第12話 デートにもってこい
『水族館に行きたいんだ』
二度目のデートは俺の行きたいところへ誘った。杏璃ちゃんは相変わらず少し戸惑っていたけど、『いいよ』と返事をしてくれた。
本当はゲーセンとか行きたいけど、女子二人(一人は男だけど)で行くにはハードル高い気がするし、俺だけが楽しんでもなぁ。とう言うことで却下。
それに絡まれるのも嫌だし。そのてん水族館なら、親子連れも多くてカップルも多い。デートスポットの定番だろう。待ち合わせは水族館近くの駅前広場にした。
今回も奇麗系を目指した。ワンピースしか着れないけど体重も少しだが落ちてきている。筋トレとストレッチも毎日欠かさずこなしている。気持ち引き締まったかな程度にはなってきた。髪型だけは前回と一緒。ウィッグがなければ女には見えないので外すわけにもいかない。
二回目とはいえ、この緊張感には慣れない。駅前の人混みに紛れどきどきする心臓を抑え込み、落ち着かない格好で杏璃ちゃんを待った。喉がすごく乾いている上に口紅をつけているのでさっきから唇がくっついて鬱陶しい。本当に女の人はすごい……。
「おはよう……」
と、横から声をかけられて振り向くと、杏璃ちゃんが立っていた。
「……あ、おはよう」
一瞬人違いかと思った。視線が合うと杏璃ちゃんは視線を地面に落とした。それは前回と一緒だったけど、まったく違っていることもあった。杏璃ちゃんは明らかに薄く化粧をしていた。それに、服装もトレーナーではなく、薄い桃色のふわっとしたスカートに上には白のカーディガンという、とても可愛らしい格好で髪も緩いウェーブをえがいていた。
「すごく、可愛いよ……」
自然とそんな言葉が出た。俺の為におしゃれをしてくれた彼女にいっそう胸がときめいた。
「あ、ありがとう。翔ちゃんもすごく綺麗だよ」
そう、言いながら杏璃ちゃんはちらりと俺へと視線を向けた。やっぱりすごく緊張しているのがわかる。俺もすごく緊張してるし、手に汗もかいてきた。
それにしても本当に可愛い。前も可愛かったけど少しの化粧でさらに可愛く見えてしまう。やっぱりここはもっと褒めたほうがいいのかな?褒めると言うより、素直に感じたことを言うようにしろって姉さんは言ってたな。もちろん傷つくようなことは言わないけど。
「嬉しい。私のためにおしゃれしてくれたんだよね?本当に可愛いよ」
杏璃ちゃんは恥ずかしそうに俯きながらも笑顔をみせてくれる。そんな杏璃ちゃんをもっともっと眺めていたいけど、人の往来が多いここではやっぱり人目が気になってしまう。
「じゃ、行こっか」
そう言いながら、俺は手を差し出した。心臓は当たり前だがばくばく言ってる。杏璃ちゃんはそんな俺の手をそっと握ってくれた。
柔らかい女の子の手。大好きな杏璃ちゃんの。俺がちょっとだけ引っ張るように先導する。杏璃ちゃんは引かれるままに歩き出した。
「今日は水族館に行くんだよね?」
「うん。杏璃ちゃんは水族館行ったことある?」
ゆっくりと歩きながら自然に会話ができて安心する。得意な分野だから会話の内容にも困らないし。
「あるよ。小さい頃に親と一緒だったけど……翔ちゃんは?」
「私はね、年間パスポート持ってる」
「え!そんなに好きなんだ」
「うん。大好き。アクアリウムも好きでね。小さいけど水槽も2つあるよ」
「そうなんだ。難しそうなイメージがあるけど」
「そうだね。本格的にやるならある程度の知識が必要だけど。今は、ネットで何でも調べられるし買えるからアクアリウムもしやすくなってるんだよ」
「そっか……でも凄いね」
意外と、アクアリウムに興味を持ってくれて嬉しくなる。ここは攻めてみようかな。
「……今度、家に見に来る?」
「え?」
杏璃ちゃんが歩みを止めてしまう。俺の心臓は逆に速度を早めてまた手に汗をかきそうになった。
「それは……」
「考えといてくれる?」
時間はどんどん過ぎていく。俺はこのままいいお友達で終わりたくない。でも杏璃ちゃんを急かすのも気が引ける。
「うん……」
よかった。取り合えず否定はされなかった。いつか杏璃ちゃんが俺の家に来てくれるように頑張ろう。
そうして、また二人で水族館へ向って歩く。二度目だけど、緊張と興奮が入り混じったこの独特の空気感がたまらない。俺はどきどきする心臓の鼓動を感じながらも、杏璃ちゃんとのデートを楽しもうと前を向いた。
水族館に到着し、様々な海の生き物を眺めながら手を繋いで歩いた。俺は杏璃ちゃんに海の生き物の名前や特徴を教えながら、杏璃ちゃんとの会話を楽しんだ。
杏璃ちゃんも俺の話に興味を持って聞いてくれて、時折笑顔も見せてくれた。俺はそんな杏璃ちゃんの笑顔を見るたびに、嬉しくなった。
そうして、メインの大水槽の前で立ち止まり、お互いの手を握りしめながらしばらくのんびりと泳ぐ魚たちを見つめた。少し薄暗く静かな環境の中で、この時間がずっと続いてくれたらと思った。
「杏璃ちゃん、本当に杏璃ちゃんと一緒にいる時間は特別なんだ。今日のデート、本当に楽しいし嬉しい」
思わずそう言っていた。はっとして照れくさくなって杏璃ちゃんの顔は見れなかったけど、杏璃ちゃんは俯いていてちらりと見える耳は赤く染まっているように見えた。
「翔ちゃん……ありがとう」
思わず杏璃ちゃんの方を見てしまった。嬉しくって握っている手に力を込めるとわずかに杏璃ちゃんの体が反応したのがわかった。
「また、こようね」
少しの期待を込めてそう言うと、杏璃ちゃんは俺の顔を少しだけ見上げて頷いてくれた。
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