第20話 本当どうしてこうなった?
あれから、杏璃ちゃんを避けてしまっていた。スマホも触る気がしなくて今は電源すら入っていない。教室でも話しかけたそうにしている杏璃ちゃんを何度か見かけたけど俺は向き合うことができなかった。
そうして、迎えた日曜日……俺は指定された場所に来ていた。本当は行きたくなかったし、すっぽかそうかとも思ったが、それで、杏璃ちゃんに何かがあったらと思うとできなかった。
久しぶりに女装していない外出は何の緊張感もなく、ワクワク感もなかった。でも日課になっていた化粧はしっかりとやった。ただ、女の人に見せるための化粧にはしなかった。
準備にそれほど時間もかからなかったので、目的の遊園地に早めに着いてしまった。見回しても俺を待ってそうな人は誰もいなかったので入り口で待っていればいいかと近くにあったベンチに腰をおろした。
俺を通り過ぎていく人は幸せそうな家族やカップルばかり……空も快晴で11月半ばなのに少し暑いくらいだった。
本当なら、今日ここには杏璃ちゃんと来ていたかもしれなかったのに……。手を繋いで仲良くお喋りして、お菓子なんかを食べさせあったりして、絶叫マシーンあるあるの腕にしがみ付かれたりして、あぁ……でも絶叫マシーンはウィッグが飛ぶかもだからな……。でも腕にしがみ付かれるのは体験してみた――
「霧島くん?」
そんなありもしないことを考えながらぼーっと待っていると名前を呼ばれた。顔を上げると、そこには可愛い女の子が立っていて俺を笑顔で見つめていた。
加納……さんか?
「……まじか」
加納さんは俺でも知っている。校内一かわいいと言われている女の子。淡い栗色の髪が綺麗で、服装も紺のトップスに淡いカーキベージュのスカートを着けていてよく似合っていた。俺へと向ける笑顔も完璧で誰が見ても可愛いいと素直に思えるだろう。
「霧島くん今日はありがとう。それと初めまして私、加納
俺がぼーっと見ていると、加納さんがそう自己紹介をしてくれる。俺もベンチから立ち上がって、彼女に向き合った。
「初めまして。霧島 翔悟です。で、話って何?」
相手が加納さんだったことには多少驚いたが、相手が誰であろうとやることは変わらない。それに、相手の意見も聞かないで日曜日にわざわざ待ち合わせまでさせるとか……どんだけ自己中だよ、と思っていたくらいだ。
「えーと、翔悟くんってあ、翔悟くんって呼んでいいよね。今お付き合いしている人とかいないよね?」
すぐに下の名前呼び……しかもいいと言う前に了承済みになってる。この子人の話を聞かないタイプなのかな?
ん?だとしたら……杏璃ちゃんも強引に押し切られたのかな?
「翔悟くん?聞いてる?おーい」
いや、俺も腹が立って、杏璃ちゃんの話を聞かなかった……少しくらい傷つけばいいと思った。俺の百分の一くらいは……って。
「ごめん加納さん。俺、好きな子いるから」
俺はそれだけ言うと加納さんに別れを告げて駅に向かって歩き出した。都合がいいかも知れないけれど、今は、杏璃ちゃんに会って話をしたかった。
「待って!」
と、腕を強くつかまれて強引に止められた。
「少しぐらい付き合ってもいいんじゃない?」
見ると加納さんが俺の腕を掴み少し怒ったような顔をしていた。
「……なんで?お互いに時間の無駄でしかないと思うんだけど」
俺は掴まれている腕をほどくと加納さんにそう言った。多少強引にくる相手になら、こちらも強引に話を進めた方がいいと思ったからだ。
「し、翔悟くんの好きな子って川勾さんでしょ?」
杏璃ちゃんの名前が出て一瞬動きを止めた。加納さんの顔を見るとやっぱりみたいな瞳を向けられる。
「……それがなにか?」
「あの子はやめた方がいいと思うの」
加納さんは俺に近づくと、少し笑みを浮かべながらそう言った。なんだか、嫌な笑い方だった。綺麗な子だけに冷たい印象も伝わってくる。
「……どうして?」
「あの子は男の子に興味ないもの」
さらに笑みを強めてそう言うと加納さんは俺の腕を取った。
「!」
「私知ってるの、あの子女の子が好きなんだよ。だから翔悟くんは見てもらえないと思うの。それに、自分の好きな男の子を他の女の子に紹介なんてしないでしょう?」
勝ち誇ったような加納さんの笑顔。けど、俺は加納さんのその言葉に言い返せないでいた。確かに加納さんの言う通りだ。
「……っ」
俺が迷っていると加納さんはさらに俺に体をくっつけてくる。
「翔悟くん私と付き合ってよ。それに川勾さんも今日は女の子とデートって言ってたし」
「デート!!誰と!」
その言葉に驚いて俺は加納さんの腕をほどくと逆に肩を掴んでそう叫んだ。
「さ、さぁ、クラスの子だと思うけど。だから翔悟くん私と一緒に――」
加納さんをびっくりさせてしまったが、俺はそれどころじゃなかった。
「まじか……まじか、どうしよう…」
頭の中でどうしようと、色々なことが巡る。今もこうしている間に杏璃ちゃんが誰かと……そう考えるだけで焦りが募る。
「そうだ電話!あれ?てか俺スマホ」
電話すればいいことを思いついてスマホを探す。鞄の中やズボンの後ろポケット、ジャケットのポケット。しかしどこにも俺のスマホはなかった。
どこだ、どこに?いや……てか、そもそも俺持ってきたか?
「しょ、翔悟くん?」
「どうしよう、どうしたらいい?こんなことしてる場合じゃなかった。怒って無視なんかして……こんなところに来ている場合じゃ」
「ちょ、翔悟くん?」
「今から、電車に乗って家に帰って……それよりも杏璃ちゃんの家に、嫌、いなかったらそれこそタイムロスになる。どうしたら……」
「翔悟くん!」
大きな声で名前を呼ばれて、はっとして隣にいた加納さんに向き直る。
「そうだメール!杏璃ちゃんにメールして!今どこにいるのか聞いて!」
「え?いやよ。どうして私が」
しかし、加納さんはあっさりとそう言った。目の前に杏璃ちゃんに連絡の取れる子がいるのに、くそっ、使えない!
「そうだな~……翔悟くんが私と付き合ってもいいって言ってくれたら電話してあげてもいいよ?」
「え……頭大丈夫?」
思わずそう言ってしまった。嫌、だってなんでそんな答えになるのか見当もつかなかった。
「な!?」
「ごめん。言い過ぎた。でも俺、杏璃ちゃんが好きなんだよ?なんで加納さんと付き合うとかそういう条件飲むと思うの」
「それはっ」
「……それに加納さん、俺の何を知ってるの?」
「え?」
「例えば、俺が声優アイドルオタクだったらどうする?熱帯魚が好きで一日中水槽を眺めながら、声優アイドルの歌を聞いてるとしたら?」
「なにそれ……きも」
「杏璃ちゃんは素敵な休日だって言ってくれた」
「っ……」
「そう言うことだよ。俺は杏璃ちゃんが女の子を好きだとしてもそれであきらめきれない。加納さんはどう?俺が声優アイドルが好きでも好きになれる?一緒にコンサートとか行ってくれるの?部屋一面にポスターとか貼ってても平気?」
俺がそう言うと、加納さんは俺から少し距離をとると肩を震わせながら怒鳴った。
「ならないわよ!気持ち悪い。覚えていて学校で言いふらしてあげる。アンタなんかすぐに笑いものよ。あの子だって同性愛者だって言いふらしてやる!」
「つ!それは違うだろ!俺は別にいいけど杏璃ちゃんを悪く言うのはよせ!」
俺は思わず加納さんの腕を掴んで引き止めた。
「なら、謝ってよ!私に恥をかかせたんだからそれくらいしてよね!」
加納さんは眉をつり上げてそう息巻いた。
「……謝れば杏璃ちゃんのことは言わないんだな?」
「そうね、謝ってくれたら、川勾さんが同性愛者だってことは言わないであげる」
俺は迷わずに加納さんへと思いっきり頭を下げた。
「ごめんなさい。君を、加納さんを傷つける気はなかったんだ」
「く……ど、どうしようかな~何だかあんまり誠意が感じられないな」
「土下座すればいいのか、それとも大きな声で言えばいいのか?」
「そうだな。明日学校で言うのはどう?」
加納さんは興が乗ってきたのかハードルを上げてくる。しかし俺はそんなどうでもよかった。
「何でもいい……加納さんの気の済むようにしてくれ」
「なにそれ、つまんない……やっぱり同性愛者って言っちゃおうかな」
「!それは――」
「言ってもいいよ。私が同性愛者だってこと……」
「「!!」」
二人してその声の方を振り向いた。そこに……杏璃ちゃんが立っていた。
「え?なんで」
加納さんが思わずそう声を出した。俺はびっくりして声も出てこなかった。
「もう少し早く来るつもりだったの。でも、ちょっと色々あって……」
見ると杏璃ちゃんは軽く息を切らし、額には汗が浮いていた。
「デートしてるんじゃ……」
「デート?ぁ……でも、それよりも」
杏璃ちゃんは加納さんの前に立つと、いきなり頭を下げて謝った。
「加納さん、ごめんなさい。私がはっきり言わなかったから。私……霧島くんと……翔ちゃんとお付き合いしてるの。だから、翔ちゃんを紹介できないごめんなさい」
俺は自分の耳を疑った。でもはっきりと杏璃ちゃんは俺と付き合ってると言った。
「な、っ~~なによっ意味わかんないっあなた女の子が好きなんじゃなかったの!さっきだって……あぁ、いいわもういい面倒臭いの嫌だし。あぁなんかしらけちゃった」
加納さんはそう捲し立てると駅の方へと歩いて行く。俺は慌てて彼女を追いかけ肩を捕まえた。
「お、おい!」
「何よ!触らないでよ!」
加納さんはそう言って俺の手を払いのける。
「悪かった……で、彼女のことは」
「言わないわよ!ったく……なんで私が振られたこと自分で言わなきゃならないのよバカじゃないの」
「………」
加納さんはそう言ってぷりぷり怒りながら行ってしまった。俺はそんな彼女の後ろ姿を見ながら、なんだったんだと言う感情に見舞われていた。
「あの……翔ちゃん」
ぼーぜんとしていたら、後ろから声をかけられはっと我にかえる。見ると杏璃ちゃんが申し訳なさそうに立っていた。
「……あ」
「……遊園地、行かない?」
何て言ったらいいのかわからなくて杏璃ちゃんを見つめていたら、突然そう言われ軽く頭の中がパニックになる。
「え?ここで……デートの誘いとかする?」
「お願い……します。遊園地……一緒に」
そう言いながら杏璃ちゃんは俺へと手を差し出した。その手は震えてて、顔は俺の顔を見てはいなかったけど……。俺は杏璃ちゃんの手を握った。そうしてよくわからない状況の中で、杏璃ちゃんに手を引かれ遊園地へと入った。
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