第4話 レインボウフレアッ!
ウィズの手に現れた七色の炎の球を見た天使は顔にこそ出さなかったが、驚愕していた。
『あの炎球から感じるパワーは何だ……? このような力、霊長類には人生を何千回繰り返しても到達不可能……ッ! あれは……我らが母を思わせるッ!』
天使は槍を逆手に持ち、投擲の構えを取る。
この一撃こそ母なる星より与えられし“絶対”の一端。たかが霊長類なぞ投擲時の余波だけでその身を塵に出来る。
死と同義の天なる槍を確実に直撃させるため、天使は狙いを定める。
その間にもウィズの手の上で七色の炎が大きく燃えていた。
「あぁ……ッ! 死ぬッ! 死ぬかもしれないッ! おかしくなりそうだッ! でもこれが良いんだッ! 僕にも絶体絶命のピンチというものがあったんだッ! もしこれで死んだとしても、僕は笑顔で死ねるはずだッ!!」
まだウィズは泣いていた。口元は狂気的な三日月型になっていた。
リリウムが背後から叫ぶ。
「うぃ、ウィズさん! 勝てるのですかッ!?」
「分からないッ! 分からないと言えてしまうんだ、この僕がッ! 僕のせいで死んだらごめんねリリウムさんッ! なるべく死力を尽くすけど、もし駄目なら諦めて一緒に死んで欲しいッ!」
「い、嫌だぁ! まだお肉をいっぱい食べられてないのにー!! ウィズさん、その力でお肉を作り出すことは出来ないんですか!?」
「世界はぶっ壊せるけど、それは無理だごめん! というかもうちょっと後ろに下がって! あの天使が投げようとしている槍は容易く君を消滅させられるし、僕の炎は君を一瞬で灰にしちゃうんだ! つまり邪魔! さっさと離れてくれ!」
「そ、そんな! どうしても死ぬじゃないですかー!!」
「集中したい! この中に入っていてくれ!」
ウィズは空いた手をリリウムへ向けた。すると彼女の周りにドーム状の魔力障壁が発生した。
本気の防御魔法だ、これならば一度だけなら世界が滅びる攻撃でも防ぎきってみせる。二発目は分からない。
発動を確認した後、ウィズは天使を見上げる。
「天使ッ! 僕はウィズ・ファンダムハインだッ! もしも君に名があるなら教えて欲しいッ! どちらかが死ぬ勝負だ! どちらかが相手の名を覚えていようじゃないかッ!」
『我は第三級天使フェザラル。貴様を撃滅し、世界の均衡を保ちましょう』
攻撃は全くの同時だった!
天使から放たれた槍は神速を思わせる速度でウィズへ迫る!
ウィズから放たれた七色の炎の球は地獄の門を思わせる悍ましき迫力で天使へ迫る!
互いの攻撃の余波が静止世界へ襲い掛かった! 元の世界ならば既に世界は崩壊している! だが狙われた生命体の生存を許さぬこの静止世界だからこそ、外界への被害は完全なるゼロに抑えられている! 何たる皮肉だろうか!
互いの攻撃が衝突する! 否! そうではない!
『こんな事が……?』
天使フェザラルは目を疑った。疑った、という表現の動作をすることは未来永劫ないはずなのだ、普通ならば。だが栗毛の男が放った七色の炎の球は、本来なかったはずの天使の感情を増幅させる。
攻撃の余波のみで生命体を滅ぼせる光の槍。考えうる限りの極光を凝縮させた光の束。
それが、消し炭になった。まるでタバコの火を足で踏み消すように、あっさりと。
「僕の喜びを乗せた〈レインボウフレア〉ッ! 勝ったのは一体誰かッ!? 最後まで見届けてくれよ――天使ッ!!!」
直進する七色の炎が天使を即座に飲み込み、そして燃え上がるッ!!
この間、天使は光速を超える速度で回避行動を行っていた! だと言うのにこの結果は一体どういう事なのだろうか!?
答えはウィズの放った七色の炎にあったッ!
『何という……!!? 因果律を燃やし尽くし、“炎が直撃した”という結果を強引に現実へと持ってきた……!』
それこそがウィズの切り札〈レインボウフレア〉の一つ目の効果であるッ!
因果律を燃やし尽くし、ウィズが望む結果を引き起こすッ!
そして残る効果とはいかにッ!?
『我の守護階層を全て抜いてきた……ッ!? 馬鹿な……あり得ない! 物理攻撃、魔力攻撃、火、水、地、風の属性攻撃が一度に我に襲い掛かるッッッ!!!』
ウィズ・ファンダムハインの切り札〈レインボウフレア〉とは、一つの炎球に七つの神話的攻撃力を含ませた神殺しの炎なのであるッ!!
ただの炎に非ずッ! これこそが世界をぶっ壊してしまう魔術士ウィズ・ファンダムハインの至高絶技ッ!
たかが霊長類を超越した程度の存在にこの炎を止められるものかッ!!!
七色の炎に包まれる天使が両手を天空へと掲げるッ!
『あり得ないッ……! 報告しなくてはッ! ただの一騎で世界など何度も滅ぼせる第三級天使が赤子の如く扱われたッ! これは世界史に刻まれる異常事態ッ! 主よッ! 我が声を聴けッ! 世界が滅びますッ! この男が存在する限り、世界滅亡の危機は永遠に去りませぬッ! 我が主よッッッ!!!』
燃え盛る天使を見ていたウィズは一瞬たりとも目をそらさぬように、ジッと見つめていた。
「ありがとう天使! 僕は君の強さを敬愛するッ! 君と出会わなければ、僕は一生自分の力を持て余していたよ! だから本当にありがとう天使フェザラルよッ! 誇り高き金の天使ッ!!」
『アアァァァァァァァァァッ!!!』
断末魔の叫びと共に、天使フェザラルはこの世から消滅した。塵一つ残らずに。
その末路を確かに見届けたウィズは
「これで……また、僕は世界を壊さないように出来るよ。全力を出したからこそ、加減を知れた……!」
色が戻っていく世界。新緑の草に水滴が落ちる。
それが一体何なのか、頬が濡れているウィズにしか分からなかった。
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