第16話 これからウィズに降りかかるやべー話ッ!

「さて、じゃあウィズの言うことは全部正確に受け取ったわ。おかげで私とウィズの結婚式まで鮮明に見えた」


「節穴が過ぎないか?」


「はぁ!? ウィズ、私と結婚したくないの!?」


「どの世界線に行けば、君と結婚云々の話になるんだよ!」


「ん? 知りたいのですかヒューマン? それなら私の必技『時操斬』にて、お見せしましょうか」


「いらない! というかヴァールシア、何だその『時操斬』とやらは!?」


「ふむ……不勉強ですねヒューマン」


 そこまで深く聞いてもいないのに、ヴァールシアは教えてくれた。詳細を聞くと、思った以上に常識外れの技であった。


「何、単に時間と空間を私の斬撃で操作するだけの話ですよ」


「ありえない! 君は因果律を何だと思ってるんだ!」


 ウィズは叫ぶように言った。

 彼は怒っていた。あまりにも非常識が過ぎる。そんな横暴が許される人間は存在しないのだ。

 だが、ヴァールシアはあっけらかんと言いのけた。


「因果律など、私たちからすれば操るのは些事以下なのですが……?」


「くっそ! イカれている!」


「え? え? ウィズ、何でその蒼髪の人と仲良さそうなの? ねぇ、おかしくないそれ???」


 鉄より重いオルフェスの視線がウィズを絡め取る。

 ストレスでウィズの胃が締め付けられる。環境型ストレス生産マシーンである彼女の瞳は段々と曇っていく。


「処すればいいの? 私はこの蒼髪の人と女の子を手にかけなければならないの……?」


「穏便に済ませろ馬鹿がッ! 君、一応コルカス王国軍の軍団長だろうが! 血の気が多いぞ!」


「だってそれはウィズがはっきりと答えを言ってくれないからで……」


「僕、君と、結婚する気、なし! 特別な感情、ノー! 一切、ノー! 満足か!?」


「嫌よ嫌よも好きのうちって言うから……ええっ!? これもうオーケーサインのオーケストラじゃない! ありがとうウィズ~!」


「馬鹿が過ぎるぞ!」


「私は非常に機嫌が良いからこのまま帰るわね!」


「さっさと帰れ!」


 去り際、オルフェスはヴァールシアとシエルをちらりと見る。


「ウィズ? この二人がもししばらくいるつもりなら、私は定期的にここに来るわ。流しそうになったけど、やっぱりこの二人、私の頭に残ってないのよね。ウィズを信じない、というわけではないから、これはせめてもの妥協って思ってくれないかしら?」


「……君は唐突に真面目になるのな。ああ、異論はない。君の気の済むようにしてくれ」


「やった! じゃあ日一で来るわね! じゃあさよなら~~~!!!」


 口早に言い残し、オルフェスはダッシュで去っていった。

 家から出る寸前の、彼女の歪んだ口元を見た瞬間、ウィズは負けを悟る。


「し、しまったぁ!! 言質を取られた!? これでオルフェスは定期的にここに来ることになるのか!? ありえない!!」


「日一……それは毎日ということでは?」


「うるさいぞ!」


「ヒューマン……。私の事は別になんと言われても構いませんが、自分の失態を棚に上げるのは感心しませんね」


「あああ! 君はいつも僕を苛立たせてくれるなぁ!」


「カルシウムが足りていないのでは? 魚をあげましょうか?」


 こうして始まったウィズと厄介な二人との共同生活。

 規格外の事しか起きない未来。それだけは確約されている。そのうねりの中で、ウィズ・ファンダムハインはいかなる壁を乗り越えていくのか!

 それはまだ、誰も知らない。



 ◆ ◆ ◆



 荘厳ッ!

 その一言だけが相応しい場所で、紅髪の天使クリムが苦しみを与えられていたッ!


「あぁあぁっぁぁぁぁぁあ!!!」


「金切り声あげてんじゃねぇッ! 天界の金属全て切り裂くつもりかよこの害悪環境破壊女がァッ!」


 億単位の光の鞭がクリムを神速で叩き上げていた。もはや打撃の波。攻撃と回復を同時に施されているこの無限苦痛の中、クリムは自害すら許されなかったッ!!

 光の鞭を振るっていたのは、黄金色の大翼持ちし男だ。


「が……はぁ……!」


「が……はぁ……! じゃあねえんだよ悲劇クリエイターちゃんよぉぉぉぉぉぉ? 説明してくれや? な? 頭の悪い俺様に説明してくれや?」


 男は近づき、倒れているクリムの紅髪を掴み上げる。


「何 故 ヒ ュ ー マ ン 如 き に 負 け て ん だ よ こ の カ ス っ ぱ オ ブ カ ス っ ぱ が よ ぉ」


「申し訳……ございま――!!」


 最後まで謝罪の言葉を言うこと無く、クリムは顔面から床に叩きつけられた。


「な? 君、一応確認していい? 誰の管理下にいるやつだ?」


「さ、三大代行が一翼……力の翼様の」


 再び、最後まで言うこと叶わず、クリムは腹に思いきり拳を振るわれていた。


「だろうがよぉぉぉぉぉぉ!? このエデンの最高戦力、力の翼の部下だろうがよぉぉぉぉぉぉ!? てめぇら如き木っ端が無量大数匹いても敵うことのねぇ、この力の翼の部下だろうがよぉぉぉぉぉぉ!!?」


「がっっっはぁ!!」


「てめぇら負けるイコール俺の敗北なんだよなぁこれが! 分かるか? 俺の敗北なんだよ!!! 少しは申し訳無さそうにしろやこのメスガキがぁぁぁぁ!!!」


 刹那単位で振るわれる暴力。

 クリムにとって、これは日常茶飯事だった。力の翼の側近になるというのはそういうこと。彼の暴力に生き残れることこそが、最低条件なのだ。

 倒れるクリムの頭を踏みつけ、力の翼は言う。


「まぁ? 俺様は寛大だよ。失敗は誰にでもあるしな。この俺様ですら失敗はある。だからてめぇら如き木っ端がミスるなんざ、常識中の常識よ。だから俺様は許すよ? うん、今回は許す」


 途端、力の翼の踏みつける力が強くなった。


「だがな? 戦闘においての失敗は許さんぞ。戦闘とはイコール俺。つまり負けてはならんのだよ」


 力の翼は再びクリムの髪を掴み上げ、こう言った。


「てめぇが負けた相手はてめぇが殺せ。だが、言い訳出来ない状況で殺せよ? 超々遠距離攻撃で無音殺戮なんてやらかしたら、俺がてめぇを無音殺戮する。タイマンで勝てなくて、遠くから殺しました! なんて言った瞬間、てめぇの四肢と頭は無くなっていると思え!! 分かったなぁ!!!」


「分かり……ました……! 必ずや、戦果を……!」


「分かり切ったことを聞くなよこの脳みそ微生物がよぉぉ!!!」


 確実ににじり寄ってくる悪意。この悪意は逃げ切ることは不可能。

 ならばどうするのか、ウィズ。ウィズはいかなる状況に陥っても必ず、こう言うだろう。


 ――スローライフのためなら、手段は選ばない。


 そう、必ず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る