第14話 とあるファーストフード店にて
悠は咲良と向き合いながらも、さっきの杏璃のことを考えていた。杏璃のことを考えていると、悠の心臓がぎゅっとなりいつも苦しい思いをしていた。
悠は……杏璃のことが好きだった。
「どうするの?悠……杏璃、他にとられちゃうかもよ?」
咲良はそんな悠の気持ちを知っていてわざとそんな言葉を投げかけた。
「う、うるさいな」
昔からの友だちにそう言われ、悠はどもりながら答えた。
「なーにが、いつでも相談にのるから、よ。そんなこと言ってるから横からかっさらわれるんでしょ」
咲良にしてみれば、好きなら好きって言ってしまったほうが楽なのに、くらいの気持ちしかなかった。悠と咲良は見かけに反して、ふわふわしている咲良の方がさばさばしていて、クールそうな見た目の悠の方が優柔不断だった。
「だから、うるさいって」
二人で寄り道して入ったファーストフード店で、今日も咲良は悠の煮え切らない話を聞いていた。
「……もう、杏璃が好きなんでしょ、しかも杏璃も同性が好きだったってすごい確率だよ?どうしてさっさと告白しなかったのさ」
小学校からの付き合いで、悠のことはよくわかっている咲良だが、最近までこと恋愛においては悠のことがわからなった。男性アイドルの話をしても乗ってこないし、クラスの男子の話にも興味を示さなかったからだ。その原因が分かったのが中学2年のときだった。突然、学校からの帰り道でカミングアウトされたのだ。
『私……女の人が好きなの』
と、最初は驚いたが何となくそうだったんだと納得している自分もいて咲良はそっか、とだけ返しただけだった。
そうして、カミングアウトされてからは、それまでの鬱憤を晴らすかのようにあの子がかわいいだ、あの子が気になるだ、など色々と恋愛の話を聞かされるようになった。
「だから!うるさいって」
杏璃のことも最初に声をかけようといったのは悠だったのに。と咲良は内心ため息をついた。
それにしても……と咲良は思った。悠は身長もそこそこあって、顔も面長で、切れ目で黒髪のロングヘア―。運動も勉強も問題がない。クールな見た目に反して中身は優柔不断で臆病だがその分思慮深く優しい。きっと同性にももてるだろうに……と。ただ悠はどうしてか、うまくいきそうになると一歩引いてしまう所があった。
咲良にはそれがどうにも納得ができなかった。成功しそうになると逃げ出す。今回もそうだ、割と早い段階で杏璃が同性に恋愛感情を持っていると気づいた。そして悠も杏璃に思いを寄せていた。告白すれば、いきなり恋人同士にはならなくても意識はしてもらえたはずなのだ、それなのに悠は動かなかった。
「悠が何も言わないから、杏璃だってずっと気づかないんでしょ」
「……」
そして今のこの状況である。咲良はさすがに我慢の限界にきていた。
「まだ、私たちに言ってこないってことはさチャンスはあるんじゃない?杏璃に告白してみれば?」
項垂れてしまった親友にそう声をかければ、悠は少しだけ顔を上げ咲良の顔を見た。
お!やる気になったか。咲良がそう思っていると
「……今度の日曜に後をついて行ってみる」
なんとも、斜め上な回答が返ってきて咲良は思わず口が開いてしまっていた。
「な!止めときなって、そんなことをしても空しいだけだよきっと。それよりも正直に告ったほうがいいよ」
しかし、そんな咲良の言葉も空しく
「うるさい……」
悠はそう一言言っただけだった。
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