第5話 襲撃ッ! 幼馴染ッ!
死闘から一時間後の事である。
ウィズは自宅の椅子でくつろいでいた。そこには突然現れた脳みそをタンパク質で支配された女リリウム・センテリオンの姿はない。
話は実に単純で、ウィズの空間転移魔法でコルカス王国の王都へ強制的に帰したのである。
スローライフを送りたいウィズにとって、リリウムは最大の障害であった。あれだけの戦いを目の前にしてはドン引きし、二度と姿を見せようとは思わないだろう――そう、ウィズは考えていた。
「ふぅ……働かないで飲む酒は美味いなぁ」
現在、ウィズは酒盛りをしていた。
シルバ村で造っている果実酒に舌鼓を打ち、その辺で取った兎を焼いて肴としていた。今までの生活ではまず考えられない生活。フレンからもらった退職金は既に家の建設で使い果たしたが、それでも心の余裕だけはあったのだ。
やはり傷ついた心を癒せるのは働かないことだけなのだ。それ以上もそれ以下もない。
グラスを傾けながら、彼は今までの事を思い出す。
フレンのパーティーに入れてもらう前、そして入れてもらった後のことを。
「やっぱりどこまで行っても、僕は僕自身の力に足を引っ張られるんだよな」
ウィズは自嘲する。
まともに力を発揮すれば世界を壊し、力を抑えたらこうしてお払い箱。
瞼を閉じ、先程の天使との激戦を思い出す。
「初めてだった……僕は僕として初めて命を懸けて戦う事が出来た」
閃光のような時間だった。
天使――人知を超えた強さだった。切り札である〈レインボウフレア〉まで解禁したくらいには。あの魔法は生涯人間へ放つつもりはない魔法だった。だが迷わずに選択できた。使わなければ死ぬ。
あのような存在はあれで終わりなのか。それが少し、ウィズには気になっていた。
「まあ、世界の終末でもあるまいし、あんな存在がそう何体もいて堪るかって話だけどね。念の為、防御フィールドを張ったからいきなり攻撃されても安心だけどね」
次の瞬間! 防御フィールドに激震が走るッ!!
「何だァァァァッ!!?」
何かと防御フィールドがぶつかり合う甲高い音。これは魔力と魔力がぶつかり合っている証左である。
外から声が聞こえた。
「ウィズー!!!」
「その声はッ!? うわあぁぁぁ!! 悪魔の声だァァァッ!!?」
忘れたくても忘れられない強烈にして悪魔的な声。
ウィズは今すぐにでも走って逃げたかった。だが、このままでは村にまで被害がいくかもしれない。
彼は拳を握りしめ、外に飛び出したッ!
自宅を取り囲むドーム状の魔力フィールド。その頂点で剣を突き立てる見るも可愛らしい女性の姿有りッ!
「ウィズゥゥゥッ!!!」
「オルフェスゥゥゥッ!!!」
長い紫色の髪と赤いマントをたなびかせ、オルフェスは剣に纏わせた魔力を一段と大きくさせる。
その時点でウィズは撃ち落としたかったのだが、下手に撃てば屋根に傷を付けてしまう。故にウィズは祈った。さっさと帰ってくれ、と。
「今までどこに消えていたのよぉッ!」
「お前にだけは言いたくないッ! 帰れッ!」
「帰れと言われて帰る人はいないッ! お邪魔するわよーッ!」
剣の切っ先から魔力が更に大きく迸った。すると魔力はオルフェスを包み込み、そのまま強引に防御フィールド内への侵入を完遂させたッ!
上空から降ってくるオルフェス。騎士の誇りである剣は適当に放り投げ、四肢を思い切り広げ、大の字になった。
「落ちるッ! 死ぬッ! 受け止めてッ!」
「落ちろッ! 死ねッ! 受け止めるかッ!」
放り投げた剣が地面へ刺さる。オルフェスは一向に受け身を取る気配はない。
そのまま見捨てればもう会うことはない。そのまま背を向けるだけでいい。それだけで――。
「……〈エアロ〉」
優しいつむじ風がオルフェスを捉えると、そのまま彼女をゆっくりと地面へ降ろした。
すぐに彼女はウィズの元へと走り出した。
「ウィズぅ~! 久しぶり~! 助けてくれてありがと~!」
「離れろ悪魔の子め!」
「なんでそんなこと言うの!? 仲良しなのに~!」
「いつから僕とお前が仲良しになったんだよ! 適当に動いて、適当な死線に放り込みやがる君が!」
「私がいたからいつも平気でしょ? というかウィズが本気出してくれれば大抵は何とかなるじゃん」
「この世界何度か壊すことになるんだぞ! 本気なんて出せるか!」
すると、オルフェスは唇を尖らせた。タレ目気味の瞳はウィズへ抗議の視線を送り続ける。
彼は何と返そうか考えていると、遠くからこれまた知っている声が聞こえた。
「軍団長ー! 軍団長ー! 待ってくださいよぉー!」
「り、リリウム・センテリオン……!? お前も来たのか……!?」
頭痛が酷くなった。
さっさと二人ともお引取り願おうと、ウィズはオルフェスの方を向いた。
「リリウム、遅いですよ。軍人たるもの、常に神速を心掛けなさい」
「はい! 肝に銘じます! ありがとうございます軍団長!」
(おや?)
二人のやり取りを聞いて、何だか妙な違和感を覚えた。
モヤモヤしたままだと気持ち悪い。彼は思ったことはすぐに口に出すタイプだ。それに則り、ウィズはオルフェスへストレートに質問した。
「なあオルフェス、何で君、そんな仰々しい口調に――」
「ウィズ・ファンダムハインさん!? ちょっとお話しましょうか!? 主にリリウムの前に立つ私の話をッ!」
「え、ええっ!? 願い下げだよ……!」
だが、肩をガッチリと組まれてしまっては逃げ出す術はない。
世知辛い世を感じながら、ウィズはオルフェスに引きずられてしまう。
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