第九章〜第十三章
第九章 掃除屋 狂気と隣り合わせ
男は電話を待っていた。
仕事用のバンの運転席で腕を組み、目を瞑っていた。
今回の現場は一軒家、外装を見るに随分と金を持ってそうだ。
ただ、この家の中で行われていることを想像すると嫌になってしまう。
男は左腕につけた腕時計に目をやる。
「そろそろだな」
助手席に置いてあった仕事用の携帯電話を拾い上げ液晶を眺めていた。
それと同時に画面に着信が入る。
「終わったのか」
男の声はマスクをつけているせいで、自分でも聞き取れる自信がない。
「あぁ、後は頼む」
電話口の男は静かにそう言い電話を切った。
さて仕事の時間だ。男はバンを降り、助手席から荷物を取り出す。
男の仕事は後始末、電話口の男が殺し屋なら自分は掃除屋だ。
裏口に止めたバンの鍵を閉める。
あまり派手にやらかしてないといいが。
掃除屋は庭を抜け、裏口から家へと入った。
左手に持った掃除道具も重いが、それ以上に懐中の銃が重い。
掃除屋の仕事で使う機会はないが、仕事中は携帯する決まりだ。
リビングを抜け、階段下に倒れている死体が目に入る。
女か、掃除屋はため息をついた、
今回の死体は一つのはずだが、これじゃ道具が足りないな。
掃除屋は死体袋を取り出すとジッパーを開け、死体をその中にいれる。
死体の胴体には穴が二つ、そこから出血もしていた。
死体袋のジッパーを閉じると、道具を使い、血を丁寧に拭き取り、その上から薬品をかける。
床にも穴が開いている。
これは車に一度戻らないとな。掃除屋は代わりのカーペットをかけ応急措置とした。
肝心の男の死体を探すため、掃除屋が階段を上がろうとしたその時庭から何かが落ちたような音がした。
掃除屋は階段から降り、リビングの窓から庭を見る。
何も見えない、いや女だ、女が倒れている。
これは緊急事態だ。
掃除屋は、迷う。
これまでの仕事は血を拭き取るだけで済んでいた。
これは指示を仰がねばならない。
しかし女は今にも立ち上がりそうだ。
目撃者は消す、これが原則だ。
掃除屋は、懐中から銃を取り出す。
確か名前はグロックだったか、スライドを後退させ、銃弾が装填されていることを確認する。
女はふらふらと立ち上がり、歩き出した。
迷っている時間はない、掃除屋は裏口の戸を開け外に出る。
「足幅は肩幅、両手でしっかりと握り、標準機は標的の動きを予測する」
掃除屋は、組織から教えられた内容を復唱した。
幸い落ちた衝撃のせいか女の動きは酷くゆっくりだった。
女の頭に標準を合わせ、引き金を引いた。
映画で聴くような、風船が弾ける音ではなかった。
トマトが潰れるような、鈍い音とともに女は再び倒れた。
掃除屋は銃を持ったまま、女の元へ向かう。
右耳の上部に穴が開き、血が噴き出ている。
掃除屋は吐き気を抑えた、死体が増えてしまった。
自分が掃除すればいい、自分の始末は自分でつければいい。
歯を食いしばりたくなったが、それはできなかった。
掃除屋の奥歯に仕込まれた自殺用の薬、それがこの仕事の異常性を物語る。
掃除屋は家へと戻り、二階へ上がった。
半開きのドアの前に立ち、ドアを開ける。
掃除屋の目前に口を開け倒れた男の死体が映る。
死体の眉間には生々しい穴がぽっかりと開いている。
これが本来の標的だったのか、掃除屋は死体から視線を外し壁を見る。
壁一面に広がった血飛沫、これの処理は骨が折れる。
死体袋に男の死体を入れ、玄関まで運ぶ。
男と女の死体袋を引きずり、バンまで歩く。
掃除屋は酷く冷静だった。異常なことには早く慣れてしまった方が楽だった。
バンのトランクに死体袋を2つ積み込むと、壁の掃除の為の道具を持ち、家へ戻る。
血飛沫が張り付いた壁の前に立つと、掃除屋の耳に男の声が聞こえる。
「誰かいないのか」
掃除屋の身が強張る、銃声が誰かに聞こえたのか?
一階を歩く音がかすかに聞こえる。
まずい、誰にも見られずに処理することがこの仕事の絶対条件だ。
しかし、掃除屋にそれ以上のことを考える時間はなかった。
足音が階段を上がる。
掃除屋はドアの裏に隠れ、銃を取り出す。
足音が次第に近づく。
掃除屋は自身のマスクのせいで呼吸が酷く困難になる。
茶色いコートを着た男が部屋に入る。
掃除屋は覚悟を決めた。
銃を男の後頭部に構え、尋ねた。
「お前は何者だ」
掃除屋は自身が仕事の異常性に飲まれたことを悟った。
第十章 女 それはまるで煙のように
女は誰もいなくなった事務所のドアに腰をおろし、机の書類を調べていた。
まさかここまでうまく行くとは想定外だった。
あの探偵は厄介ごとに首を突っ込むことが好きらしい。
ただ女の目当ての品は見つからない。
その時女の携帯電話が振動した。
携帯電話を取り出し、応答ボタンを押す。
「緊急事態だ」
「一体何があったのかしら」
女は電話越しに男が酷く焦っていると推察した。
「ヘマをした、あんたに厄介をかけるかもしれない」
「何があったの」
男は極めて完結に自身の置かれた状況を説明した。
「つまり、あなたは何者かに陥れられたってことかしら」
女は肩と首で電話を固定し、机の上の書類を整理していた。
「多分な、あんたの助けが欲しい」
この男は酷く優秀だ、だからこそ自分が目をつけていた。
「いいわ、今すぐと言いたいところだけど、生憎今仕事中なの明日の夜でいいかしら?」
書類を整理していた女の手が止まる。
そこに茶色い財布が一つ。見つけた。
「俺がそれまで生きていれば天国に行く、あんたも来てくれ」
天国、一見男がジョークを言ったように聞こえるが、それは男の行きつけのバーの名前だった。
「あなたは死んでも地獄行きだものね、わかったわ」
女は一呼吸おき、呟くように言った。
「私に会う前に死なないでね」
「祈っててくれ」
電話が切れる。
女の目前には電話中に目に入った財布が置かれている。
この財布に刻まれた烙印は組織のものだ。
女は組織の人間ではない、ただこの烙印は幼い日から頭に刻まれたものだ。
女は財布をポケットにしまい、事務所を後にする。
どこかで雷が落ちる音が聞こえる。
一瞬の光が女の影をより一層濃く変えた。
第十一章 探偵 灯台はどこへ
探偵はこの異常な事態を理解するため、必死で頭を動かしていた。
そこにブレーキ音を響かせ、一台の車が止まる。
男が車を降り、探偵の前に歩み寄る。
「お前から連絡が来る時はいつも最悪な状況だな」
冗談を言うような口調で、男は言った。
「お前の仕事を増やして悪かったな」
探偵はタバコに火をつけ、煙を吐き出しながら煙草の箱を男へ差し出す。
「一本吸うか?迷惑料だ」
「タバコはやめたんだ、それに迷惑だなんて思っちゃいないさ」
探偵は差し出した煙草をポケットに戻した。
「状況を教えてくれ」
スーツ姿の男の顔は警官の顔になっている。
「死体が2つ、本来なら4つないと勘定が合わない」
「なぜわかる?」
「ここは俺の依頼人の家なんだ」
警官はため息をつき、探偵を見据える。
「お前は本当面倒ごとに首を突っ込むのが好きなんだな」
「俺の性分なんだよ、お前も知ってるだろ」
探偵は煙草を投げ捨てる、火種は路上の水溜まりですぐに消えた。
「2回で死んでるマスクの男、あいつはまともじゃない」
探偵の脳裏に泡を吹き死んだ男の顔がよぎる。
「死体の調査をしてほしい、頼めるか?」
「あぁ、友人の頼みだからな」
警官は手袋をはめ、うなづいた。
「俺は確かめなくてはいけないことがある、ここは任せる」
探偵は、女の正体を確かめるため、事務所へと急いだ。
警官が呼んだであろう、パトカーのサイレンが遠くで聞こえる。
探偵は事務所のドアを開ける。中は無人だった。
女がつけていた香水の匂いがかすかに臭う。
机の上の書類は不気味なほど綺麗に整頓されていた。
探偵は椅子に腰掛け、煙草に火をつけ頭を回転させる。
女に騙されたことは1度や2度じゃない、探偵の脳裏に嫌な記憶がよぎる。
ただあの女はあの家で起きた惨劇のことを知っていた。
依頼人すら普通じゃないのか。
探偵は自身の持っている情報を整理する。
死んでいたはずの依頼人、自殺したマスクの男、財布を落とした顔色の悪い男。
探偵はハッとし、机を見渡す。
整理された書類の山を崩し、あるはずの財布を探す。
やられた、財布がない。唯一の繋がりを奪われた。
残りの煙草を机に押しつけ消す。
探偵は頭を抱えた。
銃を置き、コートを脱ぎ捨て探偵はウイスキーを煽った。
探偵の意識はアルコールの海へと沈んでいく。
探偵には進めべき道を示す灯台が必要だった。
第十二章 殺し屋 誇り無き者
今朝の急襲を切り抜け、殺し屋は町を歩いていた。
殺し屋の精神は異常なまでに昂っている。
本来であれば、気にすることもない通行人の視点、手の動きに注意が向く。
殺し屋はある場所へと向かっていた。天国へ。
そこは今の殺し屋にとって、最も天国に近かった。
殺し屋にはホルスターに収まったワルサーPPKと腰へ収めた襲撃者が持っていた銃の重さだけが確かだった。
奴らが持っていた銃はベレッタ92F 、アメリカ陸軍のサイドアームにも選ばれたイタリア製の自動拳銃だ。
もちろん殺し屋も扱いには慣れている。
幸いシャワーを浴びれたことで、殺し屋の頭はまだ動いている。
裏路地へと入り、尾行がいないことを確認する。
尾行はいない。
安堵した矢先、殺し屋は異様な気配を察知する。
同業者だ、殺しの匂いが鼻腔に届き、反射的に殺し屋は脇のホルスターから銃を抜く。
男は悠然と歩きながら殺し屋の前へ姿を現した。
腰には二丁の拳銃が刺されている。
「よぉ、人気者」
男は銃に手をかけず、殺し屋を見据える。
殺し屋は返事をすることなく、引き金を引こうとした。
「やめておけ、まだ撃鉄を起こす時じゃない」
その男の一言は、殺し屋の指を止めた。
「俺を殺しに来たんじゃないのか」
殺し屋は男から標準を離さずに言った。
「あぁ、確かにそうだ、あんたを殺しにきた」そして男は続ける。
「今は品定め中だ、俺の銃であんたを殺す価値があるかどうかな」
男は口元を歪めて笑うと、胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
殺し屋はこのような男を知っていた、この業界では自身の絶対的な掟に従う者がいる。
かつて師匠がそうだった。
男は白髪まじりの髪をかき揚げ、無精髭を撫でながら話を続けた。
「コードネームはジョン、あまり大きな仕事はやらないが、腕には定評があったみたいだな」
「あった」その一言が殺し屋は気に入らなかった。
「どうすれば、あんたは俺を殺すんだ?」
殺し屋は男の目を見てそう言った。
瞬間、殺し屋の右耳を破裂音が襲う。
振り返ると、殺し屋の後ろにあった壁に銃弾の後が付いている。
「集中を途切れさせるなよ、それとお前の質問など聞いていない」
男の腰の銃はすでに抜かれていた、細い硝煙がそれを物語る。
早撃ち、殺し屋の神経が研ぎ澄まされる。
「お前がいい女なら、この先のバーで一杯おごるんだがな」
男は咥えていた煙草を落とすと、足で踏みつけ火を消した。
「よし決めた、お前もあの男の弟子なら殺す甲斐があるってもんだ」
「できんだろ?早撃ち」
殺し屋は師匠から多くのことを教わった、早撃ちもその一つであり、その技術は何度も殺し屋の命を救ってきた。
「俺の銃と、あんたのリボルバーじゃ勝負にならないな」
リボルバーを携帯する殺し屋はほぼいない、理由は明白だ、装弾数、連射速度そのどれをとっても自動拳銃が上回るからだ。
しかし、唯一リボルバーが勝る点があるとすれば、早撃ちだろう。
「それもそうだ、そのワルサーじゃ相手にならんな」
「腰に入れてるのを合わせてもだ」
撃つしかない、殺し屋の指に力が籠る。
「ただ、こんな状況でお前を殺して何になる?俺がほしいのは名誉だ」
男は腰の左右のホルスターから銃を引き抜き、スピンさせる。
「右の銃はジョンドゥ、左の銃はメアリードゥどちらも名もなき死人だ」
「お前はどっちを選ぶ?」
殺し屋はこの男が銃に小細工をするような男ではないと確信していた。
「ジョンだ」
男は銃のスピンをやめ、右手を殺し屋の方へ差し出す。
「そうだ、お前はジョンだな」
殺し屋は、ワルサーをホルスターへと戻し、男の右腕から銃を受け取る。
SAA、通称ピースメーカー。
西部開拓時代に保安官が平和を作ったと言われる銃で、殺し屋同士が殺しあうなど皮肉な話だ。
「ガンベルトまでは貸してやれねぇな」
殺し屋は男を一瞥し、リボルバーのハンマーを半分倒し、シリンダーに弾が込められていることを確認した。
ハンマーに指をかけながら、ハンマーを元の場所へ戻す。
右腕を腰まで伸ばし、肘を若干曲げ構える。
「立ち方は完璧だな」
殺し屋と男は向き合う。
神経が逆立つ、開始の合図はなく、立会人もいない。
耳には自身の心臓が脈打つ音だけが聞こえる。まだこれを止めるわけにはいかない。
二人の男を包む静寂を1発の爆発音が引き裂いた。
今だ。
殺し屋は左手でハンマーを倒し、引き金を引く。
男も同様に引き金を引いた。
銃声が響き、再び静寂が訪れる。
男が銃を落とし、膝から崩れ落ちる。
「やるじゃねぇか」
殺し屋は標準を男の頭に合わせる。
「お前の負けだ、カウボーイ」
男はそれを聞くと大声で笑い始めた。
「見事な早撃ちだったぜ」
男の頭は殺し屋の放った銃弾で地面へと倒れた。
殺し屋は男の死体に近づき、借りた銃を足下へ置いた。
自分にこのような高貴な銃は似合わない。
殺し屋は自身の失った誇りを取り戻すべく天国へと歩き始めた。
第十三章 探偵 そして火種は燃え盛る
探偵はノックの音で目が覚める。
昨晩探偵を飲み込んだアルコールの海はとっくに干上がっていた。
「入ってくれ」
煙草を咥え、ライターで火をつけながら探偵はドアに向かって叫んだ。
自身の声で、脳にヒビが入るほど激痛が走る。
「よう、相変わらず酷い事務所だな」
警官は探偵の姿を一瞥し、言い放った。
「昨晩の件で話がある」
探偵が吐く煙を手で払いながら、警官は椅子に座る。
「その前に、コーヒーでもどうだ?」
探偵の脳はカフェインを欲していた。
「もう昼だぞ、それにコーヒーも辞めてるんだ。長く生きたいからな」
探偵は目の前の男が一体何で動いてるのか心底疑問に思った。
「それは悪かった、ただ俺は煙草とコーヒーがないと動けないもんでね」
探偵は立ち上がり、台所のポッドを火にかける。
何日前のものかわからない黒い液体が呼吸をするかのように泡を吐き出す。
探偵はその黒い液体をコップへと移し、机に置いた。
「よくそんなものが飲めるな、そりゃコーヒーってよりはタールだな」
警官の小言をよそに、探偵は胃袋へコーヒーを流し込む。
一息つくと、探偵は警官の方を向いた。
「仕事の話をしにきたんだろ?さっさと話せよ」
警官は真剣な顔をし、息を吐く。
「お前が昨日見つけた遺体だが身元がわかった」
警官は胸ポケット4枚写真を取り出すと机の上へ並べた。
「まず庭の死体だが、彼女の名前はケイシー、職業は娼婦だったようだな」
「両親とも絶縁、身寄りは無い」
警官が持っていた写真の彼女は笑顔だった。
「もう2人、ダニエルとその妻だが、死体は裏に止めてあったバンの中に隠されていた」
「そしてそのバンの所有者であり、お前が話したマスクの男だが、こいつに関するは情報が一切ない」
探偵はうなづきながら、2本目の煙草に火をつける。
「情報がないだと?一体どうゆうことだ」
「指紋もDNAも警察のデータベースには存在しなかった」
「そんなことありえるのか?」
「普通の人間ならあり得ない」
警官は首をふった。
「マスクの男は財布を持ってなかったか?」
「銃に薬品、もちろん財布も持ってたさ」
「その財布を見せてくれないか、引っかかるものがあるんだ」
探偵は警官を見据え、前屈姿勢になる。
警官は瞬く考えると、ため息をつく。
「これ以上この事件に首を突っ込むな、これは友人としての警告だ」
「俺の性格は知ってるだろ、今更引き下がれない」
探偵の咥えていた煙草が、灰となって床に落ちる。
ずいぶんと長い時間、探偵は男を見据える。観念したように警官は両手を上げる。
「お手上げだ、署の証拠品係に俺の名前を出せ」
「恩に着る」
「なぁこれは一般人が手を出す事件じゃない、俺にだって手を引くように上から指示が来てるんだ」
探偵は立ち上がりながら灰を踏みつけた。
「だったら俺みたいな男が必要だろ」
警官も立ち上がり、探偵の顔をみる。
「いいか、何かあっても助けられるとは限らないぞ」
「あぁわかってる」
警官は笑うと、玄関へと向かった。
探偵はクローゼットを開け、新しいシャツに着替える。
玄関が閉まる音、その後車の走り去る音が聞こえる。
瞬間、探偵の耳を劈く音の衝撃が響く。
探偵は思わず身をかがめると、頭の中に最悪のシナリオが読み上げられる。
シャツのボタンも閉じずに、玄関を開け外に出ると、一台の車が火をあげている。
それは紛れもなく、先ほどまで話していた警官のものだ。
通行人の喧騒をかき分け、車に近づこうとするが、火の勢いが強くこれ以上は近づくことができない。
サイレンや悲鳴がどこからともなく聞こえる。
人混みが激しさを増し、探偵の居場所を奪う。
探偵は事務所へと戻ると煙草に火をつけようとしたが、手が震えライターにうまく火がつかない。
ライターを床に投げつけ、煙草のフィルターを強く噛んだ。
口内に鉛のような不快感が広がる。
長く生きたいからな、そう言っていた警官の顔を思い出す。
死ぬべきは自分だ、常にそうだった。
自分だけが生き延びてしまう。
探偵の肩にまた、何かがのしかかる。
「まだやるべきことが残っている」
探偵はコートを羽織り、ポケットに銃を入れる。
謎の男、友人の死、消えた依頼人、全てが繋がっているはずだ。
探偵はドアを開け、町へと出る。
警察が現場を確保し、野次馬の数はずいぶんと減った。
探偵はそれを視界に入れないよう意識しながら、警察署を目指す。
探偵の心臓は熱く、そして大きく心音を奏でた。
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