第8話 NATO軍

 NATO軍がヨーロッパ南部、特に地中海沿岸に集結する。

 この日のために陸軍1000万、イージス艦やフリゲート艦100隻、空軍戦闘機1000機が集められた。

 また、完成間際だった三軍統合戦闘システム、グングニルシステムも用意される。

 こうして、NATO軍と異星人の兵士級が相対することになった。

 その頃になれば、アフリカ大陸の主要都市は全て陥落する。

 その他、人間以外の生物――例えば絶滅が危惧されている象やライオンなど――が一匹残らず殺されている状態だ。

 人間が住んでいる都市では建物が無残に破壊され、人々が蹂躙されている。


「アフリカ大陸で発生した戦火を、これ以上広げるわけには行くまい。全軍、全てをかけて戦え。我々は負けてはならぬ」


 国連安保理がこのような声明を発表する。

 一つの大陸が、1ヶ月もしない間に異星人による襲撃で失われてしまったからだ。

 当然、地球側にとっては受け入れがたい事実である。

 しかし、現実としてこのようになってしまっているからには、受け入れざるを得ない。

 前線の一つになるであろうイタリアでは、既に民間人の大移動が始まっていた。


「いよいよここが前線になるのか……。敵はかなり強いそうじゃないか」

「俺達で勝てるのかな……」

「弱気になるな!俺達なら勝てる!そのためにここにいるんだからな」


 部隊ではこんな話が出ることだろう。

 そしてアフリカ大陸とヨーロッパとの戦いが始まった。

 最初に戦いの火ぶたが切って落とされたのは、海上交通の要所、ジブラルタル海峡であった。


「敵の識別確認」

「対地ミサイル発射」

「Fire!」


 周辺に展開していたイギリス海軍のフリゲート、アメリカ軍のイージス艦からミサイルが発射された。

 それと同時に、イギリス海軍所属の航空隊が異星人の兵士級を観測する。


『敵は海岸に沿って展開している模様。あいつら、海水浴をしたことがないのかもな』

『今は冗談はよせ。だがそれは言えてるな。敵は海が苦手なのかもしれない』

『今はどんな情報も必要な時だ。司令部に取り合ってくれ』


 そうこうしている内に、ミサイルがモロッコの沿岸部に落下する。

 それによってある程度の兵士級が吹き飛ぶものの、全てを片づける程ではない。

 それを十分に補う数が押し寄せてきているからだ。

 その時、兵士級に変化が起こる。

 昆虫の腹にあたる部分が開き、そこからミサイルのような物がせり出したのだ。

 それがモロッコ沿岸に展開しているほぼ全ての兵士級に起こったのである。

 そしてそれが発射された。


『敵の中からミサイルと思われるものが発射された模様。とんでもない数だ』

『不味い、こっちに来る』

『ブレイク、ブレイク!』


 そういって航空隊が散開しようとした所に、異星人のミサイルの大群が押し寄せる。

 それを回避しようとするものの、その圧倒的な数に回避することが出来ない。


『被弾した、脱出す……』

『隊長がやられたっ』

『こっちにも来やがる!うわぁぁぁ!』


 こうして、前線に張っていた航空機は残らず撃墜されてしまう。

 だが、それだけでは終わらない。

 ミサイル攻撃は、そのままイギリス海軍艦艇、アメリカ海軍艦艇にまで飛翔する。


「対空戦闘!」

「シースパロー発射!」


 艦隊による対空戦闘が開始される。

 しかし、いくら最新鋭の艦艇を持ってしても、一度に扱えるミサイルの数はたかが知れている。

 かたや十数発、かたや数千発。

 どちらが勝つかは火を見るより明らかだ。

 シースパローは数発のミサイルを迎撃するものの、残りはまったく手が着かない。


「すごい数のミサイルだ!」

「CIWS起動!面舵一杯、最大戦速!何としてもこのミサイルを潜り抜け!」


 海軍艦艇が全力で回避をしようとする。

 それを援護するように、CIWSが一斉起動し、ミサイルの迎撃を始めた。

 最初は順調に墜としていたCIWSだが、次第に圧倒的な数を前に押され始める。

 レーダー上では、完全にミサイルで埋め尽くされて、その機能を喪失していた。

 やがて、至近弾が出始める。


「ダメージコントロール!」

「あっちだ、急げ!」


 そして最終的には命中する。

 それも1発ではなく、2発、3発と当たる。

 そうなってしまえば、艦としての形を保てない。

 1隻は船体が折れ、1隻は誘爆し、そして海の藻屑と化していた。

 そのミサイルの一部はジブラルタル海峡を越え、スペインのイベリア半島、そしてイギリス領ジブラルタルへと到達する。

 それはまさしく、ミサイルによる流星群。圧倒的な数によって、大地を蹂躙する。

 一連の攻撃によって、ジブラルタル海峡周辺に展開していた軍は、壊滅した。

 その知らせを受けた国連安保理では、各国大使が驚愕する。


「なんてことだ……。我々の戦力では勝ち目がないということか」

「いや、まだだ!我々はまだ戦えるではないか!」

「それが絶望的であると言っているのだ!」


 そういって論争が始まった。

 しかし、そういっている場合ではなくなったようだ。


「続報です!NATO軍各部隊から、水平線の向こうから大量のミサイルが飛んで来ていることが報告されています!」


 その報告に、安保理理事会は静かになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る