第39話 ウィズ、怒るッ!
オルフェスとイルウィーンが戦闘を繰り広げている間、クリムはまさに獅子奮迅の活躍を見せていた。
両手にはそれぞれ剣に酷似した
「そぉぉぉぉらぁッ! ヴァールシア! アンタの力が今どうなっていようが、かんっけーない! アンタを倒し、アンタを超える! それがアタシのレゾンデートル!!!」
「クリム! 私の知る貴方はもっと冷静でした。ですが今の貴方はまるで違う。例えるならそう、ただのチンピラですよ」
ヴァールシアは双剣を巧みに操り、クリムの攻撃を全てしのいでいた。
「その煽りの切れ味は相変わらずねぇ!」
長物と剣とでは取り回しが全く違う。だというのに、クリムはその超越的身体コントロールによって、ヴァールシアの“間合い”だろうが、両手の
まるで短剣の速度。剣が届く間合いならば、ヴァールシアに分がある。一度剣を振るえば、千の斬撃を産み出し、双剣を振るえば、その数は加速度的に跳ね上がる。
「アンタとアタシ! 第一級天使と言われて連想されるのは、いつもアタシ達だった!」
「確かにそうでしたね。私は貴方に負けまいと、常に鍛錬を積み重ねてきました」
「そうよ! そのはずよ! アタシもアンタに負けたくなくて、常に戦いの訓練を行ってきたァ! だというのに!!!」
「大振りな攻撃。これはまずい。ヒューマン、逃げなさい」
「そこで、そいつを心配するのかァァァァッ!!」
クリムが地面に
ウィズは防御魔法と身体能力強化魔法を併用し、なんとか危険地帯から脱出。彼はすぐに、得意魔法〈バニシング・シューター〉を発動し、トゲの撤去を開始する。
「マメな仕事が好きなのねヒューマン!! ついでにアンタの心臓をプチりと潰させて欲しいんだけど!?」
「了承する馬鹿がいるかよこの馬鹿! 仕事には段取りが大事なんだよ、お前も力の翼様とやらの下で働いているのなら、良く勉強しておくんだな!!」
クリムが滑るような軌道でウィズへ肉薄。彼女の燃えるような紅髪は、ゆらゆらと揺らめく炎のようだった。
「アンタごときが力の翼様の名を口にするなぁぁぁッ!!」
「ぐ……っ、お!?」
防御魔法の発動が遅れていたら、全身の骨が砕かれていた。そんな確信がウィズにはあった。
防御したはずなのに、攻撃の余波でウィズは吹き飛ばされ、まるでゴム
「ヒューマン、ブチッとキレてしまったからアンタからさっきに殺す! 死になさいな!」
クリムが両手の
なんとか立ち上がるも、ウィズは間に合うのか――!
「ヒューマン!」
ヴァールシアが間に入り、双剣で斬撃を打ち落とし始めた。
しかし、数が多い。ヴァールシアに着実にダメージが入っていくッ!
「やめろヴァールシア! 不毛だ! 下がれ! 僕がどうにかする!!」
「そうはいきません。貴方はシエル様が選んだ人間です。ならば、私は貴方の戦闘能力を維持する必要があります」
「だったらなおさら余計な心配だ! 君の援護はいらないぞ!」
「そうです、か……! 私は貴方の言うことは聞きたくないので、却下します」
「ヴァールシア!! アンタはおかしくなった! あの頃のアンタは! 冷血で無慈悲に相手を殺戮していたアンタは! 強くてかっこよかった!!! アタシの憧れだった!! だからこそアタシはアンタに追いつきたくて!!」
クリムは全力で武器を振り抜いた。それぞれの斬撃が交差し、巨大なバツ印の斬撃へと昇華する。
対抗し、ヴァールシアも双剣を交差させ、それに備えた。
「くっ……!」
ジリジリと押されるヴァールシア。ウィズは斬撃に対し、行動を起こそうとした。しかし、その前にヴァールシアによって吹き飛ばされた。
「ヒューマン――“ウィズ”、シエル様を頼みましたよ」
ヴァールシアの身体から、鮮血が吹き出す。天使といえど、同じ真っ赤な血。人間が元になっているのか、それとも天使が元になっているのか。順番がどちらかは分からない。
「ヴァールシア……」
倒れるヴァールシアへ近づくウィズ。生死を確認する直前、クリムが高らかに宣言した。
「倒したァァァ! ヴァールシアァァァァ! アタシはアンタを倒した! 倒したのよ!」
普通、笑うはずだ。
しかし、クリムは大粒の涙を流していた。
「力を封じられたアンタを倒した! 本気の一割も出せないアンタを! 悔しい悔しい悔しい悔しい!! こんなシチュエーションでしか倒せなかった! たかがヒューマンを庇った隙を狙わなきゃ、勝てなかったアタシ自身がぁ!!」
クリムは槍をウィズへ向けた。
「……構えなさいヒューマン。今度こそ、アンタを倒す。このヴァールシアへの感情を、アンタにぶつけさせてもらうわ」
「……天使クリム。お前は見誤ったよ」
「何? ――!?」
直後、ウィズの魔力が膨れ上がった。ただでさえ膨大な魔力が、更にまた一段跳ね上がった。
その力を、クリムはこう見積もる。
「これは……何? この力、第一級天使と……いいえ、三 大 代 行 並 ?」
「クリム、今すぐアレを展開しろ。〈エンジェリックフィールド〉を」
「誰がアンタの指図を――」
「いいや、僕がやる。――〈エンジェリックフィールド〉」
次の瞬間、世界が変化した。風は止まり、先程まで揺れていた草が微動だにしていない。
天も地も、見る色全てが白黒。全ての時が静止した空間。不幸にも選ばれた生命体にとっては世界終末の風景にも見えるだろう。
その魔法を見たクリムは驚愕した。
「こ……れ、は!!?」
「だいぶ見てきたからね。覚えたよ。それよりも、クリム。僕は怒っている」
ウィズは続ける。
「少しとはいえ、ヴァールシアとシエルとは同じ時間を共有した。だからこそ、僕は彼女たちを数少ない友人だと思っている。……照れくさいけどね。だから、許せないんだよ。僕の友人にした仕打ちはもう我慢ならない」
ウィズがクリムへ指差し、こう言ってのける。
「来いよクリム。僕は全力で、君を倒す。――人間舐めるな」
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