において特別に結束したのである。
そしてこの侵略行為のために、両軍はある作戦を立てた。
それが「万里の長城」作戦である。
これは、インド軍と中国軍が保有している核兵器を用いて、兵士級が侵攻してくる国境を封鎖するというものである。
しかし、インド中国両国を合わせた国境はかなり長い。さらに中国にとってみれば、ロシアとの国境に面しているため、防衛にはかなりの兵力を割かれることになる。
それも、ロシアの持つ広大な国土が関係しているだろう。
「我々の領土には、いかなる存在を入れてはならない」
中国国家主席の命令の元、インド中国両軍による核攻撃が行われた。
この核攻撃によって使われた核弾頭は400発前後。両軍が持ち合わせている核戦力のほぼ全てだ。
それにより、地上は大惨事となる。しかし、異星人による攻撃を拒否するという点では、致し方ない犠牲なのだろう。
これにより、しばらくは異星人の侵攻を止められると考えられた。
あくまでも、この攻撃は遅延作戦が目的である。
両国の試算では、最大で1ヶ月は持つとされた。
だが実際はたったの9日間で突破される。放射線の影響を強く受けない兵士級にとっては、核攻撃下の環境など、なんの問題もないのだ。
状況は、逐一国連安保理に送られてくる。
「状況は思わしくない方向に傾いている。このままではユーラシア大陸は奴らの巣窟になるだろう」
「しかし、奴らは海を渡ることが出来ないらしい。これが唯一の救いだな」
「そうなると、生き残る国家は限られてくるだろう。残った国家による統合国家連盟でも設置した方がいい」
「その前に、まだ国連軍としてやるべきことが残っているだろう。被災者の救援、これから戦地になるであろう地域の住民の避難。それだけで軍に制限が付けられる」
「勿論それは行っていく所存だ。しかし、兵士級の力を見ただろう。我々の想像を遥かに超える物量。何事もそうであるが、数に勝るものはない」
議長の発言に、誰もが静かになってしまう。
さらに悪いことに、これまで蹂躙されてきた土地の上空に、謎の物体――敵の母船が複数確認されるようになったのだ。
そしてそこから、兵士級を投下してくる。それにより、地上はさらに兵士級で埋めつくされることになる。
これにより、戦火を逃れた人類は軒並み蹂躙されることになった。
それ以外にも、動くものは全てと言っていいほど攻撃される。それは動物、植物関係なくである。
そして、異星人の魔の手は、朝鮮半島に向けられる。
北朝鮮は、「万里の長城」作戦と同様に、自国の国境に核兵器をぶち込む。
これにより足止めをしようと考えたものの、やはり数日で突破される。
結果、朝鮮半島まで異星人の手によって陥落した。
その頃、日本の対馬、その対馬空港にある飛行機が到着する。
降りてきたのは、一基であった。
「ここが最前線になるわけね」
「はい。しかし国連の勧告では、兵士級は水や海を嫌う性質を持っている可能性が高いとの見解を示しています」
「それならそれで、楽になるからいいんだけどね」
そういって建物のほうに入っていく。
一基が搭乗してきた航空機には、分解されたヘリクゼンが荷物として乗っており、今降ろされようとしていた。
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