新章 開幕

[新章 幕開け]


 俺は主のいない部屋に立ち尽くす……



どうして?……


それ以外言葉が出てこない



崩れるように畳に膝をつく


こぶしで畳を殴りつけてみても湧き上がる気持ちを抑えれない


怒り?…… いや怒りとも違う絶望感なのか



目を上げるときちんと整頓された部屋の隅に主を失った茶の湯の道具がひっそりと片づけられている。



この部屋の主に誘われお茶をごちそうになった日を思い出す



……山南さん



回想の中で穏やかに微笑む山南さんがいた


俺は大事に持って帰ってきた包みを取りだす


「……山南さん 」



「 江戸から戻る途中で駿府により良いお茶を手に入れました。これでまた一緒にお茶を楽しもと…… 」



あとは言葉にならず、もう一度畳を殴りつけた。




「山南さん…… どうして? どうして…… 」




俺の回想は池田屋の夜に戻っていった……

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