第6話 当たって砕けろ(友人に)

 付き合い始めて次の日。教室に入ると相藤 あいとうすぐるがすぐに声をかけてきた。


 すぐるはお調子者で明るく俺とはゲームの話なんかをよくしている。髪の毛は少しくせ毛があり部活もしてないから俺と一緒で肌は白く体系もひょろっとしている中学からの友だちだ。


「なぁ、昨日の○○ゲーム配信みたか?」


 傑は俺より先に俺の前の席に座るとすぐに昨日見たというゲームの話をしてきた。


「いや、見てない。昨日は色々あってさ」


「そっか、すげぇ熱い展開だったんだぜ――」


 俺は自分の席に座りながら傑のゲームの話を聞いていた。


(杏璃ちゃんは来ているのかな?)


 教室に入ってすぐに話しかけられたので、さりげなく川勾さ……杏璃ちゃんの席を見た。杏璃ちゃんはいつもの仲のいい友だち2人と一緒に談笑していた。


 髪型はいつもと一緒で、軽くウェーブのかかったセミロングをハーフアップでまとめていた。その何でもない姿もいつにもまして可愛く見えるから不思議だ。


(……これが恋愛補正というやつか)


 それに、今までは何とも思わなかったが、たぶん毎朝髪の毛を巻いているのか、寝る前に三つ編みにしているのか……。前はストレートだった記憶があるので、そのどちらかをしているのだろうと気がついた。


 昨日、散々姉さんと化粧やら洋服やら髪型やらの特訓をしたから、今までと少しだけ見る目が変わっていた。


 例えば、杏璃ちゃんと一緒にいる友だちの佐々木悠ささきゆうは背も高く、黒髪のロングで顔も面長で目鼻立ちもくっきりとしている。化粧もそこまで必要がない気がする。あれでアイラインとかして目元を際立たせるとさらにきつい顔になるに違いない。


 対してもう一人の友だち立木咲良たちきさくらは背も低く体系も幼い。顔も丸顔で髪の毛はショート。私服を見たことがないから何とも言えないが、あれでゆるふわなワンピースとか着けていたら、中学生に見られることだろう。


「でな、それが最高で―って聞いてるのか翔悟!」


「ん?あぁわりぃ……聞いてなかった」


 名前を呼ばれて慌てて意識を傑に向ける。聞いていなかったことを素直に言うと傑は眉間にしわを寄せた。


「何だよ、お前。寝不足か?」


「ああ……実はそうなんだ」


 怪訝な顔のまま傑が俺の顔を覗き込んでくる。


「ん?てか、お前……眉毛剃った?」


「お、気がついたか。実はそうなんだよ」


「何だよ、いきなりどうした?」


「実はな……あー後でいいか?亮介りょうすけにも話したいし」


「?ああわかった。てか、お前彼女ができたとか言うんじゃねえぞっ」


 その言葉に思わず動きが止まってしまう。


「!あーうん。後で話すから」


「!!マジかっ……だ、誰だよ!」


 俺の態度で察した傑が心底驚いた顔をして聞いてくる。さすがにここではできない話もあったので、慌てて目をそらした。


「後でな、後で。ほら先生きたぞ」


 そう言うと傑は何か言いたそうな顔をしながらも自分の席へと戻っていった。

 

 そんな傑の後姿を見ながら、ふうと息を吐いた。そう、今日俺は友だちに話そうと決意していた。傑と亮介。俺が高校で一番仲のいい友だち二人に。


(けど、当たって砕けた骨は誰に拾ってもらおうか……。)


 そして放課後、俺は傑と亮介を誘い一緒にカラオケに行った。付き合い始めの翌日だと言うのに、杏璃ちゃんとはほとんど接することがなかった。ただ昨日のメールのやり取りで杏璃ちゃんも友だちと約束があると言っていた。


「よう、亮介。急に悪かったな」


 俺は学校の校門で俺たちを待っていた亮介に声をかけた。橘 亮介たちばな りょうすけは俺と同じくらいの身長で(175㎝前後)黒髪の短髪でサッカー部に入っている。がっちりとした体型で日頃から太陽にあたりまくっているので、肌も真っ黒に日焼けしていた。亮介も中学からの同級生で三人でよくオンラインゲームをする仲だ。


「いや、今日は部活休みだったからちょうどよかった。しかしクラスが変わるとやっぱり中々会えないな」


 そう言って亮介は爽やかな笑顔を見せた。


「本当だよな。亮介だけ別のクラスになったしさー部活も忙しそうだしな」


 一緒に歩いていた傑が亮介の肩を叩きながらそう言う。


「まあな。最近はゲームもめっきりできてないよな。そういえば傑、FPSの――」


 そんな他愛もない話をしながらカラオケ店まで並んで歩きだす。店についてカラオケのブースへと通され一息つくと『さてと、』と傑が待ち構えていたように俺に向き合った。


「相手は誰だ?」


「直球だな」


「当たり前だ。早く教えろ」


 傑は前のめりになりながら俺を見てきた。隣に座っていた亮介は傑から聞いていたようで何も言わずに俺の言葉を待っていた。


「川勾 杏璃だよ」


「川勾って、お前とアイドルの話する?いつ告白したんだよ」


「一昨日」


「一昨日?何で昨日教えてくれなかったんだ」


「……色々あってな」


 俺はそれから今までのことを全部話した。


「付き合うことはできたけど……女装って……お前、それでいいのかよ」


 傑も亮介も信じられないと言った顔で俺を見つめている。


「うん。やってみるつもだ。さすがに学校ではしないが、これから俺は言葉使いも仕草も変わってくると思う。ただ、お前たちには言いたかったんだ」


「マジか……」


 傑がため息交じりにそう呟いた。亮介は相変わらず何も言ってこない。


「無理なら、ここで言ってくれ。ただ川勾さんのことは公言しないでくれると恩にきる」


 俺はそう言って頭を下げた。俺は二人を信用していた。中学からの友だちで、ある程度のいたずらなど一緒にやった仲だし、性の知識なんかも共有してる仲だ。


「……俺は、クラスが違うからなぁ、そこまで険悪感は抱かないと思うが、正直まだわからない」


「お、俺も正直どうしていいか……ただまぁお前を好きにはならないから安心しろ」


「俺だって好きにならねえよ」


 傑がわざと冗談を言って笑った。


「まぁ、取りあえずはいいんじゃないか。俺は応援するよ」


 亮介がにかっと笑って白い歯を見せる。


「俺も~、ゲームとか今まで通りするんだろ?」


 傑も軽い感じでそう返してくる。


「もちろん……二人ともありがとう」


「しかし、女装か……写メ送れよ?」


「死んでも送るか」


 そんな軽口を言い合いながら、俺たちはカラオケを楽しみ始めた。大声で歌をうたい始める奴らを横目に俺は本当、いい奴らと友だちになったなと感謝をしていた。

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