どんぐり

「やべえ」


 俺の言葉に何が? と浩太が反応した。俺は公園のベンチに座る幼稚園児らしい男の子を指差す。


「いやあれ、袋」


「袋? ああ、なんかある」


「やばくねえ? あれどう見てもどんぐりがギッチリ詰まってるんだけど」


「わあ」


 浩太の声が少し上にぶれる。テンションが上がったみたいだ。


「食べるのかな」


 そんなワクワクした声を出さないでほしいが、浩太はにこにこしながらゆっくりとした歩調になっていく。


「リスみたい」


「わはははは! いやリスにしても多いだろあれは!」


「冬眠にはあれくらいの量がいりますからね」


「どの立場なの?」


「いっぱい埋めるので」


「リスなの?」


 このままだとボケ倒されるなと直感して、俺はちょっと足を速く動かす。浩太はそれに普通についてくる。


「なんか急ぎ?」


「いや、子どもじっと見てたら怪しいよ」


「それもそうか」


 浩太は納得した顔をしてから、ばいばーいと男の子に手を振っていた。男の子はこっちに気が付いていなかったようで、そのあとすぐにやってきたお母さんに連れられて帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る