設定 メサイア

概説 メサイア

●メサイアの定義。

・人型戦闘兵器で、原則、騎士が駆る。

・その前にはいかなる通常兵器も無意味とされる。

・この世界における人類最強の魔法兵器。

・多くの場合、動力源は魔晶石エンジン。

・運用に関しては、戦時国際法その他、複雑な制限が存在する。


●メサイアの起源

・メサイアの起源については、12世紀のラムリアース帝国で実用化された動力甲冑―――別名“戦闘甲冑(パワードアーマー)”をその起源とする説が存在する。

・だが、この動力甲冑は、あくまで高レベル魔法騎士用の個人装備に過ぎず、確認されている限り、最大でもその全高が3メートル前後と小さいこと、そして、メサイアの最大の特徴である魔晶石エンジンを搭載しない事など、メサイアとの関連性については否定的要素が強い。

・むしろ、その登場の背景からして、ロシア帝国魔法科学アカデミーによる最初のメサイア建造計画、仮称“鉄人計画”から始まるとする説の方が一般的に受け入れられている。


●メサイアの歴史~全てはベトナムから始まった。

 メサイアが歴史に初めて登場したのはベトナム戦争の最中である。

 1950年代のベトナムフエ王朝内乱に端を発し、カンボジアや近隣諸国を巻き込んだ東南アジアの紛争をベトナム戦争と呼ぶ。

 内乱に際してベトナムに経済利権を持つフランス政府がフエ王朝を擁する政府側を支援、反政府派を、ベトナムの分裂を狙うカンボジアなどの他国勢力が支援した。

 ベトナム政府軍が内部分裂を引き起こし、同士討ち同然の戦闘が各地で展開された挙げ句、国民が王朝支持派や反王朝派を名乗る組織、勢力、軍閥を立ち上げたため、政府、反政府双方の勢力共に自分の勢力を正しく把握することも出来ないまま、戦線は完全に泥沼化、ベトナム国内は10年以上にわたる無政府状態に陥った。

 

 この混乱に目をつけたのがアメリカである。


 1940年代の北米戦争―――別名、赤色戦争から奇跡の復興を遂げ、世界への進出を目指すアメリカにとって、ベトナムの混乱は失われたアジアへの再進出のまたとないチャンスだったのだ。

 アメリカは、反政府軍がトンキン湾上のアメリカ海軍所属の情報収集艦を攻撃したという口実(後に完全がでっち上げであることをアメリカ政府自身が認めた)を元に、一方的に反政府勢力との間に戦端を開くと、大量の兵力をベトナムに送り込んだ。

 オーストラリアや日本経由の輸送ルートを確保したアメリカは、持ち前の物量で全てを押し切ろうとした。

 大統領の口から「兵士達をクリスマスまでに帰還させる」と楽観的な発言が出るほど、アメリカとその支援国は戦況の推移を楽観視していた。

 実際、内戦中のロシアや技術力に乏しい中国からの軍事支援しか受けることの出来ない反政府勢力は、最新鋭兵器を湯水のように使いう米アメリカ軍の前に常時劣勢を余儀なくされていたのは事実だ。

 その戦況を根底から覆したのは、ベトナムの密林から現れた、濃緑色の巨人達だ。


 ロシア軍呼称、MDROM-11 スターリン。


 「鋼鉄の人」を意味するその名が、メサイアがどういう存在かを如実に表現している。


 アメリカ軍の将兵は、たった4騎によって地獄に投げ込まれた。


 “黙示録の4騎士”と呼ばれることになる4騎のメサイアによって、米軍がそれまで築いてきた軍事的優位は脆くも崩壊、介入から14ヶ月を迎える前に、米軍そのものがベトナムから駆逐されそうになった。


 恐怖の巨人達がベトナムで暴れている!

 ロシアがベーリング海峡を越えてくるぞ!


 あまりの敗北におののくアメリカ本土では、各地でそんな噂が流れ、世界は大パニックに陥った。

 所謂、「スターリンショック」である。


 あの巨人達をとにかく止めろ!

 

 そのためだけに米軍がベトナムに持ち込んだのは、当時まだ量産にむけた研究が始まったばかりのプルトニウム型反応弾。

 広範囲を爆風と熱線で、その後には放射能汚染で地獄に変貌させるこの悪夢の兵器は、当時、爆発したら何が起きるのかさえ、はっきりわかっていない未知の兵器だった。

 それは“どうやって使うか”を巡って陸空軍双方で揉めたというエピソードからも知れる。

 米空軍が主張した爆撃機に搭載してメサイアの頭上に投下する方法は、メサイアの回避能力の高さから却下された。

 その代わりに採用されたのが、陸軍により提案された、地面に埋没させ、遠隔操作により爆破する地雷としての使用方法だ。


 反応弾使用の作戦は、一応は成功した扱いになっている。


 理由?


 起爆が成功したから。


 ただし、起爆装置を作動させた部隊を含め、メサイアをその場に誘い出す作戦に従事した数多くの米軍将兵がその爆発に巻き込まれ、後に多数が被爆死したことは知っておくべきだろう。

 だが、放射能に汚染され、焼け野原となったジャングルの中でロシアの究極兵器の残骸を回収することに成功する。



●グレイファントムの誕生。

 戦場で回収されたスターリンの残骸は、すぐに(除染もされないまま)本国に送り届けられ、研究に回された。

 その後、ベトナム戦争は決定的な勝敗がつかないまま反政府勢力が内ゲバにより崩壊、反政府勢力の残党が降伏文書に調印して新政府が発足することで一応の終戦をみた。

 反応弾の使用による国土汚染を恨み辛みとするベトナム新政府による冷遇による経済的、政治的排除を受けたアメリカの実質的な実質的敗北であるが、もう、アメリカはベトナムへの関心を失っていた。

 彼らの関心の全ては次の戦争のための兵器開発にこそあった。

 ベトナムの敗戦から数年間、アメリカは全ての力を自国製人型兵器“グレイファントム”の開発に注ぎ込んだ(一号騎のロールアウトまでに米国が投じた開発費用は、ベトナム戦争の戦費に匹敵するとされる)

 経済を傾けてまでしてアメリカが手に入れたのは、赤く塗装された巨人。

 その燃えるような赤い塗装は、かつて自分達を苦しめた緑の巨人を燃やし尽くさんというロシアへの剥き出しの競争心の現れだろうか。


●メサイア開発競争の始まり

 競争心は新たな競争を生み出す。

 アメリカの人型兵器開発成功は、世界に新たな軍事的脅威を生み出した。

 危険すぎる兵器は廃止すべき。

 そう、口にはするものの、同時に世界は巨人の力に憧れた。

 グレイファントムやスターリンの技術が盗み出され、あるいは国際圧力を受け公開されるなどして、技術と情報を得た世界各国が開発に手を染めたのはそのためだ。

 瞬く間に人型兵器の開発競争は世界規模に拡大した。

 ロシアが人型兵器の自国由来を主張する中、スターリン開発計画の大本の計画名「メサイア計画」から、いつしか人型兵器を“メサイア”と呼ぶようになったのは、この頃からである。



●メサイア使いの誕生~騎士階級の混乱。

 スターリンから始まったメサイアは、技術情報の公開からほんの十数年という短期間の間に劇的な進化を遂げた。


 1970年代半ばには、

 戦場での決定権を持つ存在。

 最強の兵器。

 その進む先にあるのは勝利と栄光のみ。

 ……。

 メサイアはそんな位置づけがなされていた。


 なら、そんな兵器を誰が駆る? 


 操縦者の選択にあってまず白羽の矢が立ったのは、当然、騎士だ。

 各国は自国が保有する騎士の中で最も優れた者を操縦者に割り当てようとした。

 肉体能力(SFS)が操縦に影響する。

 そう考えられた結果だ。

 そんな考えに待ったがかかったのは、日本が独自メサイアの開発計画を開始した翌年のこと。

 “スウィートウォーター事件”(アメリカやロシアの機密情報を盗み出したダブルスパイが、両国のメサイア研究機関で入手した様々な情報を無差別に一般公開する暴挙に出た事件がそう呼ばれる)がきっかけだった。

 この事件によって、メサイアの開発を巡って謎のベールに包まれていた米露両国でどんな研究がなされているかが白日の下にさらされた。

 興味本位で情報に接した人々は、国際法に抵触する人体実験が行われていることばかりに目がいったが、国家や研究者にとって重要だったのは、たった二つの情報だとされる。

 一つは、後にMC(メサイア・コントローラー)として普及する騎士のサポートスキル保持者の情報。

 そして、もう一つ。

 情報としては実に少ない。

 A4レポート用紙にしてたった数枚。

 ただ、それは米露の研究関係者双方がそれぞれに作成し、未解決のまま半ば放置されていた問題に関係した情報だった。


 ―――何故、騎士の身体能力とメサイアの能力がイコールとしてつながらないのか。


 これだ。

 よくわからない?

 なら、具体例をもって説明しようか?



 前提条件:メサイアとは、「騎士の動きを反映する」巨大なパワードアーマーである。


 想定されるケース:

 Aという高級騎士がメサイアを操縦する。

 次に、BというAより騎士として劣る騎士が操縦する。


 あるべき結果:

 Aの方が成績上、Bに勝る。

 いかなる状況においてもこの結論に変化はない。


 これで当然なのだ。

 パワードアーマーである以上、肉体能力に優れる方がいかなる場合においても勝つ。

 それで当然なのだ。


 ……ところが、だ。


 現実は、そうはいかなかった。


 研究を続け、メサイアの運用データが集まれば集まるほど、この結果では説明出来ないことばかりが確認されたのだ。


 想定外の事例:

 騎士としての能力に劣る方の騎士がメサイアに乗れば逆に強くなる。


 こんなケースがいくつも報告されたら、研究者でなくても首をかしげるしかない。

 騎士の世界の前提となる騎士の身体能力=戦闘能力が、メサイアに関しては通用しない。

 個人差?

 操縦の熟練度?

 違う。

 それだけでは説明がつかないことが多すぎる。

 一体、何があるんだ?


 米露の研究者は、共にその答えが出せない。


 たったそれだけの話。


 メサイアの操縦には肉体のスキルではなく別なスキルが求められるのではないか?

 そんな仮説が生まれるのは、時間の問題だった。

 身体能力以外?

 なら、そのスキルとは?

 謎の解明はすぐに始まった挙げ句、驚くべき事に、最後には世界各国が歩調を合わせた人類史上最大クラスの研究プロジェクトにまで発展した。


 数年にわたるプロジェクトの結果、判明した事実は意外なものだった。


 メサイアの操縦に必要なのは、実は身体能力ではなかった。


 それは、人類が知らなかった肉体、魔力に次ぐ第三のスキル。


 メサイアの操縦適性能力。


 このスキルがメサイアの戦力に直結することが、研究の中で裏付けられたのだ。


 このスキルの発見と公表は、騎士の世界に恐慌を引き起こした。


 メサイアは決戦兵器として確固たる位置づけを確立している。

 それを駆る栄光を持つのは騎士、しかも、名門の誉れ高き騎士であるべきだ。


 そう息巻く騎士達に突きつけられたのは、このスキルが、従来普及している騎士レベルである肉体能力(SFS)とは関係しないという“真実”。

 急遽、確立された能力調査が進めば進むほど、それまで“騎士階級の恥部”とまで蔑まれてきた“騎士くずれ”たる、底辺の騎士達にも多くのスキル保有者がいるとなってはたまったものではない。

 騎士崩れが階級の主役になるぞ!

 冗談じゃない!

 このままでは千年を超える階級秩序が崩壊する!

 

 恐怖が恐慌を産み、恐慌は革命へと変わった。 


 それまで階級の中でゴミのように扱われていた存在が、一夜にして、


 メサイア使い。


 そう称えられることなんて、旧来の騎士達にとって受け入れられた話ではないのだ。


 騎士階級内部での議論は、何年も進展しなかった。


 改革を促したのは、戦争だった。


 メサイアが主力となる人類未曾有の戦争は、出自も何もかもわからない謎の存在である異形生命体“妖魔”を相手にした、それまでのルールが一切通用しない人類にとって初めての戦争でもあった。


 勃発であるギアナ高地事件から“一応の終戦”とされるヴェルサイユ条約締結まで約30年を必要としたことから、別名“三十年戦争”とも呼ばれる世界規模での戦争。

 その中で、妖魔、特に体長数十メートル規模の“大型妖魔”に対する人類唯一に近い対抗手段はメサイアだった。

 いくら個人として肉体的に優れても、数十メートルのバケモノ相手に戦うことなんて、いくら騎士でも無理があった。

 一方で戦時中の量産体制の確立と共に、戦線に大量に投入され、30年の間に劇的進歩を遂げたメサイア搭乗者は、“メサイア使い”と呼ばれ、世界的英雄として祭り上げられていく。

 いくら身体能力に優れる高級騎士が意地になろうと、進歩するメサイアが、彼らがメサイアを駆ること自体を拒絶するようになっては、もうどうしようもなかった。


 メサイアは、メサイア使いと呼ばれる“騎士崩れ”によって駆られて当然。


 そう世界で認められるようになっては、階級内部でも時代の変化を受け入れるしかなかった。

 

 陸海空、戦域を選ばず、敵対する全てを薙ぎ払うために存在する最強の戦いの神。


 戦場の救世主―――メサイア。

 破壊の神―――メサイア。


 メサイアを駆る戦いの司祭―――メサイア使い。


 世界はとりつかれたようにメサイアの生産・配備に熱を入れ、戦線にはメサイア使いが投入された。

 メサイアの配備数は、戦争終結を宣言するヴェルサイユ条約発効の時点で(世界規模で)1万とも2万ともされる。

 メサイアの数が国力のバロメーターともされるのがこの世界だ。 

 この数故に騎士=メサイア使いと考える風潮も今では強い。

 それに自らの立場に危惧を抱いたのは、それまで幅を効かせていた騎士達だ。

 メサイア使いなんて騎士ではない。

 騎士は体を張って戦ってこそ価値がある!

 騎士が機械に頼るとは何事だ!

 そう言っても、身体能力だけでは魔法騎士にかないもせず、戦略的価値においてはメサイア使いに負けることを覆すことは出来ない。

 戦争が一段落した後、世界会議の結果として、階級を牛耳る旧主派の騎士達は、せめてもの抵抗を試みた。

 メサイア使いの騎士階級内部での扱いを定めたブリュッセル条約において、騎士階級はメサイア使いを騎士階級内部で承認することとした。

 しかし、その代償として、彼らに不当とも言える様々な差別的制約を課したのだ。

 

 その最たる具体例が、帯刀権の制限だ。


 騎士は刀剣をもって戦う存在故、刀剣を帯びることを名誉とし、平時でも公然と腰に武器を帯び、それを名誉とする者が多い。

 だが、体を張って戦わないメサイア使いにそんな権利は必要ないとされたのだ。

 メサイア使いが帯刀を許されたのは、長剣なら模造刀のみ。

 真剣は刃渡り10インチ(約25.4センチ)を超えてはならない。

 刀剣という、目に見える形での騎士の名誉は彼らには与えられなかった。

 模造刀かナイフで証明される階級的尊厳。

 これは何の冗談か……?


 “騎士であって騎士ではない”


 メサイア使いとはそんな存在だと、身内からみなされた結果がこの条約であることは明白だった。

 しかし、それに文句をつけることは出来ない。

 それが世界の秩序なのだ。


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