第11話 激闘ッ! クリムッ!

 クリムは両手の突撃槍を高速回転させた後、油断なく突きつける。


「ヒューマン。アタシは舐められるのが大嫌いなの、分かる?」


「そうなのかい? いきなり暴力を振るってくる人のことは最初から見下していたのだけど、マズかったかな?」


「アンタ死んだわよ、くそヒューマンッ!!!」


 クリムがその場で消えた。単なる魔法ではなく、高速で動いただけ。ソニックブームを次々に引き起こし、ウィズへ肉薄する。

 クリムの姿は見えなかったが、ウィズにはそういう敵に対するカウンターを用意していた。

 だが、彼の前に、ヴァールシアが飛び出した。


「隙だらけですよヒューマン」


 双剣と突撃槍がぶつかり合うッ!

 刹那、衝撃波が辺りを襲ったッ! 周囲の地面に亀裂が走るッ! ただの武器の打ち合わせでこの威力ッ! ならば本気でやりあったのならば……ッ!

 ヴァールシアの行動に、クリムが驚いていた。


「ヴァールシアッ!? アンタ正気なのッ!? ヒューマンを守ろうっていうのッ!?」 


「私はシエル様を守っているのです。そこのヒューマンは関係ありません」


「そんな理屈通用するとでも……!」


「シエル様が絡むなら全てが通用します。いや、させてみせます」


 ヴァールシアの双剣が閃くッ!

 一秒で千を超える斬撃ッ! それに対応してみせるは第一級天使クリムッ!!

 二振りの突撃槍を巧みに操り、ヴァールシアの斬撃を的確に打ち落とすッ! その軌跡はもはや光の線。一種の芸術。閃光の攻防。

 クリムはその怒涛とも言える攻撃を懸命に捌いていた。


「ヴァールシアッ! アンタ、剣の腕が錆びていないッ! どうしてなのッ! どうしてアンタはアタシたちの前から姿を消したッ!? そんなにシエルに固執する理由がどこにあるッ!?」


「様をつけなさいクリムゥゥゥゥゥゥーーッッッ!!!!」


 一回転したヴァールシアが双剣を同時に叩きつける。その膂力は体の軽いクリムを容易に吹き飛ばしたッ!!!

 その力の源は執念。クリムは彼女の想像以上の力に何の準備もなく、防御を迫られ、それをぶち破られるッ!

 更に迫るヴァールシアッ! キャンバスへ好きなように筆を振るうように、クリムへ剣を叩きつけるッ!

 突撃槍を懸命に操りながら、クリムは叫んだ。


「何よこの力はッ!? ヴァールシア、アンタ前よりも強くなった!? 何で!? 前はアタシと互角だったのに! 何が変わったの? 何がアンタをそこまで変えたのッ!?」


「シエル様ですッ!!!」


 とうとうクリムの防御キャパシティを超えたッ! 固く構えた突撃槍がこじ開けられ、ヴァールシアは右の剣を閃光の速度で突き出すッ!

 空気の壁を叩く音が鳴り響くッ!

 強烈な突きの勢いによってクリムが空中へ打ち上げられたッ! 全くの無防備。ヴァールシアが飛び上がる! 


「はぁッ!!」


 袈裟斬り、逆袈裟、縦一閃、横一文字、両腕がブレる速度でヴァールシアは剣を振り回す! 彼女の双剣がクリムの身体を走り回る! だが、致命傷には至らない! クリムが服に施した魔力障壁によって辛うじて双刃を遮っていた!

 鳩尾に蹴りを入れたヴァールシア。そのまま足に力を込め、クリムを地表へと叩き落とす!


「がぁ……は!」


 再び流星となって大地へと落ちている最中、ウィズは追撃の用意をしていた。


(あの紅い天使はどうやら僕のスローライフを邪魔する存在になる。だから殺れる時に殺っておこう)


 ウィズが右手を開くと、可視化されるほどの魔力が発生する。

 今回使用する魔法は〈レインボウフレア〉ではない。あの魔法は以前フェザラルが使用した〈エンジェリックフィールド〉のような特異状況でなければ世界を焼き尽くしてしまうのだ。

 ウィズが右手の魔力を握り潰すような動作を行うと、彼と落ちていくクリムの間に魔力で構成された三つの巨大なリングが出現した。


「〈フォトンリング〉……! 世界を壊さない程度に、出力を調整……いくぞ!」


 彼はリングへ向け、単純な魔力光線を放った!


「増幅しろ〈フォトンリング〉!!」


 ウィズの規格外の魔力が凝縮された極太魔力光線が一つ目のリングを通過! 魔力光線が一回り細くなる。これは〈フォトンリング〉によって威力を凝縮した結果である! 二つ目、三つ目と光線が通過していき、太かった魔力光線は矢のような細さにまで圧縮される!

 クリムはまだ気づかない。


「アタシともあろうものが……無様! せめてシエルだけでも殺って――何、あれは」


「僕の想いを乗せた魔力光線だ! 直撃しろ!」


 ようやくクリムが魔力光線に気づいた。ひと目見て、すぐにそれが危険だと理解した。


「アタシの本能が危険を告げた!? あんなヒューマンの攻撃を!?」


 回避は既に不可能な距離。クリムは即、防御を選択する。

 二振りの突撃槍を交差させ、魔力障壁を何重にも展開する。その数、百。凡人の攻撃なら一枚目の障壁で霧散する。

 だが、クリムは致命的な思い違いをしていた!

 彼がただの人間じゃないことを! 彼の放つ攻撃は世界に対して病的と言われるくらいに配慮された攻撃だということを!


「何ですって!?」


 濡らした紙を指で突くと、簡単に破ることが出来る。

 ウィズの光線はまるでその濡らした紙のように魔力障壁を貫通していく! 勢いが衰えることは全く無い。

 その光景を見たクリムはウィズに対し、あり得ない感情――困惑を抱いた。


「このぉぉぉぉぉッ!!!」


 交差させた突撃槍に光線が触れる! 拮抗! 一秒後、光線はあっけなく貫通した!



「アアアアアアァァァ!!!」



 クリムの胸にぽっかりと穴が開いた。

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