第8話 決戦ッ! ウィズ対ヴァールシアッ!

 蒼髪の女性ヴァールシアとウィズは外に出た。

 外に出るまでずっと互いに睨みつけていた。不良の行い。だが、そんな不作法がまかり通る間柄だろう。


「ヴァールシア、君は僕を殺す旨の発言をしたな? 普通人を殺すと堂々と宣言するにはそれ相応の覚悟が必要だ! それが君にはあるのかな?」


「笑止。私を人間というカテゴリーに入れて欲しくないですね。後悔するのは貴方ですよ、ヒューマン」


「一応、僕は君が大事にしているシエル? を一時的にとはいえ保護したんだ。この事をシエルに知られたら君、どうするつもりなんだい? 君の大事な人は、保護した人に対して冷徹な人間なのかな?」


「貴方がシエル様を語るな。ええい、一刻も早く滅さなければならない! 構えろヒューマン!」


 双剣を構え、ヴァールシアは叫んだ。それだけで神話的迫力がウィズを包み込む。地面から腕が伸び、地獄へ引きずり込まれるかのような感覚ッ!!!

 だが負けないッ! 対するウィズは負けじと叫んだ。


「何がヒューマンだ! 君も人間だろう!? いちいち比較しないと自分の調子を維持できないのか!? 見下せるよ、君はさぁ!」


「ヒューマンごときが私を評価するかァァァァ!!!」


 ヴァールシアがウィズの眼前から消えた。超高速移動や空間転移、そういう次元の話ではない。いないのだ。ただ、そこから消えた。知覚など出来ない。だって消えたのだから。

 ウィズは驚いた様子もなく、顔を左右に動かす。

 そんな悠長なことをしている間にヴァールシアはウィズの首をどう狩ってやろうかと考えていた。


(大口を叩いておきながら私を捉えられていない、か。そんなものだ……ヒューマンはいつだって矮小な存在だ)


 その瞬間をどう表現したらいいだろうか。

 前後左右にヴァールシアが“いた”。残像ではない、そのどれもが実体。そう、ウィズの四方を取り囲む四人のヴァールシアは全て“本物”なのだ。

 四人、双剣、掛け算して八刃。絶対不可避の攻撃がウィズへ襲いかかるッッ!!

 回避、防御、そんな選択肢は選ぶだけ無駄。常人ならば秒でミンチになっている。そのような暴力をヴァールシアは平然と繰り出したッ!



 ――直後、四人のヴァールシアは吹き飛ばされていたッ!!!



「何故、だ……!?」


 超人的な重心操作で中空にて体勢を整えたヴァールシア。先程起きた出来事について考察を巡らせる。

 しかし、分からない。いくら考えてもヴァールシアには理解が出来なかった。

 じろりと、ウィズの瞳がヴァールシアを捉える。


「貴様何をしたァァァ!!」


「簡単な話だッ! 全方位に魔力を爆発させたッ!」


「それだけだと!? その程度でこの私が捌かれたのか!!」


「その程度にやられるのが君だァッ! 返すぞ〈バニシング・シューター〉!」


 ウィズが指を鳴らすと、ヴァールシアを取り囲むように無数の魔法陣が出現した。魔法陣が魔法陣を囲み、それはそれは美しい半球体を描くッ!

 彼は初手でヴァールシアに手加減は不要と心得ていた。どこの世界に魔法無しで分身できる存在がいるだろうか。いない。そんな奇天烈で強大な存在に対して、ウィズは全力で挑む必要があった。

 魔法陣から一条の白色光線が放たれるッ!

 流石に天使フェザラルの時のような威力にならないよう、限界まで加減をしているが、それでもしばらく昏倒させられるくらいの力を秘めていた。

 回避不可能な破壊光がヴァールシアを包み込む。

 時間にして二分。爆炎が生まれ、破壊の集中点にいたヴァールシアの状態が分からない。


「やってくれよ……!」


「驚いた。私が防御させられるとは……」


 ところどころ服が焦げているが、ヴァールシア自身にダメージは見受けられない。双剣に可視化されるほど濃厚な魔力が纏わりついていた。

 それで防御をしたのだ、と理屈では理解できる。だが、〈バニシング・シューター〉というのはその程度で防げるほど生ぬるい魔法ではない。

 そうなると、本体の防御力が相当に高い事が見て取れる。


「君は……人間なのか?」


 思わずウィズは口にしていた。

 仮に身体強化魔法〈ストレングス〉で防御力を底上げしたとしても、物事には限度というものがある。

 ヴァールシアはその問いを不思議がることはせず、あっさりとこう言った。


「だから言ったでしょう。私を人間というカテゴリーに入れてほしくない、と」


 彼女は双剣を十字に構えると、魔力と闘気を増大させていく。

 その怖気を彼は知っていたッ!

 あの気が狂いそうなほどに高揚した相手と似たような気配ッ!!


「ま、まさか君はァァァーーッ!?」


「……どうやら無意識に力加減を見誤っていたようですね。この私が、ヒューマン相手に手こずることなどあってはなりません」


「プライドが高いな君はッ! 僕はこのままだと君を殺してしまうかもしれないッ! だからここはもうお互い忘れよう! それで良いだろう! 僕は何度でも言うぞッ! スローライフを求めているんだよッ!」


「そのプライドがあるからこそ私は今までやってきたのですッ!!」


 空気が震え、大地が戦慄わななく。天地全てがヴァールシアの存在を恐れているッ!

 ウィズは思わず涎が出ていた。またあの閃光のような死闘の時間を味わえるのか――頭がそれでいっぱいだった。

 右の剣を天へ掲げ、左の剣を地へ向ける。

 魔力が収縮と膨張を繰り返し、徐々に解き放たれようとしている。


「私はシエル様のためならば身命を賭すと誓った身ッ! スローライフを送りたいなどとぬるま湯につかった貴方になぞ負けるわけにはいきませんッ!!」


 シエルが突撃する。彼女の持つ双剣が二倍ほど伸びていた。その刀身に凝縮されている魔力はもはや一つの爆弾。

 彼は逃げること無く立ち向かう。右手を前方に翳し、ウィズは魔法発動のプロセスを即座に完了させるッ!


「ヒューマァァァァン!!」


「ヴァールシアッッ!!!」


 これから起こる攻防はここら一帯が消滅しても不思議ではない神話の攻防ッ!

 互いに覚悟は決めていた。この数瞬後にはどちらかが倒れている。

 今、最後の攻撃が――!



「待って、ください」



 儚げな少女の声が二人の耳に届いた。

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