紙飛行機

 それを持って来たのは井田ちゃんだったのだ。全部試したいと言って持って来たコピー用紙に印刷されていたのは紙飛行機の折り方で、カバンから出てきたのは百均で売っている派手な折り紙だった。


「マジでどれが飛ぶのかやりたい」


「……井田ちゃんってさあ、頭良すぎてたまに狂うよねえ。いいけどさ」


 そんなわけで始まった折り紙大会だったが、放課後の教室で五つも机を占領して紙飛行機を折り続けるってのもなかなかにシュールな図だっただろう。俺を呼びに来たらしい浩太は教室の入り口で立ち止まってしまった。


「二人とも、何してるの? 児童館にボランティアでも行くわけ?」


 そう言いながら近付いてきた浩太は、俺の肩越しに手元を覗き込んできた。折るか聞いたらそこで頭をふるふると横に振ったもんだから、ちょっとこそばゆかった。


「児童館って発想が出てくるミヤはすげえよ」


 俺が言うとむうと口で言っていたが、横目で見た顔は別になんてことない顔だった。


「じゃあ何」


「井田ちゃんの思い付き」


「ああ、いつもの」


「いつものって何!?」


 浩太の言葉にばっと井田ちゃんが顔を上げて抗議してくる。


「いや、いつもだよ。隆太、この前何だっけ」


「えー、たしかクソでかゼリー作りたいって家庭科室でめちゃくちゃ細かくゼラチンの量とか計らされたやつ」


「見たくなかった? でっかいぷるっぷるのゼリー」


「あれか。潰れたじゃん」


「わはははは!」


 浩太の指摘に思わず笑い出してしまい、オレンジ色が差し込み始めた教室に俺の声が響いた。ついでに手の中にあった折りかけの飛行機は潰れた。


「ミヤが入ってきた時ちょうどぐしゃってなった時だったわ!」


「おおー、俺ナイスタイミング」


「ねえ! 二人とも酷くない!? というか宮野も折ってよ! 俺早く飛ばしたいんだよ!」


「俺犬しか折れない」


「うそでしょ!?」


「いやマジだよ、ミヤはへんなとこ不器用。幼稚園の時もなんかやべーもんよく作ってた」


 うんうんと俺が頷くと、ほぼ同タイミングで浩太も頷いていた。そこまで揃うんだと井田ちゃんは呆れていた。浩太はその言葉に心当たりがないという顔をしていたので、俺はまたゲラゲラ笑った。

 それからしばらく俺と井田ちゃんで飛行機を折りその傍らで浩太が黙々と飛ばしては飛距離を測っていたのだが、五時を過ぎたあたりで体育教師から下校を命じられたのだった。

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