第21話 クリム対ウィズッ!

「イルウィィィィィィィィィィンッ!!!」


「はいっス!!!」


 両手の突撃槍を振り回しながら、クリムは叫んだ。


「アンタはヴァールシアをやりなさいッ! アタシはヒューマンをボコす!」


「クリム先輩がヒューマンとっスか!? なんで!? 逆のほうが――」


「アタシは、誇りを掴み直すッ! アンタは速やかにヴァールシアを殺れッ!」


「了解っス!」


 直後ッ! 爆音ッ! 紅髪の流星が、真っ直ぐにウィズを飲み込みに行くッ!


「来ると思ってたよ突撃馬鹿がッ! 〈バニシング・シューター〉ッ! 塗り潰せッ!」


 クリムを覆うように、無数の魔法陣出現ッ!

 その数、百。これは攻撃ではない。牽制だ。下手な突撃は痛い目に遭うぞ、という彼なりの警告。

 魔法陣から白色光線が放たれるッ! 同時にウィズは、クリムの背後に防御結界を発生させる。この行いに一体どんな意図があるのか?

 答えは簡単。この大地を守るためッ!


「世界に被害を与えないために、防御魔法を発動したッ!? 上等ッ! 良い心がけよ、ウィズ・ファンダムハインッ! アタシの突撃槍とキスさせてあげるッ!」


「光栄だッ! その横っ面を引っぱたいてやるよッ!」


 白色光線がクリムを覆うッ! 魔力光の濃密な質量ッ! もはや前進は不可能かッ!?

 いや、待って欲しい。白色光線が徐々に真っ二つにされようとしているではないかッ!


「アタシは第一級天使クリムッ! こんなお遊び魔法で止められると思ってんなら、即殺しにするけどオーライッ!?」


「ノーライッ!!」


 まるで海を割ったように、クリムは両手の突撃槍を振るい、白色光線を“こじ開けた”ッ! オープン・ザ・ドアッ! スタイリッシュな侘び寂びがそこにはあったッ!

 クリムが光の壁を突破するッ! 再び一直線にウィズの喉元目掛け、迫る閃光!


「ウィズ・ファンダムハインッ!」


「クリムッ!」


 もはや壁といって過言ではない威圧感。クリムが放った突き。突撃槍に纏われる闘気。それはこの世の人間が防ぐには、些か無理がある。

 ウィズの空いた手に魔力が収束する。すぐに彼は魔力を解き放ったッ!


「クリムッ! 僕は君と戦いたくて、仕方がなかったッ! だから僕は今、この瞬間、全身全霊で君を倒そうッ!」


 再びウィズの魔力とクリムの突撃槍がぶつかりあうッ!

 その間に、ウィズは次弾の用意に移っていた。


さえずるなよウィズ・ファンダムハインッ! この前はアンタという存在を見くびったッ! だからアタシは負けたッ! 今のアタシには一分の隙もなぁぁぁいッ!」


 クリムが突撃槍をデタラメに振り回す。刹那でウィズの魔力が霧散し、クリムにとってのウィニングロードが開かれた。


「ぶちまけてやるッ!」


 ついさっきまで目の前にいたはずのクリムが、消えていた。直後、ウィズの周囲にたくさんのクリムが出現ッ!

 これは一体どういうことなのかッ!

 タネは単純。人の視力では捉えることの出来ない速度で動いているだけ。しかし、これはもはや、分身といっても過言ではない。


「何が起こったか分からないまま、散れッ!」


 ウィズを貫くまであと、数瞬。

 しかし、クリムは確かに視た。空から降る、小さな火の粉を。


「こ……れ……は……ッ!!」


 クリムは本能的に後退していた。

 だが、雪のように降る火の粉を見て、彼女は手遅れを悟る。


「花開けッ!〈ブルーミング・サン〉ッ!!」


 火の粉が――花開く。


 世界が、熱に侵食される。


 数えることは不可能。そんな数の火の粉が割れ、そこから 太 陽 が 産 ま れ た ッ !



「これはァァァァッ!!?」



「僕の想いを乗せた千を超える太陽ッ! 消滅しろォォォォッ!!!」



 ウィズとクリムの周辺には防御結界が展開されていた。

 これはクリムを逃さないため? 否、これは世界に被害を出さないための措置だッ!

 空間内の出来事は外に影響しない。

 オーブンッ!

 逃げ場のない太陽の熱と質量と光は、減衰することなくクリムを貫いていたッ!!

 時間にして、三秒。永遠の苦痛、無限の時間。今、天使であるクリムに、最大の試練が訪れていたッ!


「アッァアアアァァッ!! 舐めるなよ、ヒューマンッ! アタシがたかがサウナごときで、どうにかなるかァァァァァァァァッ!!!」


 太陽が全て消え、防御結界が消失した。

 ウィズは未だ立つクリムに称賛を送った。


「ふぅぅー……!!」


「僕の〈ブルーミング・サン〉を受けて、まだ五体満足か。さすがは天使。あれ? 僕はまだ泣いているのか……? 太陽の熱で乾いたと思ったのに……」


「アンタの……趣味なの、それ? ド変態がァ……!」


「僕の趣味? 違うな、生きる目的だ……!」


(イルウィーンは……?)


 クリムはイルウィーンをちらりと見る。戦いに集中していたというのもあるが、全く戦闘音がしなかった。


「イルウィーン!」


「すんませんクリム先輩……。ヴァールシアさん、強すぎっス……」


「剣の筋は良いですね。弓の腕前も申し分ない。あとは修行あるのみです」


 倒れ伏すイルウィーンと、双剣を収めるヴァールシア。勝敗は一目瞭然。


「えへへ……ヴァールシアさんに褒められた……っス」


「倒れている暇あるんだったら、さっさと退きなさい。迷惑よ」


「ういっス……」


 ヴァールシアはそれ以上戦うつもりはなく、下がるイルウィーンを見送った。


「……ウィズ・ファンダムハインとヴァールシア、か。分が悪い……。分が悪い? アタシは今、そんな事を思ったの? ふ、ふふふ……! 馬鹿かアタシ……」


 クリムは突撃槍を持つ腕をだらりと下げた。

 交戦の意思はもうないと見たヴァールシア。彼女としても、余計な戦いは好まないので、大いに結構。


「ヴァールシア……。あと一度だけ、悪あがきをさせてもらうわ」


 言うと、クリムは両手の突撃槍をウィズとヴァールシアへ投擲した。直後、クリムはシエルの元へと向かっていたッ!


「しまっ……! シエル様ッ!」


 ウィズとヴァールシアを背後に置き去りにしたクリムは、勝ちを確信した。最大の目的はシエルの確保。

 天使である己の速度をもってすれば、追いつかれることはない。


 クリムの手がシエルへと伸びる――!



「それは駄目だと思いますー!」



 クリムとシエルの間に飛び込んだのは、なんとリリウムだった。

 伸ばされたクリムの手が、リリウムの大剣に阻まれる。

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