第21話 そしてこれから

 遊園地のゲートをくぐる。一歩その中に足を踏み入れるとそこは華やかでみんな笑顔に溢れてて、現実世界とは別の世界のようだった。


 だから、俺の手を引いて歩く杏璃ちゃんもまた別の世界の人なのかと……。


「って杏璃ちゃん!」


「……」


 思っていたよりも大きな声が出た。けど、その声のおかげで杏璃ちゃんは止まってくれた。


「翔ちゃん……」


 このまま、何事もなかったようにデートを楽しめばいいと思う。けれどこんな気持ちのままでデートなんて俺にはできそうになかった。


「お……私は、」


「俺、でいいよ翔ちゃん」


 杏璃ちゃんはそう言うとパーク内に設置されているベンチへと俺の手を引いて歩いた。そのベンチは比較的人通りの少ない所に設置されていて、そこに二人して並んで座る。手は……繋いだまま。


 何を話していいのか分からなかった。加納さんのこと、杏璃ちゃんの相手のこと、俺が恋人だって杏璃ちゃんが言ってくれたこと……聞きたいことはたくさんあるのに。


「……先に翔ちゃんに言えてればこんなことにならなかったのにね」


 杏璃ちゃんがぽつりとそんなことを言った。


「俺と……付き合ってること?」


「……ううん。私が、翔ちゃんを、だってこと」


 杏璃ちゃんの言葉に、やっぱりと言う思いが込み上げた。杏璃ちゃんの気持ちは多少分かっていた。けどはっきりと言われていなかったので不安だった。でも、杏璃ちゃんはいつから俺のことが好きだったんだろうか?


「杏璃ちゃん……」


 俺は杏璃ちゃんの顔を見ようとしたが、彼女は俯いていた。俺は杏璃ちゃんの手を強く握った。


「ごめんなさい、翔ちゃん。私が本当はもっと早く言っていればこんなことにはならなかったのに……怖くなって」


「怖い?」


 俺は思わず声を上げた。


「うん……。前に話そうと思っていたこと……私、中学の時に仲のいい友達のことが好きだったの。そのことを別の友だちに話したらあっという間にその話が広まちゃって……その話を広めた子が加納さんに似てて、またああなるんじゃないかと思って……怖くなって」


「そうだったのか……」


 俺は杏璃ちゃんの気持ちを理解した。杏璃ちゃんは過去のトラウマを思い出していたんだ。だから、加納さんの提案を断ることができなかった。


「ごめんなさい……」


 杏璃ちゃんは涙をこぼした。俺は彼女の涙を見て、胸が痛んだ。辛い過去の記憶……またそれが繰り返されそうになったら誰だって逃げたくなる。それなのに、俺はよく話も聞かずに……。


「杏璃ちゃん、泣かないで」


 俺は杏璃ちゃんの頭を優しく撫でた。杏璃ちゃんは勇気を出して加納さんに話をして俺に向き会ってくれた。


 ぐすぐすと泣き続ける杏璃ちゃんが、鼻をすすりながら俺の顔を見る。涙でぐちゃぐちゃで、それでも可愛くて思わず抱きしめたくなる。


 でも、その前にやっぱりちゃんと……今度こそは


「杏璃ちゃん……俺と付き合ってください」


 三回目の告白。答えはわかっていてもドキドキと心臓が早くなる。


「はい。よろしくお願いします」


 顔がにやけてしまう。杏璃ちゃんも耳まで真っ赤にしながら笑顔を向けてくれた。女装してまで掴んだ彼女の気持ち。俺はぎゅっと抱きしめたいのをこらえながら、優しく杏璃ちゃんを抱きしめた。そして、杏璃ちゃんも俺の背に手を回すと抱きしめ返してくれた。


 そしてこれから……楽しい楽しい遊園地デートだ!

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