第28話 雷神からの招待ッ!
レイヴィニールに突きつけられた長柄の戦斧には、圧倒的殺意が込められていた。
「ねえヒューマン? 今、ウチに要求したの? それはまずお駄賃が必要だと思うんだよね。アンタの首っていうお駄賃が」
「物騒が過ぎるな。お釣りすらいらないだろうが。その代わり、ヴァールシアが死ぬほど相手してくれるぞ」
「そういえば、レイヴィニールとはまだちゃんと戦ったことがないですね」
「はぁ!? 本気で言ってんの!? 一ミリも力を感じないアンタとどう戦えって!? 冗談言うなし!」
ヴァールシアとシエルは互いに目を合わせた。
やはり一定以上の力を持つ者ならば、感じられる力。
動かないことこそが戦い。ウィズは、誰かが言っていた言葉を思い出した。
既にヴァールシアとレイヴィニールとの間で戦いが始まっているのだ。だが、手を出さないだけ。
先に話題を変えたのは、レイヴィニールだった。
「ちっ。とにかく、ウチはアンタとは戦わないし、そこのクソヒューマンの要求も聞けない」
「その話の流れじゃあ、次に出てくる言葉が容易に想像出来るぞ」
「ウチのスローガンは“気に食わないならとにかく殴れ”。ヒューマン、要求を通したいなら、ウチと戦いな。けどね――」
瞬間ッ!
ウィズの足元から雷が“生えた”ッ! 閃光と音がウィズの目をくらませるッ!
彼は一歩も動かなかった。これが脅しだと知っているから。力強い瞳は、レイヴィニールから少しも逸れていなかった。
「“エデンの雷神”であるウチとヒューマンが“戦える”だなんて、ホンキで思っているのならね!」
「良いぞ。やろう」
「はぁ?」
ウィズは右腕を軽く回しながら、一歩前へと出る。
「ウチの話聞いていたの? それに、今の雷で力は示した。戦いにならないのが分かるでしょう?」
「……分からないな。そもそも戦いっていうのはそういうものじゃないのか? 勝てるかどうか分からないから戦いなんじゃないのか?」
そう言うウィズの呼吸がどんどん荒くなってきた。
「この人生で一度でも多く、全身が燃えるような戦いがしたいんだ。……僕は良い。華々しく勝っても、ぐしゃぐしゃに潰されて負けることも、どうなっても良いんだ」
落ちそうなよだれを何とか飲み込み、感情が昂ぶったことによる涙も拭うウィズ。その瞳は既に爛々と光り輝いていた。
「なぁ、天使なんだろ君? しかもあのクリムと、そこのヴァールシアと同格なんだろう? じゃあ戦ってくれるよな? そうでなければ君ら天使は退けないものな」
近くで見ていたヴァールシアは、ウィズの“危うさ”を感じ取っていた。
(ヒューマンは生存本能が非常に高い生物。だから、彼らは単独行動を嫌い、集団で何かをする。それは全て、生きるため。しかし、このヒューマンは違う。上手い言葉が見つからない……ですが、はっきりと今の感情を口にするのならば)
ヴァールシアはウィズをこう断じた。
(――気味が悪い。薄ら寒い。彼は、常に生きたがっているのに、常に死の可能性へ飛び込みたがっている)
ヴァールシアが気味悪がったのと同時、レイヴィニールも全く同じことを考えていた。
「気持ち悪いねアンタ。ったぁぁ~。なんかもう、やる気がなくなったし」
そう言うと、レイヴィニールは長柄の戦斧を数度回転させると、武器を光の粒子へと変えた。
初めて見る光景。ウィズは興味津々だった。
「ヴァールシア、あれは? 武器を分解して、虚空に収納しているように見えたが」
「目ざといですねヒューマン。そうです、あれは天使の力の一つです。我々は常に
「あれは良いな。僕は武器を使わないが、それでも少しは役立ちそうだと妄想が出来る」
だが、とウィズはレイヴィニールをじっと見る。
「そこで武器を収める理由を聞きたい」
「さっきも言ったでしょ。ウチはやる気がなくなったって言ったの」
「僕と戦え」
「だぁ~! 話が通じない! ……そういや、アンタ、ヘヴンズウォールに用があるんだっけ?」
「そうだ……と言いたいが、天使である君が目の前に以上、とりあえず用はない」
腕を組み、なにか考え事をするレイヴィニール。すぐに笑みを浮かべた。
「なら、ヘヴンズウォールへ来なッ! そこまでやってこれたら、今度こそウチはアンタと戦ってあげる!」
発言と同時に、レイヴィニールは天空へ飛び立った。その速度はまるで光。
一度瞬きすれば、はるか彼方。二度瞬きすれば、もう見えなかった。
「速いな。ヴァールシアよりも速いと見たが……?」
「あ り え ま せ ん が ?」
「……ヴァールシア。君は時々非常に負けず嫌いな所があるよな」
「これでも私は第一級天使最強ですからね。最強には最強なりの意地があるのですよ」
「ヴァールシアはいつも頑張っている。そんなヴァールシアだから、最強なんだよ」
「ふん、こればかりは茶化す気になれないな。良かったなヴァールシア」
「――」
「ヴァールシア?」
「――――」
ウィズはそこでようやく気づいた。
「な、涙を流しながら気絶しているッ!? そこまでか! そこまで感極まったのかヴァールシア!?」
「ヒューマン、下界でもそれなりに良いことは起きるのですね」
「下界関係ないな?」
ヘヴンズウォール。
ウィズは天使がいる塔へ顔を向ける。
(ヘヴンズウォール。そこで僕は一体、どんな戦いが出来るのだろうか。刹那のやり取りに涙したい。僕は……天使を倒したいんだ)
この瞬間、ウィズには目的が出来た。
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