ダンジョン受付嬢の日常

心太

ダンジョン受付嬢の日常


「ようこそ、流離のダンジョンへ」


 アリーの家族が経営するダンジョンは地方にある、挑戦する者は少ない。

 日に数組来る勇者達の冒険者カードを確認し、挑戦のルールを説明するのが彼女の仕事。


「ガハハハ!この勇者ラーク様には、こんな田舎のダンジョン暇潰しにもならんわ!」


 ちゃんと聞かない客も多い。

 ダンジョンの扉を開け、決まりの言葉を言う。


「御武運をお祈りします」

 

 祖父の代から続くダンジョン経営、彼女は15歳になると受付嬢としての仕事を始めた。

 疑問も無い。

 受付嬢を5年、仕事は慣れた。



 勇者が来ない時間はとても暇。

 外の景色を眺めるのが彼女の日課。


 【ピーーーーー!パーティー番号4552番全滅。パーティー番号4552番全滅。】


 受付カウンターの下で鳴る警報。

 小一時前に旅立った勇者ラーク達。

 パーティー全滅後の始末も彼女の仕事。




 5階。

 亡骸を回収し教会で蘇生して貰う。


「‥‥‥4人パーティーで‥装備が4組」


 台車に乗せて出口へ。

 途中襲ってくるモンスターの相手も慣れた。

 軽く屠って出口へ向かう、これが彼女の日常。





「姉ちゃん、酒の尺くらい付き合えよ」


 酒場が併設されているので、こう言う客は多い。

 

「仕事が有りますので」


 礼儀良く断るが大概しつこい。


「バンガーさん、辞めましょう受付の方困って居ます」

 

「うるせ〜レベル15しかない勇者のくせにレベル47の俺様に偉そうに指図すんじゃね〜!勇者が居なきゃパーティーを組めないなんて、この制度どうかしてるぜ!」


「すいません、ちょっと酔ってるみたいで」


 珍しく大人しい勇者。


「大丈夫」


 勇者サウディのパーティーは明日ダンジョンに挑戦する、是非頑張って欲しいと思う。





【ピーーーーー!パーティー番号10457番全滅。パーティー番号10457番全滅。】


 勇者サウディのパーティー、彼女の仕事が始まる。



 57階。

 時にシステムがエラーを起こす。

 全滅して無いのに鳴ってしまった警報。

 

「受付の方!こんな所で何を、危ないです!」


 勇者サウディは、まだ生きていた。


「くそ、俺1人では守り切れない!」


 この若い勇者は、勇者らしく無い良い人だと思った。


「大丈夫。‥‥一緒に帰りますか?」


 他のメンバーの亡骸を台車に乗せ、周りのモンスターを屠る。


「受付さん、強いんですね!」


 ダンジョンの挑戦者と一緒に出口に向かう、これはシステムエラーがもたらした彼女の非日常。



「そんなに強いのに何故受付を?貴方なら魔王すら倒せませんか?」


「そうですか」


 彼女には魔王も地位も名誉も興味無い。

 

「今日はありがとうございました!実はもう駄目だと思っていたので、凄く色々感動してます」


 出口まで辿り付いた勇者のアリーに向けた笑顔は澄んでいた。


「また来ます!」


「‥‥そう」



 次の日、勇者サウディは一輪の花を持って受付に来た。

 自分に出来る精一杯の御礼。

 それが気持ち良い。




 今日も彼女の日常が始まる。

 また、勇者達がダンジョンで儚く散る。

 殺風景な受付、そこが彼女の仕事場。


 ただ今日はカウンターの上で、花瓶に入れられた一輪の花が楽しそうに揺れていた。




「ようこそ、流離のダンジョンへ」

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ダンジョン受付嬢の日常 心太 @tokorotensama

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