第40話 意地を乗せたレインボウフレアッ!

 クリムの姿がブレ、高速でウィズに襲いかかる。


「大きく出たわねヒューマンがぁ! アタシが身の程を教えてあげるわ!!!」


「ウィズ! 大丈夫!?」


「僕の心配をしている場合かオルフェス! 君はそっちに集中しろ!!」


「私を心配してくれるの!? これ、もうプロポーズでは!?」


「自分を無視するなっス!」


 イルウィーンの猛攻を捌き、時には反撃をするオルフェス。“突破者”故の驚異的な潜在能力のおかげか、終始オルフェスはイルウィーンを圧倒していた。


「ウィズ! もう少し耐えてね!」


「余裕が過ぎるっスねぇ!!」


 再び攻撃の回転率が上がったオルフェス達を尻目に、ウィズは己の周囲に意識を巡らす。


「僕の防御フィールドは鉄壁だ。しかし、それ故に無限には展開できない」


 あくまでもウィズは人間だ。いつまでも動けるわけではない。だからこそ早急に、かつ確実に勝利をもぎ取らなければならない。


(勝ちまでの工程を逆算しろ。切り札は〈レインボウフレア〉。それを決める)


 ウィズの中の最強。それが〈レインボウフレア〉。彼が繰り出す七色の炎は七つの神話的攻撃力を持つ。例え人を超えた存在であろうと、直撃すれば滅ぼせる。それは第三級天使フェザラルが証明している。

 しかし、最近の出来事がウィズに弱気をもたらす。


(打ち消される可能性は考慮するな。あれは知恵の翼だけのスペシャルだ。天使全てが誰でも出来るなら、レイヴィニールがとっくの昔にそうしている)


 己を奮い立たせる。元より出来るか、出来ないかなどという場合を考えているつもりはない。

 やるか、死ぬか、なのだ。


「〈バニシング・シューター〉!」


 クリムを囲むように、円形の魔法陣が出現。そこから一気に光線が放たれた。


「小賢しい!」


 クリムを追い払うよう、巧みに円形の魔法陣を用意し、一定の距離を保つ。ウィズはその間、必殺魔法の準備を行っていた。


「おおおお!!!」


「その七色の炎は何!? 無礼な炎ね! アタシが滅殺してあげるわ!!!」


 発生し続ける〈バニシング・シューター〉を徹底的に回避しながら、クリムは左手の突撃槍ランスをウィズへ投げつけるッ!

 音速の壁を容易く超え、圧倒的質量兵器と化した閃光。

 ウィズはそれに対する回答を用意していた。


「読んでいたァッ! 〈フォトンリング〉!!」


 ウィズの眼前に、あらゆる力を増幅させる光輪が出現した。その数、三本。

 一本目で僅かに角度を変え、二本目で更に角度が変わる。そして三本目で、完全にウィズの頭上を通リ過ぎる角度に変わった。


「こんな薄氷を踏むような対応がァ!」


「おおおお!!」


 一瞬の隙を見逃さなかったウィズは七色の炎を投げつけた!

 次の瞬間、七色の炎は既にクリムの目の前に“あった”ッ!!


「いつの、間に!?」


「僕の意地を乗せた〈レインボウフレア〉ッ! この戦いを制したのはどっちかッ!! 教えてくれええええええッ!!!」


 クリムが回避行動をする前に、七色の炎はクリムを飲み込み、燃え上がるッ!


「ぐ、があああああああ、ああああああっっっが!!! この炎、まずい……! これは破滅の炎!!! この冗談が過ぎる攻撃力は何!?? これは、この炎は……三大代行すら燃やす!!!」


 七色の炎には七つの神話的攻撃力が内包されているッ!

 例えあらゆる攻撃を弾く防御力を誇る天使だろうが、シャットアウトすることは不可能!

 一匹の蟻が鋼鉄の板を破壊することは不可能なように、七色の炎は確実に、そして甚大にクリムへダメージを与えていたッ!


「諦めろクリム! 諦めて消滅しろオオオオ!!」


「馬鹿にするなよヒューマン!!! 第一級天使を舐めるな! アタシを舐めるなアアア!!!」


 クリムは全身の力を防御力に変換し、ひたすら嵐が通り過ぎるのを待っていた。だが、いつまで経っても、この破滅的継続ダメージは終わらない。


「ウィ……ズ……や、め」


 ヴァールシアの細い声が聞こえた。

 とっさにウィズは〈レインボウフレア〉に与え続けていた魔力を絶ち、七色の炎は徐々に霧散していった。


「おい……おいおいおいおいおいおいおい……!! 何やってんの、よ……! アタシは、まだ……死んで、ないでしょうがぁ……? なぁにを勝手に、……止めてんのよ?」


 そう吠えるクリムは全身に傷を負っていた。上半身はふらふらだが、それでも補助無しで、両足でしっかりと立っているのは、流石の耐久力。

 クリムの身体にはまだ少量の炎がまとわりついていた。


「ヴァールシア、大丈夫なのか?」


「ええ、それよりもクリム。……貴方は、気づいていないのですか?」


「なんの、ことよ……!」


「私が教える」


 するとシエルは満身創痍のクリムへ近づく。クリムは思わずイルウィーンの気配がする方向へ視線を向けるが、そこにはオルフェスという人間だけが立っていた。オルフェスの足元では、イルウィーンが目を回して、気絶していた。


「クリム、動いたら駄目だよ」


「動けるなら、とっくの昔に動いて、アンタを確保しているわ」


「そっか。すごい我慢強いんだね」


 シエルはクリムのことを、敵と認識していない。今の問答で、クリムははっきりとそう確信した。

 そこまで実力に開きがあるのかと、一瞬絶望しかけた。


「力の翼のことだから……ここか」


 シエルの細い人差し指が指したのは、クリムの喉元だった。


「多分痛く無いと思うけど、痛かったらごめんね」


 シエルの指先が不思議な力に包まれる。その状態を維持したまま、シエルはクリムの喉元を軽く叩いた。

 すると、ガラスが割れたような音が小さく鳴った。


「これは……? 今、何をしたの?」


「力の翼が施した自壊システムを解除しただけ。力の翼の部下には、みんな施されているシステムなんだよ」


 イルウィーンの元へシエルは歩み寄る、先程クリムにしたことと全く同じことをした。

 すると、イルウィーンの喉元からも、ガラスが割れたような音がした。


「自壊って……アタシ、力の翼様の一番の部下で、何だかんだ信頼されていると思ったから……だから」


「力の翼は自分だけが大事。だから、クリムもイルウィーンもこれ以上、力の翼に振り回される必要はない。……もっと早くシステムを解除したかったんだけど、ごめんね」


 シエルの両手は強く握りしめられていた。

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