2、突然の訪問

第4話 美幸、達也の家に泊まる

俺と美里と美幸は3人で1つだった。

それぐらい仲が良かったのである。

その証として俺達はとある物を交換し合っている。


小春は所謂.....ブローチだが俺は懐中時計を持っている。

所謂、金とかで出来ている懐中時計では無い。

玩具の懐中時計だ。

他の奴らから見れば安物である。


これは美里と美幸の持ち物だった様だが。

そして丁度、美里はかんざしを。

美幸は櫛を持っている。

それは交換し合った物だ。


大切な.....とても大切な宝物だ。


「.....しかし.....それはそうと美里があそこまで.....」


俺はリビングで思いながら.....動かない懐中時計を見る。

もう既に壊れてしまい時を刻む事は無い。

だけど俺にとっては.....忘れられない品物だ。

最後に交換した.....大切な、だ。

それからめっきり話さなくなったけど。


「.....」


「お兄ちゃん」


「.....おう。どうした。小春」


「何だかこのブローチ.....調子が悪いの。見てくれない?」


「.....分かった。でも俺は職人とかじゃ無いからよく分からんぞ」


「良いの。お兄ちゃんだから.....見てもらえればそれで」


俺は柔和に顔を綻ばせる。

笑みを浮かべる小春。

全くな.....こんなに仲の良い兄弟ってのも珍しいよな本当に。


思いながらもう古ぼけているブローチを見る。

しかしこの世界にこの(玩具だが)ブローチは恐らく.....3つしか無いだろう。

何故なら特注品の様に見えるしな。

高い物だろう。


「ね。お兄ちゃん」


「.....どうしたんだ。小春」


椅子を持って来て膝に頬杖してから俺を見てくる小春。

それからニコニコした。

俺は首を傾げながらその姿を見つめる。

小春は少しだけ複雑な顔をした。

だけど直ぐに笑みに変わる。


「.....正直。.....嬉しかった。.....とっても嬉しかった。.....また.....話せた事。.....美里お姉ちゃんと」


「そうだな。.....確かにな。何か柔和になっていたよな。美里」


「.....だね。ふふっ。嬉しいけど.....複雑」


「.....まあ確かにな」


これまでのクールな感じがあの下着見せ事件でぶっ壊されたしな。

何だか.....インパクトがあるな.....、って思う。

頭打ったせいなのか分からんが。

しかし.....異常は全く無いらしいけど。

何がどうなっているのだろうな。


「.....私は期待してる。.....また仲良くなれるじゃないかなって」


「.....そうだったら良いけどな.....」


「.....絶対に仲良くなれるよ。.....だって私達だもん」


「.....そうか。.....お前の顔を見ているとそんな気がしてくるよな。本当に」


俺は思いながら.....小春を見る。

小春も俺をニコッとしながら見つめる。

すると.....リビングの窓がコンコンといきなりノック.....された。


え?、と思いながら顔を上げると。

そこに......何故か美幸が立っていた.....え!?

いや何でだよ!!!!!


『すいません。ここ.....鍵を開けてもらえますか』


「美幸!?お前何しているんだ!」


『いや。玄関から入ろうと思ったのですが.....お父様から外に出る許可が出なくて。.....その。家伝いで来ました』


「.....な、成程.....」


俺はビックリしながらも納得する。

確かにな。

庭が近いからこんな事も出来るしな。


だけど.....こんな事を美幸がするのは久々だ。

話さなくなってぶりじゃないか?

考えながら鍵を外して中に招いてみる。

すると頭を律儀に下げてから俺達に向いてきた。

小春が期待混じりに聞く。


「美幸お姉ちゃん。どうしたの?」


「はい。実は.....お母様からのお預かり物があります。.....お菓子の包みです。.....お姉様の件で」


「.....ああ。成程な。それでお礼って事か」


「そうです」


そんな会話をしていると。

小春が美幸に抱き付く。

それからキラキラと目を輝かせた。

そして、お姉ちゃん!、とまるで幼子の様に笑顔を浮かべる。

困惑する美幸。


「離して下さい.....小春さん」


「嫌〜。だってお話ししたの久々だもん」


「.....」


そうだよな。

小春.....何時も無視されていたしな。

思いながら.....その光景を見つめていると。

そ。それじゃ私はこれで、と美幸は恥ずかしがりながら俺に荷物をさっさと渡してから直ぐに去ろうとした。

だがそうして踵を返すが。

小春が窓際に先回りしてニヤニヤして手をワキワキ動かす。


「.....返さないよ。お姉ちゃん」


「.....小春。それは美幸に迷惑が.....」


「そうですよ。私だって用事が.....」


「でも私に会って.....何だか嬉しそうだけど美幸お姉ちゃん」


そ。そんな事、と言う美幸にイヤイヤ期の様にしがみ付いて話さない小春。

それに呆れた?感じの美幸は、分かりました、と俺に向く。

俺は少しだけビクッとしながら汗を流す。

すると美幸は、今晩泊めてもらっても.....良いですか。昔みたいに、と言ってくる。

その姉譲りのクールな感じで、だ。


「.....わ、分かった。うん」


「.....べ、別に小春さんの為では無いですから」


だが恥じらっているその姿を見ていると.....その。

小春の為に見えて仕方が無い。

思いつつ.....俺は苦笑しながら美幸を見る。

美幸は俺をチラチラ見ていた。


「.....どうした?美幸」


「.....どうも無いです。別に.....」


「.....???」


何か赤面で俺に対して言いたそうな感じだったが。

そのまま黙りこくってしまった。

俺は何も聞かない事にする。


そして何故か知らないが美幸がいきなりこの家に泊まる事になった。

久々に、だ。

母親にも連絡している様だが.....マジ卍.....。

まさか美幸がいきなり泊まるなんて.....。

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