第9話 袋の鼠

 兵士級から発射されるミサイルの群れ。

 それは、圧倒的物量をもって行うことが出来る、数の暴力である。

 ミサイルの数は、少なくとも1億。

 ミサイル1発でレオパルト2戦車を軽く撃ち抜けるほどの威力を持っている。

 そんなものが、今まさにやってこようとしているのだ。


「そんな……レーダーが塗りつぶされている……」


 スペイン、アルミーリャ空軍基地にあるレーダーサイトが、ミサイルを捉える。


「あいつら、アフリカ大陸からミサイル撃ってるんだろ?どうしてここまで飛んでこれるんだよ……」


 空軍基地は騒然としていた。

 少なくとも、地中海を越えて飛んでくるミサイルは、巡航ミサイルより大きくなければならない。

 そんなミサイルを保有していた事もそうであるが、それよりも圧倒されるのは数である。

 その様子を地上から見れば、それはまるで流星群のようだろう。


「幾億の流星群……」


 地上では、幾億流星群を撃ち落とさんとする対空戦車が、機関砲を唸らせていた。

 しかし、次々と飛来するミサイルは、対空砲の弾幕などお構いなしに悠々と大空を駆ける。

 そして、順番に対地攻撃を行う。

 それにより、地上に展開していた戦車部隊、歩兵部隊、砲兵部隊、その他諸々が次々と破壊される。


『なんてこった、これじゃ一方的じゃないか』


 陸軍の援護を任された空軍パイロットが、そんな感想を残す。


『全機、搭載しているミサイル全てを発射せよ。どうせレーダー上では塊しか表示されないんだ、何を撃った所で問題はない』


 誘導装置を切ったミサイルが、一斉に戦闘機から放たれる。


『FOX3!FOX3!』


 異星人のミサイルに対して、何本ものミサイルが飛んでいく。

 しかし絶対数が足りていない。数本を撃破した所で、その何十倍、何百倍の数のミサイルが押し寄せてくるのだ。

 やがてミサイルを撃ち切った戦闘機が出てくる。


『クソッ。こうなったら、機銃でもいいから撃ち落とせ』


 しかし、機銃でミサイルを狙うのは愚の骨頂である。

 結局、命中させることも出来ずに弾薬を使い切ってしまう。

 そして、異星人のミサイルには大きな特徴がある。

 それは、対地対空両用であることだ。これにより、陸軍の援護をしていた戦闘機、同じく陸軍の支援をする予定であった爆装戦闘機がことごとく撃墜される。

 この攻撃によって、たった数時間で地中海沿岸に展開していたNATO軍は軒並み壊滅状態になった。

 この情報が国連安保理に届いたのは、NATO軍が壊滅してから14時間後であった。


「報告します!18時間前に兵士級による超遠距離ミサイル大爆撃によって、NATO軍戦力の半分ほどが消滅しました!」

「何だと!?何故もっと早く報告出来なかった!?」

「通信衛星が破壊された以上、海底ケーブルを使った通信しか出来ません。それがネックになり、情報伝達にラグが生じてしまうのです」


 一度冷静になり、椅子に座りなおす大使。

 そこで議長が口を開く。


「NATO軍が壊滅した以上、これ以降の国連軍の軍事作戦行動に支障をきたす可能性がある。そのため、今は戦力の温存が一番だろう。いかがかね?」

「しかし、今ここで各国の足並みが揃わなければ、異星人のさらなる侵攻を許すことになりかねない。ここは、無理やりにでも……」


 その時、別の職員が飛んでくる。


「トルコからの情報です!エジプト軍が撃破され、異星人の群れがスエズ運河を超えてきているとのことです!」


 その報告に、会場は静まり返る。


「……さて、今後の話でもしよう」


 そう議長が切り出す。


「先も言った通り、この状況下ではまともに国連軍を動かすことは出来ないだろう。そこで、自国優先に切り替えようと思う。この状況を耐え忍び、いつの日か反撃に出られる日を待つということだ」


 フランス、中国、ロシアの大使が何か言いそうになったが、口をつむぐ。

 ユーラシア大陸に来てしまったからには、これからは遅滞行動を中心に取るほかない。


「遅滞行動を優先的に行い、人類反撃の機会を伺う。今出来ることはこれくらいだろう」


 そういって、議長は立ち上がった。


「世界各国に通達。これ以上の攻勢は不可能である、各国軍は自国に戻り、最大限の防衛を行うように」


 議長の提案に、誰も反対しなかった。

 こうして兵士級は、スエズ運河を渡河。そのまま浸透するように、各方面に向けて侵攻を開始した。

 その間にも、アフリカ大陸にいる兵士級は、その数を増やしていく。その数10億以上。

 もはや絶望的と行ってもいいだろう。

 そんなアフリカ大陸に向けて、ある物が飛んでいく。

 それはアメリカが放った、大陸間弾道ミサイルである。アフリカが異星人の巣窟になった事をいいことに、やれる事を最大限にやろうとしたのだ。

 しかも、その弾頭には核爆弾が搭載されている。もはやなんでもありの状態だ。

 弾頭弾が放物線の頂点にさしかかろうとした時である。

 弾頭が突如として爆発した。核爆発にしては小さいほうだ。

 それもそのはず。大陸間弾道ミサイルは異星人によって迎撃されたのだ。

 宇宙空間は、異星人が支配しているも同然である。そのため、宇宙空間を飛翔する攻撃は無効化されるのだ。

 それを回避する方法もある。極超音速ミサイルに核弾頭を載せる方法だ。

 これによって、いくらか攻撃に成功する。

 しかし、それでも倒せた数は全体に比べればごくわずかにしか過ぎない。

 人類はどんどんと追い詰められていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る