第13話 変化する思い
鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。正直に言って、姉さんに似ている。姉さんに言うと怒ることが予想されるから言わないが、自分の中ではこれじゃない感が強い。
「姉さんになりたいわけじゃないからな……」
杏璃ちゃんが好きになってくれるように自分の外見を変えようと頑張っているが、ここにきて壁にぶち当たっている。
俺の中で、姉さんに似ているっていう感情が拭えない。そもそも化粧のしかたも服も姉さんがベースだからしょうがないんだけど。
一度気になってしまうとどうしても拭えなくて、もやもやする。今度はウィッグなしで行ってみようか?地毛も少しだけど伸びているし。ただ髪の毛はやっぱりちゃんとした美容師さんにセットしてもらおう。姉さんの知り合いの美容師さんが今度半額でカットしてくれるって言ってたから、そこにお願いしようかな。
よし、胸パッドを着けて白いシャツを着け細身のジーンズをはいてみると、身長の高い女性に見えなくもない。
と言うか、胸がある時点で女性にしか見えない。
某歌劇団の男役のような透明感はいまいちないが、これはこれで悪くないように思えた。
「うん、いい感じだ」
取り合えず、化粧をしてつけまつげもすると男には見えなくなった。それにスカートをはいてないというのも、いつもより安心する。
しかし、これも杏璃ちゃんが大丈夫かどうかは分からない……。一抹の不安は拭えないけど今度のデートはこれで行こうと決めた。
◇
昨日翔ちゃんと行った水族館デートも楽しかった。翔ちゃんの知らなかった趣味も知れたし、最初よりは緊張もしなかった……と思う。
私のおしゃれにも気づいてくれて一つ一つ褒めてくれた。会話も普段通りにできたし、昨日は本当に女友だちと一緒に遊びに行ったみたいだった。
でも、大水槽の前で『杏璃ちゃん、本当に杏璃ちゃんと一緒にいる時間は特別なんだ。今日のデート、本当に楽しいし嬉しい』そう言われて嬉しかった。まっすぐに私に気持ちが向いていて胸がきゅってなった。
その時にわかった。間違いない……私は翔ちゃんに惹かれている……。『また来ようね』って言われて、何の迷いもなくうんって頷くほどに……。
私は女性が好きなのに……。今の私は翔ちゃんを意識している。もし私がOKしたら?翔ちゃんは男性の姿に戻るのかな……そうなったときに私は今のこの気持ちのままでいられるんだろうか?
「ねぇ、杏璃」
昨日のことを思い出していると、急に話しかけられびくっとしてしまう。
「な、なに?」
「何?じゃなくてさ、だから今度の日曜日に、久しぶりにカラオケ行かない?って話」
今は帰りのホームルーム前で、私の前の席に座っている悠が怪訝な顔をしながら私の顔を覗き込んでいた。
「え?カラオケ?それって日曜日?」
「うんそう。なんか最近遊びに行ってないなーって思ってさ」
日曜日は翔ちゃんと約束がある。三か月のお付き合い……翔ちゃんは空けてなくてもいいよと言うけれど、あそこまでしてくれる翔ちゃんにこれ以上気を遣わせたくなくて日曜日は空けるようにしていた。
「えと、ごめん。日曜日は用事があって」
私がそう言うと、悠は少し黙り込んでから意を決したように口を開いた。
「……杏璃さ、もしかしてだけど何かあった?」
「え……?なん、で」
ちょっと動揺して疑問に疑問で答えてしまう。
「なんでって……だって、最近よくぼーっとしてるし、休みも私たちと予定合わせてくれないし、それに……」
悠は髪の毛を手で触りながらそれとなく翔ちゃんのいる方へと顔を向けた。
「っ!」
もしかして気づいてるの?そう思うと心臓がばくばくしてきて、どうやって言い訳しようかと頭の中がフル回転しだす。
「そうそう、悠とね話してたんだよ。杏璃、彼氏ができたのかな~ってさ」
それまで私の横に座ってスマホを見ていた
「!?」
「こら咲良……」
「もういいじゃーん。この際さはっきりと聞こうよ。ね、相手って誰?」
高校に入ってから友だちになった二人だけど、恋愛の話はこれまであまり話題に上がってこなかった。私がそう言った話をしないことも要因ではあるんだろうけれど、最近の付き合いの悪さから、ぴんときたんだろう。
「あ、その……」
言い淀む私に二人はますますそう確信したみたいで。咲良は楽しそうに口元に笑みを浮かべていた。けれど、悠は眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
「私はてっきり……杏璃って……。いや、っていうか……本当に彼氏?それとも……」
歯切れの悪い質問、もしかしたら悠は私の性的指向についても感づいているのかもしれない。その瞳が彼女?と言っているようで私は思わず手をぎゅっと握ってしまう。
「っ、わたし……」
ここで、このタイミングで何の覚悟もなくカミングアウトするの?言ってどうなるの?悠や咲良は言ってしまったからって態度を変えてしまうような友達じゃないと信じたいけど……。
怖い――。
「……ごめん杏璃。いいよ無理しなくても」
「あ……」
あまりに長い沈黙があって、さすがに気まずくなったのか悠がそう言って私の肩に手を置いた。
「いいって。私たちもこれ以上聞かないよ。でも……いつでも相談にはのるからね」
「知りたいけど、まぁいいよ~。恋話ならいつでも歓迎だよ」
咲良も軽いため息をつきながら、本当に残念そうにしながらもまたスマホに目をうつした。
「うん……」
そうは言ったものの私の心臓はさっきからどきどきと早鐘を打ち続け、握りしめた手にはじっとりと汗をかいていた。
どうしよう……どうしよう……。どうしたら……。
私は……思わず翔ちゃんの方を見てしまった。
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